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宇宙線研究所

私と科研費 若手研究者インタビューInterview

神岡宇宙素粒子研究施設 特任准教授 平出 克樹さん

CEO
ハイパーカミオカンデのプロジェクトマネージャーとして

 私は2009年に学振PDとしてXMASSに参加し、2010年に特任助教になってから10年間は暗黒物質直接探索実験をやってきました。2020年5月から特任准教授としてハイパーカミオカンデ(HK)をやっています。HKは2020年2月に予算化されて建設がスタートし、HK検出器を設置するためのアクセストンネルや空洞の掘削が進んでいます。その後、HK検出器を設置するのですが、光センサーや電子回路、データ収集システム、較正装置など色々な要素がありそれを全部くみ上げてひとつの大きな検出器にする必要があります。現在の私の役割としては、各グループ間の技術的な調整、スケジュール管理などの調整役をしています。HKに参加する前はXMASSやXENONnTで現場の仕事をしていたので、マネジメントの仕事は今回初めてで、慣れない中勉強しながらやっています。HKは日本も入れて20カ国から500人くらいの研究者が参加して、それぞれ色々な要素を担当していますけれども、そういった調整の他に、各国での予算要求の支援もしております。年に2回、各国の予算機関の代表の方を招待してFinancial Forumという会議をしていますが、その裏では各国ごとにいろいろと調整しているわけです。

採択された若手(A)、基盤(B)・(C)、新学術領域の2件の公募研究について

 これまでに研究代表者としては、若手(A)、基盤(B)・(C)、新学術領域の公募研究に2回採択されました。これらはほとんど暗黒物質直接探索実験に関していただいたものです。 最初に採択頂いたのは新学術の公募研究でした。XMASSは液体キセノンを使った暗黒物質直接探索実験ですが、XMASS検出器を使って超新星爆発からのニュートリノを観測しようというものでした。超新星爆発からのニュートリノ観測ではカミオカンデ、スーパーカミオカンデ(SK)が第一人者ですが、XMASSはこれらに比べるとすごく規模は小さいものの、SKでは観測できないニュートリノ原子核コヒーレント弾性散乱という反応を使って超新星ニュートリノを観測しようというところが特徴的でした。XMASSの主目的の暗黒物質ではなくて、違うタイプの現象を探すという独自の研究テーマだったので興味をいただいたのかなと思います。

 若手(A)もXMASSですが暗黒物質ではなくニュートリノに関する研究でした。ニュートリノがマヨラナ粒子であるかどうかを調べる手段として、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊(原子核が2つのベータ線を同時に出して別の原子核に壊変する現象)の探索があります。それに似た現象として、原子核が2つの軌道電子を同時に捕獲して別の原子核に壊変する二重電子捕獲という現象もあります。若手(A)の研究ではこの二重電子捕獲に着目しました。XMASSの800日分の観測データを用いてキセノン124原子核の(ニュートリノを伴う)二重電子捕獲を探したのですが、残念ながら有意な信号は見つかりませんでした。ただ、間もなくしてイタリアのグランサッソ国立研究所の暗黒物質実験XENON1Tで探索して見つかりました。XMASSでもたぶんもう少しだったのですが、XMASSの場合信号エネルギー領域に近いところに別のバックグラウンドがあって、そのため探索が難しかったという事情があります。ちょっと悔しい思いをしました。

 2017年12月にXMASSグループから数名がXENON1Tの後継実験であるXENONnT実験に参加しました。基盤(B)ともうひとつの公募研究は、同様のニュートリノ研究をXENONnT実験でやろうとして2019年度に頂きましたが、そのあと2020年度からHKに異動になったため1年間で残念ながら辞退させていただきました。若手(A)の研究ではXENON1Tである意味ライバルだった人たちと、XENONnTで一緒にやりましょうということでその後仲間になりまして。個人的にはニュートリノ研究がメインテーマですが、暗黒物質も気になっていますし、時間があれば両方やりたいですが、なかなか…。

 現在執行中の基盤(C)は、部材表面から出てくるアルファ線を測定するアルファカウンターに関する研究です。暗黒物質などの極稀な現象を探す実験はいろいろなバックグラウンドを究極まで減らさないとなかなか現象自体を見つけられないのですが、バックグラウンドを減らすのはかなり大変です。検出器を構成する様々な部材もそれぞれ放射線量を測って、非常に放射線量の少ない部材だけを使って検出器を作るというのが普通ですが、そもそも放射線量の測定装置自体を低バックグラウンドにする必要があります。7~8年前にXMASSで低バックグラウンドアルファカウンタを導入して神岡の地下に設置していますが、もっと感度を高めたいということで研究させて頂いています。将来的ないろいろな実験で役に立つと思っています。  

採択されるのに必要な心構えとは

 私自身、最初の何年間か科研費に応募しても通らない時期があったのですが、その経験を踏まえると、科研費で応募した研究が最終的にどういう物理に役に立つのか、どういう物理を目指したいのかというのが伝わるように書くのがいいかなと思っています。最初はそれができていなかった。また自分の経験では、やっぱり何か、物理でもちょっと個性が出た方がいいのかなという気はします。私の場合、XMASSという暗黒物質探索実験だけれどもニュートリノを観測するだとか、ですね。そういうのは、普段からarXiv等でこの物理面白そうだなという情報収集するとよいかもしれないですね。若手(A)の研究も、XMASSグループとして暗黒物質に集中していた時期に、別のこともできるのではないかと思っていて、arXivでいろいろな論文を見ていた時に見つけて、面白そうだからXMASSでもやりたいなと始めた研究です。

 最初の頃は文章の構成も下手だったと思います。自分の中では、こういう改造を行ったらこういうことができるようになる、だから最終的にこういう物理ができるようになるというロジックがあっても、それを文章にするところはうまくできてなかったと思います。他の方の申請書を見せて頂いたり、第三者に事前にチェックをしていただいたりして、勉強になりました。今では時間があれば他の方の申請書を見ることもあります。毎年応募のスケジュールの〆切のギリギリになって申請書を慌てて書く感じになってしまうので、スケジュールに余裕をもって始められたらいいかなと思っているのですが、なかなか難しいですね。

今後の抱負など

今HK建設を始めたところで観測開始は2027年です。HKはSKよりさらに性能を上げていかなければなりません。いきなり2027年からSKを超える性能を達成するのは難しく、そうは言ってもあと5年くらいありますので、今のSKの性能をもっと向上させる研究を通して次のHKの性能向上にも役立てたいと思っています。そういったところをこの4~5年、HK建設と並行して考えていければといいかなと思います。実験装置のいろいろなコンポーネントをそれぞれ開発している段階で、それぞれに今のSKよりいいものをというのもありますが、くみ上げた後にそういう性能がでるかというのはまた違う問題なので、くみ上げたときに一つの検出器としてちゃんと性能を出したいですね。

           

科研費と私 過去

     
2021年インタビュー
理論グループ 准教授 伊部 昌宏さん
2020年インタビュー
TA 兼 チベットグループ 助教 川田 和正さん
2019年インタビュー
神岡宇宙素粒子研究施設 助教 竹田 敦さん(2020年2月准教授に昇任)
2018年インタビュー
観測的宇宙論グループ 准教授 大内正己さん
(2019年8月より宇宙線研究所と国立天文台のクロスアポイントメント教授)
2017年インタビュー
チェレンコフ宇宙ガンマ線グループ 助教 大石理子さん、特任助教 齋藤隆之さん
(齋藤さんは2019年9月より助教)
2016年インタビュー
神岡宇宙素粒子研究施設 准教授 関谷洋之さん
2015年インタビュー
重力波推進室助教 山元一広さん(2017年2月より富山大学理学部物理学科准教授)

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