EY Advisory & Consulting Co., Ltd. コンサルタント
内藤 嘉章さん
コンサルタントを務める内藤嘉章さん(27)が華やかなオフィスに現れた。案内されたのは霞が関のビルの32階。低い雲が垂れ込め、風に流されていく。大きな窓からは、そびえ立つ文科省や金融庁のビルが見える。
内藤さんは名古屋大学工学部を卒業し2012年春、東京大学宇宙線研究所に入学した。観測的宇宙論グループで研究に励み2014年春に修士号を取得。その後、ドイツのマックスプランク研究所に半年間留学し、博士課程を1年終えたところで中退。2015年春からコンサル業界で働いている。
「この業界では様々な情報を整理してロジックを組み立てることが求められます」。研究で培ったスキルがそんなときに活きる、と内藤さんは語る。在学中はハワイの標高4200メートルの山頂にあるすばる望遠鏡の観測データを解析し、初期宇宙の銀河形成について探究。直径8.2メートルの一枚鏡が集めた膨大なデータを手がかりに、光る情報を探し出し、磨き上げた。
修士号を取得後、語学留学を考えていた内藤さんにある先生が声をかけた。「それなら、おれの研究を手伝えよ」。マックスプランク研究所に誘われた。自分の思いが伝わらない。相手の考えもわからない。最初は言葉の壁におどおどした。しかし、時間が立つにつれ、壁は幻だと気づいた。「自分は頑張って聞こうとしている。わからなかったらごめんね」。動揺しなくなった。
修士論文の提出前、研究はとても面白かったが、何かが心に引っかかった。「人の役に立てているのか」。社会の構造を俯瞰的に見てみたい。自分の能力しだいでステップアップできる企業に入りたい。緻密な情報整理の経験と海外で身につけた度胸を引っさげ、コンサル業界に飛び込んだ。
「ここは違うんじゃないか」。入社1年目、内藤さんたちのチームが提案した中長期事業計画に対して、顧客の社長が重々しく言い放った。内藤さんの思考に急ブレーキがかかる。即座に反応できなかった。同席していた上司がその場を収めてくれたが、悔いが残った。「徹底的に考えつくさないと」
入社2年目の春から、新規プロジェクトの担当に抜擢された。大企業では一年間に数百個のプロジェクト案が立ち上がる。どのアイディアに投資すべきか。誰かひとりの独断で決めてはいけない。どのような論理で絞り込むべきか。内藤さんは客観的かつ公平なルール作りを考える。「仲間と連携していかに情報を拾い上げられるかが重要だと感じます」
顧客には大企業が多い。面白い技術がすでにあって、それをどう広めるか。つまり今の仕事は「すでに100あるものを110に拡大する」ことだ。将来を見据えて内藤さんの思いは膨らむ。「いつかまったく新しいサービスを、0から1に生み出してみたい」