【記者会見】「国際宇宙ガンマ線天文台CTAの大口径望遠鏡1号基建設へ」 ―超高エネルギーガンマ線天文学の新たな時代の幕開け―

トピックス

東京大学宇宙線研究所が推進主要機関の1つとして研究開発計画を進めている国際宇宙ガンマ線天文台 (CTA)は、宇宙ガンマ線の高精度観測により、宇宙線の起源(注1)、ブラックホール周辺のさまざまな物理現象(注2)、また未だに謎の多いガンマ線バースト(注3)の解明、そして暗黒物質(注4)の検出に挑戦するものです。このたび、宇宙線研究所は、スペイン・カナリー宇宙物理研究所と「大口径望遠鏡1号基に関する覚書」を交わし、2015年9月より、カナリー諸島ラパルマに、日本が中核を担う予定の大口径望遠鏡の第1号基の建設・設置を開始することになりました。2016年11月にはこの1号基を完成させ、最初の観測を行うことを目指しています。

日 時: 平成27年3月18日(水) 10時30分~11時30分
場 所: 東京大学本郷キャンパス 伊藤国際学術研究センター3階 特別会議室
発表者: 手嶋 政廣 (東京大学 宇宙線研究所 教授・CTA大口径望遠鏡プロジェクトリーダー)
陪 席: 梶田 隆章 (東京大学 宇宙線研究所長)

(注1)宇宙線の起源: 
宇宙空間には高エネルギーの粒子が飛び交っており、これらを宇宙線と呼びます。その発見からすでに100年以上になりますが、未だにその起源については不明な部分が多く残っています。近年、宇宙線のうち1015電子ボルト 以下のものは、私たちの銀河内の超新星残骸で加速、生成されていることが高エネルギーガンマ線観測からわかってきました。

(注2)ブラックホール周辺の物理現象: 
今までに観測されたブラックホールは、太陽質量程度の小さなものから、太陽質量の10億倍程度の巨大なものまで存在します。しかし、これら観測されているブラックホールの多くは超高速のプラズマジェットを噴出し、ガンマ線でぎらぎらと輝いています。ガンマ線で見ると、光までも飲み込む暗黒のブラックホールとは異なる姿が見えてきます。

(注3)ガンマ線バースト: 
1日に一度程度、数秒から数百秒にわたるガンマ線のフラッシュ(爆発的なエネルギー放出)が深宇宙で起こっています。その起源は、中性子星の合体や、超大質量星による巨大な超新星爆発であると考えられていますが、いまだ多くの謎につつまれています。最近では、光赤外、X 線望遠鏡により残光が測定され、多くのガンマ線バーストが宇宙論的な距離で発生していることがわかり、非常に大きな爆発現象(大量のエネルギーの放出現象)であることがわかりました。ガンマ線バーストは、ビッグバン以降の宇宙での、最大の爆発現象であるといえます。

(注4)暗黒物質: 
暗黒物質の最有力候補は、超対称性粒子のうち最も軽く安定した素粒子であると考えられています。これら超対称性粒子は弱い相互作用しか関与しませんが、この超対称性粒子は粒子と反粒子が同一で、銀河中心のように暗黒物質が多く集中している場所では、暗黒物質同士がお互いに衝突し、対消滅をおこすと思われます。その時、これら暗黒物質の静止質量がE=mc2に従いエネルギーに変換され、クォーク、電子、ガンマ線等の素粒子が生成、放出されます。また、この超対称性粒子の質量はおよそテラ電子ボルト程度であると考えられ、まさにテラ電子ボルトのガンマ線が放出されると予測されます。

※CTAの概要に関してはCTA-Japanからご参照ください。

※プレス用CTA概念図その他の画像は、こちらよりダウンロードいただけます。

問い合せ先 

・CTAについて
 CTA大口径望遠鏡プロジェクトリーダー
 東京大学宇宙線研究所 教授 手嶋 政廣

・宇宙線研究所について
 東京大学宇宙線研究所 広報担当 林田 美里
 TEL:04-7136-5148
 E-mail:misato◎icrr.u-tokyo.ac.jp(◎を@にご変換ください)

CTA計画の概要 

ガンマ線宇宙物理学は今まさに飛躍的発展の時代を迎えています。現在地上テラ電子ボルト(以下「TeV」)ガンマ線(注4)観測装置であるHESSやMAGIC望遠鏡などが次々に新天体からのガンマ線を報告しており、その結果、宇宙はわれわれの想像をはるかに超える高エネルギー現象に満ちていることがわかってきました。「テラ電子ボルトガンマ線天文学」は今や完全に確立し、創成から発展の時代へと移りつつあります。国際宇宙ガンマ線天文台CTA(Cherenkov Telescope Array)は、世界の協力で実現をめざす次世代の公開TeVガンマ線天文台であり、世界28カ国から1,200名以上の研究者が集結し、その建設準備をすすめています。

CTAは、世界で唯一の大規模なTeV ガンマ線望遠鏡として、現在より一桁以上高い感度と優れた角度分解能を達成し、広いエネルギー領域をカバーすることで、1,000を超える高エネルギー天体を研究し、超高エネルギーガンマ線天文学を推進しようという野心的な計画です。日米欧の高エネルギー宇宙物理学者らを中心に検討を行い、望遠鏡開発をすすめてきました。実現すれば、1,000を超えるTeV ガンマ線天体の発見が期待され、ガンマ線物理学のみならず、高エネルギー宇宙物理学全体を大きく牽引することになります。

CTAは、大中小の多数のチェレンコフ望遠鏡群(注5)からなり、4桁にわたる広いエネルギー領域を TeVガンマ線で観測します。また、南半球と北半球それぞれに1ステーションずつ設置され、全天の観測を行います。TeV ガンマ線は人間の目で見える可視光より12桁も高いエネルギーの光子であり、超新星残骸(注6)、ガンマ線バースト、超巨大ブラックホール(注7)など宇宙でおこるさまざまな爆発的現象や、極限的な環境で起こる激しい変動現象など、高エネルギー現象を明らかにします。

図1 CTA(Cherenkov Telescope Array) 完成予想図。中央に大口径望遠鏡が設置されその周辺部に中口径、小口径望遠鏡が設置され、10ギガ電子ボルト から100テラ電子ボルト領域の宇宙ガンマ線が観測される。
(クレジット:CTAコンソーシアム)CTA大口径望遠鏡 

23m 口径の大口径望遠鏡は、南北のCTA大規模アレイの中央部に、それぞれ4基ずつ設置され、20ギガ電子ボルト から1000ギガ電子ボルト のエネルギー領域でガンマ線観測を行います。東京大学宇宙線研究所を中心とする日本の研究グループにより、この最も高い要求性能をもつ大口径望遠鏡を主導的に開発してきました。この大口径望遠鏡は、23m 口径の大きな主鏡により、大気中に突入したガンマ線が引き起こす空気シャワーから、より多くのチェレンコフ光を測定し、高精度にガンマ線を観測できるだけでなく、微弱なチェレンコフ光しか放出できないエネルギーの低いガンマ線まで検出が可能となります。これにより、宇宙初期に生まれた高エネルギーガンマ線天体まで観測の対象を一気に広げます。現在は宇宙が誕生してから66億年経った宇宙しかみえませんが、CTAでは宇宙誕生後16億年の若い宇宙が見えます。

日本の研究グループは、総面積400m2となる高精度かつ高反射率の分割鏡および分割鏡を制御するアクチュエーターによる制御システム、および高量子効率の光センサーからなるカメラ部を担当し、科研費特別推進研究のサポートを受けて開発を進めてきました。

このたび、大口径望遠鏡1号基がカナリー諸島ラパルマにあるカナリー宇宙物理研究所の有するロケ・ムチャチョス天文台に設置されることが決定し、そのカナリー宇宙物理研究所と東京大学宇宙線研究所との間で覚書を交わし、調印を3月末に行います。

図2 CTA大口径望遠鏡。23m口径の主鏡。日本、ドイツ、フランス、スペインのグループが主に開発を進めてきた。日本の研究グループは望遠鏡主鏡部分、カメラ、光センサー、回路を担当している。
(クレジット:CTAコンソーシアム)

(注4)超高エネルギーガンマ線(テラ電子ボルトガンマ線): 
可視光の1兆倍のエネルギーをもつ光子で、現在の天文学の中で最も高いエネルギー帯域です。また、世界最大の人口の加速器、CERNの大型ハドロン加速器で加速される粒子のエネルギーに相当します。宇宙には、自然の加速器(超新星残骸、ガンマ線バースト、超巨大ブラックホール等)が多く存在し、効率良く粒子加速を行い、テラ電子ボルトガンマ線を放出しています。

(注5)チェレンコフ望遠鏡:
超高エネルギーガンマ線は大気中に入射すると、大気中の原子核と衝突し、そのエネルギーが高いために、多数の子粒子、孫粒子、ひ孫粒子にこわれます(空気シャワーと呼ぶ)。この空気シャワー中の粒子はチェレンコフ光を微弱な青い閃光(フラッシュ)としてビーム状に放出します。チェレンコフ望遠鏡は、反射鏡によりこれらチェレンコフ光を集光し、それらのイメージを高感度の光センサーにより検出し、ガンマ線の到来方向、エネルギー等を高精度で決定します。

(注6)超新星残骸:
太陽質量の10倍を超えるような大質量の星は、その星の一生の最後に、星の質量を支えることができなくなり、星の中心部が重力崩壊します(重力的につぶれる)。このときに、星の中心部には、コンパクトな中性子星、またはブラックホールが生成されますが、コンパクトになることにより重力エネルギーが解放され大爆発をおこします。その結果、星の外層部が吹き飛ばされ、それが広がり超新星残骸となります。この超新星残骸は、光の速度の1/30程度で広がっており星間空間に衝撃波を生成します。そのエネルギーにより宇宙線を加速し、ガンマ線を放出していることがわかってきました。

(注7)超巨大ブラックホール: 
多くの銀河の中心には、超巨大ブラックホールが存在します。私たちの銀河の中心にも、太陽質量の300万倍程度の巨大なブラックホールが存在することがわかっています。超高エネルギーガンマ線を放出するような活動的な銀河の中心には、太陽質量の1億倍から10億倍、またそれ以上の質量をもったブラックホールが存在することがわかってきました。このようなブラックホールは、周囲の星やガスを飲み込み、そこで得られる重力エネルギーの一部を超高速のプラズマジェットとして放出します。このジェット中で宇宙線が加速され、ガンマ線が放出されるのです。活動銀河核からの超高エネルギーガンマ線はその強度が激しく変動しています。