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宇宙線研究所

私と科研費 若手研究者インタビューInterview

神岡宇宙素粒子研究施設 助教 竹田 敦さん

CEO

科研費のからむプロジェクトとして、XENONnT実験というイタリアのグランサッソ国立研究所の地下実験室での暗黒物質探索実験をやっています。日本で頑張っているXMASSと同じように液体キセノンを使っており、2017年12月にXMASSグループから数人がXENONnTに加わりました。
XMASS実験はトンスケールの液体キセノンを当時としては初めて使い、大質量暗黒物質直接探索実験を切り開きました。XMASSは同じ時間測定してもよりデータがたくさんたまる大統計量を活かして、10年以上の長い時間積み上げたデータで季節変動を主張していたDAMA実験を棄却しました。またXMASSの場合は特定の種類にこだわらず、幅広い候補から暗黒物質を探索できる点でも大きな成果を出してきました。XMASSで一通りの成果を出したところで、XENONnTに加わることになりました。XMASSの次の世代の暗黒物質探索では協力してやりましょうという流れです。

XENONnTは同じ液体キセノンを使っているんですけれども、液体とガスの2相構造で電場をかけることで、検出器の中で反応した粒子を識別することができ、同じ一つの事象から違う情報を得ることができます。キセノンの原子核が暗黒物質によって反跳を受けるような、特定の暗黒物質に対しては非常によい感度を出すことができる、優れた検出器です。 その中での日本グループの役割は、液体キセノンを純化することと、環境の中性子が反応すると暗黒物質と識別できないので、別の中性子専用の検出器を作ってXENONnTのまわりを覆うことで識別し、ノイズを除去しようということをやっています。XMASSにはなかった新しい技術です。

執行中の科研費 国際共同研究強化(B)、基盤(C)について

国際(B)はまさにその中性子検出器を作って暗黒物質を発見する目的で頂いている科研費です。
ただ中性子検出器自体の建設費を出すことはできなくて、シミュレーションでデザインの最適化をしたり、現地に行って中性子検出器を構成する一つ一つの装置を実際に改良するための旅費、ヒューマンパワーを提供するために使わせていただいています。非常に役立っていて、今年度すでに私やグループの学生さんも含めて2か月以上現地に行くことができ、中性子検出器の光電子増倍管のチェックをしたりしました。
なお、もともと国際(B)の申請書を書いた時には中性子検出器は液体シンチレータの中にガドリニウムを入れる計画でしたが、その後、液体シンチレータを地下空間で使うのは危険なので、より安全な純水に入れる、ガドリニウム水チェレンコフの技術に変更されました。 ガドリニウム水チェレンコフが液体シンチレータ並みの性能を出せるというシミュレーションを日本グループが示して採用されました。これによって我々がスーパーカミオカンデでやっているSK-Gd計画のために長年積み重ねてきた知見を有効に活用できることに加えて、SK-Gdの技術を初めて暗黒物質探索にも応用できることを示すよい機会となりました。研究成果は論文で発表するのですが、奥の奥にあるところは発表しきれないですし、業者さんと一緒にやっていると実際にやらないと得られないノウハウはいろいろありまして重要になっています。
ガドリニウム化合物は放射性不純物の少ないきれいなものを選別して使う必要があるので、いろいろな業者さんからサンプルを入手して不純物を測定し選定しているところです。私の国際(B)ではボローニャ大学との共同研究になっていまして、検出器を構成するものを購入する予算のめどは立ててもらっています。 我々の知見を有効利用し、またXENONnTでよい成果が得られたら逆にそれを神岡にもフィードバックできたら、お互いにWin Winで進めていけたらと思っています。国際(B)はそういう理念の科研費なので、まさにそれに合致していると思います。

XENONnTの液体キセノン検出器は環境放射線を遮蔽するための水タンクの中に入っています。
基盤(C)の方は、水タンク中の水に放射性不純物があると液体キセノンにノイズとしてよけいな信号を加えてしまうので、特にラドン濃度をきっちりモニターして、その影響をなくそうという目的のプロジェクトです。もともとXMASSでも水タンク中のラドン濃度をモニターしていて、その重要性は分かっていたので、ぜひXENONnTにも必要だろうという発想から申請したものでした。
液体シンチレータの中性子検出器を作る場合は、内側の中間領域に容器を作ってそこに液体シンチレータを入れる必要があったのですが、ガドリニウム水チェレンコフはシンプルで、水で完全に被っているので効率よく隙間なくとらえることができます。ガドリニウム中の不純物の影響も含めて、最終的にラドンを出すようなものは全部モニターできるので、もともと水タンク中の不純物をモニターするプロジェクトでしたが、ガドリニウム水チェレンコフになって、さらにもう一つ意義が加わりました。

科研費採択のコツ XMASSグループでの貴重な経験

最初の若手(B)をとるまでの4~5年くらいは不採択続きだったのであまり偉そうなことはいえないのですが、ひとつは申請書には相手が求めている情報があるので、それを過不足なく伝えるのは当然で、それにプラス研究内容は魅力的じゃないといけない、そこは重要だろうと思います。そしてその魅力的な研究内容を伝えるためには文章が読みやすいといった基本的なことが大事です。しかし一人で書いているとなかなか客観的には見られず、 自分の枠を超えられないという面があります。それを補うために宇宙線研のレビュー制度にも助けられていますし、過去に採択されている申請書は参考にすべきだろうと思います。額が大きければいいわけではないでしょうけれど、それなりに厳しい審査を通っているので参考にするといいと思います。
XMASSが最初に学術創成の予算を取れるまではなかなか科研費を取れず、グループ内で顔を突き合わせて、夜な夜な皆で申請書のブラッシュアップを繰り返すということがありました。それは私にとっても自分の科研費を取る上でもとてもいい経験になりました。 そういう経験、また過去に大きな科研費をとっている書類は参考になると思います。最近そういう制度も充実してきているので、利用できるものは利用すべしと思います。私の採択された申請書も閲覧に提供しているので、参考にしてもらえるといいと思います。

レビューで一番印象に残っているのは、文章が行ったり来たりしている箇所を指摘され、一文をちょっと移動させるだけでびっくりするほど文章がわかりやすくなったことがありました。ある議論をしていて違う議論をしてまた戻ってくるというのはやりがちですけど、戻らずに上から読んでいけばわかるようにと指摘されて助けられました。自分でも冷却期間を置いて中身を忘れたころに見るといいのですが、短い時間の中ではなかなかできないので、レビュー制度で第三者の目で見てもらうのは有効です。あとレビューに出すには通常の〆切より1週間早く出す必要があって大変ですけど、逆に早めに作って出すと自分でも冷却してから文章をみることができるのでいいと思います。

国際(B)の特長について

国際(B)は3~5人くらいの規模のグループで、国外の研究者と共同しながら国外で研究するものが対象なので、その条件に合致していればどんどん申請すればいいと思います。もう一つ重要なのは、科研費ルールの若手を必ず入れることになっていて、その分野で若手が将来国際的に羽ばたいていける場を提供できる研究が望ましいとも謳われているので、そこは強調していく必要があります。我々のグループでは、ちょうど名古屋大の風間さんが2016年ごろからXENONに入って活躍しておられて、この科研費によって若手としてさらに飛躍していけるスタイルになっているので、国際(B)の期待しているものに合っていたんではないかと思います。

今後の抱負

今後は、XENONnTの検出器ができてくると暗黒物質だけにかぎらず、低エネルギー領域でラドンの影響などを適切に除去できれば太陽ニュートリノが見えたりとか、物理的に面白いことがたくさんできるのでその辺の物理を目標にして、科研費を利用させていただいて研究できればいいかなと思っています。

(竹田さんは2020年2月に准教授にご昇任されました。)

           

科研費と私 過去

     
2018年インタビュー
観測的宇宙論グループ 准教授 大内正己さん
(2019年8月より宇宙線研究所と国立天文台のクロスアポイントメント教授)
2017年インタビュー
チェレンコフ宇宙ガンマ線グループ 助教 大石理子さん、特任助教 齋藤隆之さん
2016年インタビュー
神岡宇宙素粒子研究施設 准教授 関谷洋之さん
2015年インタビュー
重力波推進室助教 山元一広さん(2017年2月より富山大学理学部物理学科准教授)

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