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宇宙線研究所

私と科研費 若手研究者インタビューInterview

TA 兼 チベットグループ 助教 川田 和正さん

CEO

私は今3つのプロジェクトに参加しています。ひとつは最高エネルギー宇宙線を観測するTA実験、それから高山で高エネルギーガンマ線と宇宙線を観測するチベットASγ実験、南米ボリビアで準備中のALPACA実験です。
TA実験には2012年に参加し、それまでのチベットASγ実験での経験を生かすような形で、主に宇宙線の到来方向の片寄り、異方性を調べて、最高エネルギー宇宙線の起源を特定するという研究を行っています。チベットASγ実験は学生の頃から長くやっていまして、太陽方向からやってくる宇宙線を使った太陽磁場の研究と、銀河系内からやってくるガンマ線を観測する研究をやってきました。ALPACA実験では、チベットと同様の装置を南米ボリビアに設置して、銀河中心方向を含む南半球で見える天体の観測を推進するために準備を行っています。銀河中心は活動が活発で、星もたくさんあり、ブラックホールが我々の銀河の中心にあって宇宙線が加速されているのではないかと最近注目されて、非常に面白い領域ではあります。ただあまり観測装置をおけるところがなく、南米か、南アフリカか、オーストラリアになる。他の波長でもそうですけど、ガンマ線についても観測装置が少ないです。
今執行中の基盤(B)はALPACAプロジェクトに関連した、超高エネルギーガンマ線を観測するもので、まず小規模のアレイと、地下にミューオン検出器をおいて、比較的明るい天体、南半球でもっとも明るい天体1,2個を観測しようというプロトタイプの実験です。

科研費採択のコツ

今まで獲得した若手(B)二つと基盤(B)は、全く違うテーマで採択されています。
基本的に科研費を書くときに心がけているのは、なるべく自分のこれまでの成果をベースに最初に書くということです。申請書の中の一番最初に書きます。それがポイントかどうか分かりませんが、私はそのように心がけています。本来は科研費をもらって成果を出すという方が正しいのかもしれませんけれども、これまでの成果をベースに科研費をもらっている状態です。
最初の若手(B)は最高エネルギー宇宙線に関するもので、TAに参加して間もないころに採択され、分野としての実績はなかったですけれども、申請書の中では、これまでのチベットでの知識とか経験が生かせて面白い研究ができるというような感じで書いています。2回目の若手(B)は、太陽方向からやってくる宇宙線を使った太陽磁場の研究でしたが、このときはすでに面白い成果が出始めていて、それをベースに発展させるという形で、論文などの見える成果をなるべく入れて書き始めました。今回の基盤(B)についても、チベットASγで昨年初めて100TeVを超えるガンマ線が見えたということで、その成果をベースに南半球に行くともっと面白いサイエンスができるというのをモチベーションに書いています。

最初の若手(B)が通るまでは、だいぶ時間がかかりました。我々は実験屋なので、やはり装置を作りたいというので科研費を申請するのですけど、実験サイドからすると装置の詳細とか機器の詳細とか書きがちなのですが、全然通らなかったです。こういう装置をつくってこういうサイエンスをやりたい、という書き方になっていたのを、順序を逆にして、サイエンスのためにこういう装置が必要だと、サイエンスを前に出すようにしました。 緻密な計画書だと言われることもありますが、宇宙線研のレビュー制度や、色々な人に見てもらって最終的に今の形になりました。もう亡くなられましたけれども、湯田先生に非常によく見ていただきました。特に最初の1ページは、ほぼ全部直される状態でした。とにかく最初の1ページしか読まないよ、と言われました。やはりつかみが大切みたいですね。 また他の方の申請書を見ることができるのは、大変参考になります。皆さん、まわりに大きな科研費を持っておられる方はたくさんおられるので、そういう申請書は参考にしていると思いますよ。

東レ科学技術研究助成について

東レ科学技術研究助成は民間の助成金なので、ほとんど医学・生物系に充てられてしまい、基礎物理に割かれる枠はとても少ない。申請したのは、太陽からやってくる宇宙線を使った太陽磁場の研究です。特に太陽フレアに伴うコロナ質量放出(CME)、すなわちプラズマの塊が地球にやってきて、地球の磁気圏と相互作用してインフラ設備に影響を与える、例えばGPSを狂わせたり、衛星を故障させたり、電力網に影響したり、…そういうのを予測する宇宙天気予報という分野があるのですけれども、身近で人の役に立ちそうなテーマを選んでみました。そこがアピールできたのではと思います。
チベットだけだと常時太陽を観測できないので、ボリビアの方に同じ装置を作って観測しようということで、最初の小さな空気シャワーアレイを作りましょうと、南米に進出する最初の突破口となりました。そこは感謝ですね。

今後の抱負

現在、国際共同研究強化(B)を申請中です。中国とボリビア両方との国際共同研究を促進するテーマで応募しています。たくさん数を申請しないと当たらないし、運もあると思うので、今年も重ならない範囲でなるべく出そうと思っています。民間の助成金も最近は応募できるのがいくつかあるので考えています。
宇宙線研のプロジェクトの観測装置には、光電子増倍管を使っているという共通点がありますが、TAとチベットASγ、ALPACAではシンチレーション検出器も使っています。エネルギー領域は全然違うのですけど共通の部分は多い。ただ文化というか、解析方法などは少しずつ違います。例えばチベットASγで使っていた解析方法がTA実験の解析に役に立ったり、逆にTAの解析方法がチベットASγの役に立ったりと、複数の実験をやっているといいことはある。全員がそうなると実験が立ち行かなくなってしまうのですが、一部の人が交流するのはいいと思います。他のプロジェクトにも関わる機会があれば、想像せずに行っても何か気づく点はあるだろうと思います。
南半球で広視野のガンマ線の望遠鏡を作ろうという国際共同研究が立ち上がっていまして、まだどういう装置にするかは決まっていないのですが、私もサイエンスサポートメンバーとして参加しています。ただALPACAと比べるともう少しエネルギーの低いガンマ線の観測を目指す研究で、相補的な部分もあるというのと、その計画自体まだ始まったばかりで、たぶん5年、10年先の計画になりそうです。仮のプロジェクト名をSWGO(Southern Wide field Gamma-ray Observatory)といいます。
今後も、宇宙線がどこから来ているのか、宇宙線研本来の目的、そのサイエンスを追っていきたいです。宇宙線研の原点ですね。

           

科研費と私 過去

     
2019年インタビュー
神岡宇宙素粒子研究施設 助教 竹田 敦さん(2020年2月准教授に昇任)
2018年インタビュー
観測的宇宙論グループ 准教授 大内正己さん
(2019年8月より宇宙線研究所と国立天文台のクロスアポイントメント教授)
2017年インタビュー
チェレンコフ宇宙ガンマ線グループ 助教 大石理子さん、特任助教 齋藤隆之さん
(齋藤さんは2019年9月より助教)
2016年インタビュー
神岡宇宙素粒子研究施設 准教授 関谷洋之さん
2015年インタビュー
重力波推進室助教 山元一広さん(2017年2月より富山大学理学部物理学科准教授)

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