本文へスキップ

研究サポート室は、研究者の皆様が十分な研究時間を確保できるようにお手伝いします。

宇宙線研究所

私と科研費 若手研究者インタビューInterview

理論グループ 准教授 伊部 昌宏さん

CEO

 僕の計画研究が入っているのは、新学術領域研究の「ニュートリノで拓く素粒子と宇宙」というもので、京都大学の中家先生が代表になっています。その中に2つ理論班があって、そのうちの一つの、実験のデータから行くタイプではなくて、むしろどういう理論体系があるのだろうというトップダウンの方から攻めるという立場で研究するグループを作ってやっています。具体的には、素粒子標準模型の背後に存在するより基本的な理論体系を見つけたいという研究テーマです。
 標準模型というのは電磁気力と弱い力を統一した理論として記述できるだけでなく、クオークやレプトンといった粒子の質量も同時に説明してしまうという、非常に成功した理論です。一方で、現在までに暗黒物質とかが見つかっていますし、ニュートリノの質量の起源も説明できないといった、まだまだ最終理論というには程遠い理論とも言えます。そういった標準模型では説明できない現象を説明する理論を見つけることを目標にしています。
 ただ残念ながら現時点では、標準模型を越えた理論がどのくらいのエネルギースケールに存在するのかというヒントが実験的に不足しています。あることは間違いないけれども、どんな状態で、どんなエネルギースケールの実験をすればそれが分かるのかということも、実はヒントが少なくて、アイデアはあるがヒントは少ない状況です。そういう状況を乗り越えるためにいろいろアイデアを絞らなければならないのですが、そのひとつのヒントになると考えているのが対称性というキーワードです。対称性というのは、物の形などに制限をかけるルールで、例えば四角形にはいろいろありますが、そこで90度回転したら元とぴったり重なる四角形にしてくださいというと、形が一気に正方形しかなくなるということで、情報を絞ることができます。素粒子の理論の中にはいろんな対称性があってそれで物事が説明できたりするので、新物理にも新たな対称性があって、それで今の我々が形づくられているのではないかと期待されています。対称性に注目した研究をみんなで集まってやりましょうというのが、われわれの班の構成になっています。
 その中でもニュートリノの研究が母体となっているのが、新学術領域研究です。ニュートリノとその対称性とは何か関係があるのかというと、ニュートリノは他の粒子に比べて質量が非常に小さいですね。その小ささの原因には対称性が隠れているというのが主要な考え方になっています。さらにニュートリノの小さな質量というのは、宇宙には物質と反物質が平等にあったはずなのに物質しか今残っていない、これを説明するカギになっているとも考えられています。ニュートリノが出てくる新物理の対称性をキーワードに、みんなで研究することによって新物理のヒントを探ろうというテーマでやっています。

 もともと僕の研究は、新物理の模型を考えて、その実験的検証をやっている研究が多いです。その意味では、新学術のテーマはまさに中心的テーマをやらせてもらっています。ただその他に、ボトムアップな、先に実験データが出てきてそれを説明するにはどういう模型が必要ですかという、そういう順番の研究もやっています。実験に基づいた研究と、理論的アイデアに基づいた研究、ボトムアップとトップダウンを両方やっていて、そのうちトップダウンの研究テーマを新学術領域でやっていることになるかと思います。

新学術領域研究(研究領域提案型)に応募した時のこと

 僕らの参加している新学術領域研究は中家先生が非常にリーダーシップをとってくださって、基本的に僕らはそれに乗っかっているというところはありました。ただ申請書を書く段階ではとにかく、計画班がいくつもあるわけですけど、お互いにレビュー役を割り当てて、早い段階でレビューをお互いにしながら、できるだけ第三者視点で、これでは他の人には分からないよといったようなことを、特に理論班と実験班があるので、理論班があえて実験班を見て、実験が理論を見て、お互いに共通的なテーマになるようにまとめていったという経緯はあります。計画班が全部まとまった後に、全体の新学術領域としての申請書をまとめるという順番にして、全体が融合するようにがんばったということはあります。お互いのレビューの時には、各班から2~3人の分担者のメンバーもどんどん入ってやりました。できるだけお互いの多くのメンバーでやりました。レビューは2~3回はやったかと思います。正確には覚えていませんが結構バージョンがあって、最終的に改訂していきました。早めに取り組んだ方が良いと思います。領域全体の申請書も分担して書きました。基本的にはリーダーシップが素晴らしかったので、比較的楽にできたのだと思います。
 今回の領域は、実は前身の研究領域の後継に当たっていて、ヒアリングの時はそれとの違い、どう変わったのか、成果がどう反映されているのか等を主に聞かれた記憶はあります。プレゼンテーションの資料もみんなでつくりました。
 意外と計画班の中で浮いてしまっている計画があると、つっこまれやすいというのはあります。なぜその計画班が必要なのかという意義を明確にするのがとても大事だと思います。せっかく集まるのだからということです。

 基盤研究に比べると、理論研究にしては大きな予算がついて、研究員を雇えるのは大きな魅力です。現在の研究領域は2022年度まで続きます。後継というか、ちょっと枠組みが変わった学術変革領域研究ができたようですね。来年度以降どうするのか分かりませんが、今年の秋以降くらいに話が始まるのかもしれません。研究費申請を定期的に出すことは、自分の研究を様々な角度から見直すという大事な機会になっています。ですので研究費を申請することは自分の研究をより高めていくことにつながっていくのだという気持ちで申請書を作成するようにしています。

今後の抱負など

 最近力を入れている研究に、宇宙において対称性が自発的に破れる、対称性がなくなってしまうという現象があるのですが、その時、例えば氷が解けて水になるというような、相転移に似た現象が起きて、その際に変な形の物体ができることが知られています。そういうものが宇宙に生じると、何らかの痕跡を残したりするので、新しい物理の理論の対称性のヒントを与えてくれる可能性が高いので、それに関して力を入れて研究しているところです。

 理論研究は、基本的には議論が多いです。やっぱり黒板を使って議論をすると。で、計算をする価値があると分かったら、コンピュータを使ってでも何でもいいからとにかく計算をして、結果が出たら論文にするという感じです。どちらかというと、他の人の論文を見ることからスタートです。こういうことやっている人がいるけどどうなのだろう・・・って言っているうちに、え、でもこれだったら、・・・そういうことが一番多いです。論文を見る、あとはいろんな人と話すことがやっぱり大事なスタートになっているかなと思います。最近はコロナの影響でそこのところができていませんが、そのことが研究を進める上でネックになっている面はあります。ZOOMとか目的を持って集まってやろうというものですけど、以外と目的持たずに、たまたま久しぶりに会った人としゃべったりするのが研究のいいスタートになったりするので、そういうのが今失われているのが残念なところです。

           

科研費と私 過去

     
2020年インタビュー
TA 兼 チベットグループ 助教 川田 和正さん
2019年インタビュー
神岡宇宙素粒子研究施設 助教 竹田 敦さん(2020年2月准教授に昇任)
2018年インタビュー
観測的宇宙論グループ 准教授 大内正己さん
(2019年8月より宇宙線研究所と国立天文台のクロスアポイントメント教授)
2017年インタビュー
チェレンコフ宇宙ガンマ線グループ 助教 大石理子さん、特任助教 齋藤隆之さん
(齋藤さんは2019年9月より助教)
2016年インタビュー
神岡宇宙素粒子研究施設 准教授 関谷洋之さん
2015年インタビュー
重力波推進室助教 山元一広さん(2017年2月より富山大学理学部物理学科准教授)

バナースペース

ICRR 研究サポート室

research_support◎icrr.u-tokyo.ac.jp

URAスタッフ

staff.ura◎icrr.u-tokyo.ac.jp
(◎を@に替えてください)