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宇宙線研究所

私と科研費 若手研究者インタビューInterview

観測的宇宙論グループ 助教 播金 優一さん

CEO
ジェイムズ・ウェッブ望遠鏡で切り拓く遠方銀河の研究

僕たちは遠方銀河の研究をしています。宇宙は138億年の歴史がありますが、宇宙の初期の時代に銀河の赤ちゃんが生まれて、長い時間をかけて成長して現在の宇宙にあるような立派な銀河になったと考えられています。そのような銀河がどのように誕生して、どのように進化したかを知りたくて研究しています。宇宙で最初の銀河は理論的には136~137億年前、宇宙が誕生して1~2億年にできただろうと言われているのですが、実際にどの時代にできたのか、生まれた時の銀河はどんな姿だったのかは、全然わかっていないんです。僕たち観測研究者は、大型望遠鏡で取られた観測データからこれらを調べようと、どんどん昔の銀河を探しています。
大学院生のときはすばる望遠鏡のデータを使って120~130億年前の銀河の研究をしていました。すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡も遠方の銀河を探すのが得意ですが、それでも133~134億年前までです。でも僕たちが本当に見たい時代は、宇宙で最初の銀河ができた136~137億年前です。すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡は観測できる波長範囲が限られていて、近赤外の1.6マイクロメートルくらいまでです。でも宇宙では赤方偏移と呼ばれる現象が起き、遠くにいる昔の天体ほど宇宙の膨張の効果を受けて光の波長が伸びてしまいます。例えば135億年前の銀河からでた光が紫外線だったとしたら、135億年かけて僕たちの地球に届く間に宇宙の膨張の効果で紫外線から可視光も通り越して赤外線になってしまいます。すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡だと赤方偏移した波長の長い光をみることができなくて困っていたところ、2021年にジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が無事打ち上がりました。アメリカ、ヨーロッパ、カナダが中心になって、人類が一番お金をかけた、1兆円かかっている巨大な望遠鏡です。JWSTはこれまでよりもっと長い赤外線の波長で観測できる望遠鏡で、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡では見えなかったような昔の銀河もどんどん見えてきています。非常に楽しい時代です。
2022年の7月中頃にJWSTの最初のデータが公開され、世界中の研究者が一斉にデータにアクセスして、1か月のうちに100本近い論文が出ました。後で分かったことなのですが、僕たち以外にも昔の銀河を探そうとしているグループが世界中に9つありまして、計10グループが同じようなことをしているという熾烈さでした。データが公開されて1週間は、睡眠時間を削りながら頑張って研究していました。朝4時にすごい銀河を見つけたと思ったら、すでにヨーロッパとアメリカのグループがその銀河について論文を書いていたということもありました。厳しい世界ですが、それだけ皆JWSTのデータに夢中になっているということですね。出てくるデータにはどれも驚きがたくさんつまっています。JWSTの観測によって、宇宙の初期の姿はJWSTが打ちあがる前に我々が想像していたものとはかなり違うことがわかってきました。例えば、昔の宇宙に行くと銀河は小さいですし、階層的構造形成とかの文脈で行くと昔の銀河の数は少ないだろうと思っていたのですが、そういった予想より10倍くらいたくさん銀河がいることが分かりました。銀河だけではなくて、昔の宇宙の巨大ブラックホールもたくさん見つかっていまして、すばる望遠鏡でクエーサーを手掛かりに予測していた数の50倍くらい巨大ブラックホールがいるようです。宇宙線研究所には大内先生、小野先生といったエキスパートもそろっていまして、どうしたら世界にいるライバルたちの一歩先を行くような研究ができるのだろうと日々議論を重ねています。
 

これまでの申請経験を振り返って

今回、若手の2回目と基盤Aを初めて出しました。若手1回目がちょうど昨年度に終わって、普通は若手2回目に出すわけです。ただ今JWSTですごい業界が盛り上がっているので、ちょっとステップアップしてもいいかなと思って調べたところ、若手と基盤Aは重複応募できることが分かって、せっかくだから大きな計画もやってみようと基盤Aにも出しました。JWSTで昔の銀河をどんどん見つけていくというメインのテーマはいっしょなのですが規模が違います。採択通知では基盤Aは通りました、若手は採択相当でしたが基盤Aが通っていたのでリジェクトしました、というふうに書かれていました。
いろんな先生もおっしゃっていますが、テーマ選びがとても重要で、いいテーマを選ばないとたぶん書きづらいし気分も乗らないですよね。重要かつ説明が分かりやすいテーマだと審査員の受けもいいのかなと思います。今回のJWSTは業界も盛り上がっていますし、昔の銀河を探して分からないことがたくさん出てきた、だからどんどん研究を進めようという流れでいろいろな人が重要だと思うテーマだったので、科研費の申請書は非常に描きやすかったです。若手1回目の時は実は宇宙論っぽいテーマでしたが、これまで別々に進んでいた宇宙論と遠方銀河の研究を合体して新しいものを切り開いていくようなテーマで、これも良いテーマだったように感じています。
国際先導研究の分担者にも入れてもらっています。タイトルは「宇宙における天体と構造の形成史の統一的理解」というもので、星や銀河、銀河団も含めたとても広いテーマです。その中に重要なコンポーネントの人をポンポンと入れていって、その中に僕も入れてもらったという感じですね。
国際先導の提案書を書いていく流れを僕も見ていて手伝いましたが、大きい科研費はこういう書き方をするのだと非常に勉強になりました。特に、重要なことを分かりやすく説明していく一方、あまり細かすぎることまでは説明しない、という文章の書き方は、基盤Aを書くときに生かせました。国際先導でもいろいろな先生に見ていただいてコメントもらってみんなで文章をインプルーブしていった流れがあって、今回の基盤Aも研究分担者の大内先生、小野先生にも見てもらいながら文章・図を作っていきました。

今後の抱負など

今は円安、インフレで航空券代、ホテル代も上がっていましてなかなか大変な時代になってきました。
論文投稿料も上がって研究費はカツカツです。実は若手1回目の研究費は昨年度の初めには既になくなっていて、でもいろいろな国際会議に呼んでいただいて海外出張の予定はある、どうしよう、困った、という状況でした。それでいろいろ調べて財団系の研究費助成に申請して、数個採択されてなんとか首の皮がつながりました。中畑前所長に紹介していただいた山口育英奨学会と、自分で見つけた住友財団、伊藤科学振興会です。本当にこの3つのおかげで、昨年度は生き残れました、助かりました。
今JWSTの素晴らしいデータが出てきて、研究が盛り上がっているところで基盤Aが採択されたので、非常にいいタイミングだったと思います。これまでの研究成果は宇宙線研からプレスリリースもしていただきました。テレビなどで取り上げてられると家族や親戚がよろこんでくれるので非常に嬉しいですね。採択してもらった科研費を生かして、今後もみなさんに興味を持ってもらえるような面白い研究をして、引き続き遠方銀河の研究をリードできるように頑張っていきたいと思います。

           

科研費と私 過去

     
2023年インタビュー
重力波観測研究施設 兼 高エネルギー天体グループ 助教 川口 恭平さん
現マックス・プランク物理学研究所Senior Scientist
2022年インタビュー
神岡宇宙素粒子研究施設 特任准教授 平出 克樹さん
2021年インタビュー
理論グループ 准教授 伊部 昌宏さん
2020年インタビュー
TA 兼 チベットグループ 助教 川田 和正さん
2019年インタビュー
神岡宇宙素粒子研究施設 助教 竹田 敦さん(2020年2月准教授に昇任)
2018年インタビュー
観測的宇宙論グループ 准教授 大内正己さん
(2019年8月より宇宙線研究所と国立天文台のクロスアポイントメント教授)
2017年インタビュー
チェレンコフ宇宙ガンマ線グループ 助教 大石理子さん、特任助教 齋藤隆之さん
(齋藤さんは2024年4月准教授に昇任)
2016年インタビュー
神岡宇宙素粒子研究施設 准教授 関谷洋之さん
2015年インタビュー
重力波推進室助教 山元一広さん(2017年2月より富山大学理学部物理学科准教授)

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