女子学生イベント「やっぱり物理が好き!」に高エネルギー加速器研究機構(KEK)の清水志真助教が出演

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 女子学生のためのイベント「やっぱり物理が好き! 〜物理に進んだ女子学生・院生のキャリア〜」が11月25日、Zoom会議によるオンラインで開催され、全国から15人が参加しました。

 本イベントは、物理学を専攻する女子学生や大学院生の割合が、日本では特に低いことから、これから物理を学ぼうという女子学生や、物理分野に進学した学部生・大学院生を支援する目的で、東京大学柏キャンパスのカブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)、物性研究所、宇宙線研究所が合同で企画しています。8回目となる今回は、物理学科の出身で大学や企業で活躍する講師4人を招いて開催し、宇宙線研究所の推薦により、高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所の清水志真助教が出演して講演を行ったほか、暗黒物質直接探索グループに所属する神長香乃さん(修士2年)もTAとして自己紹介を行い、バーチャル空間SpatialChatで参加者からの質問に答えました。

Zoom会議に参加して講演するKEKの清水志真助教

 清水さんは「素粒子の世界に戻ってきた!」と題して講演。自らの生い立ちから、素粒子実験の研究者になることを目指してヨーロッパに渡り、ドイツにあるドイツ電子シンクロトロン(DESY)のHERA-ZEUS実験、フランスとスイスの国境にある欧州原子核機関(CERN)で国際的な高エネルギーの粒子衝突実験ATLASに参加したこと、その後3年間の専業主婦を経て、学振RPDで研究職に復帰し、KEKの任期なしの助教に就任するまでを振り返りました。

 神奈川県出身の清水さんは、大学学部生の頃、「ものが何からできているのか」に興味を持ち、これを知るために大学院進学を決めました。「英語に苦手意識があった」という理由で研究室選びでは迷いましたが、自分の興味を優先して海外実験に参加する研究室に所属。「体当たりで経験を広げたのがこの頃です。修士1年からドイツに送ってもらうことができ、一般のドイツ人女性の部屋に間借りして、4年住みました」。物理解析を目指して進学した博士課程では「とにかく頑張りました」と言います。大学の就職支援室には一度だけ相談に行ったものの、海外出張の手続きと研究が忙しくてそれっきりになり、「とりあえず行けるところまで行ってみよう」とアカデミックのキャリアを目指します。この後、結婚、出産、そして3年間の専業主婦を経て、再び研究職に復帰することになりますが、清水さんは「このように思い描いていた計画があったわけではなく、その都度、その時の状況に合わせてあがいてきた結果で、夫婦ともに任期なしの職に就いたのは一年前です。こんな人もいるんだなと思って見ていただければ嬉しいです」と語りました。

 大学院生だったドイツで最初に参加した国際共同実験HERA-ZEUSでは、それまで男性ばかりだった実験代表者(Spokesman)に初めて女性が就任。「呼称はどうするのか、と疑問に思って見ていたら、Spokeswoman、そしてすぐにSpokespersonという言葉が使われるようになりました。各国から集まった研究者は、性別や国籍、人種も多種多様で、日本人女性は目立つので覚えられやすくも仕事がしやすかったです」。女性研究者だけの集まりでは、「研究者は結果さえ出していれば良いから、子育てしながらでもやりやすいはず」という意見も聞かれたと言います。清水さんは2007年当時に150人ほどの研究者仲間で撮影した写真の中で男性だけをApple Pencilで青く塗りつぶし、意外に女性が多い様子を演出してみせ、参加者を勇気づける場面もありました。

 ポスドクとなってスイス・ジュネーブに移り、CERNのフェローとしてATLAS実験に参加すると、実験メンバーは約3,000人に。「いろいろな人がいて、女性だからといって目立つことはありませんでした」と清水さん。そのあと、30歳で同じ研究者の男性と結婚し、出産、子育てなどのライフイベントを意識しますが、同時に世界最大の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)では2015年に衝突エネルギーが当時最大の13 TeVまで到達し、次から次へと貴重な実験データ出てくるようになり、解析作業のために多忙な日々を送ることになりました。成果を出して1年後に長男を出産し、産休・育休を取得して帰国。その後退職し、3年間の専業主婦生活に。その間に2人目の長女を出産し、特別研究員RPDとして理研で研究に復帰。原子核物理分野の衝突実験である米国EIC計画に参加することになりますが、「研究と子育てが一緒にできるのか。私にとってトライアルでした」。その後、応募したKEKの助教に採用され、「『素粒子実験に戻ってきても良い』と言ってもらえたようで、嬉しかったです」と笑顔を見せました。

 清水さんはまた、現在の生活パターンをグラフで紹介し、「裁量労働制は便利な制度だし、夫は協力的です。日々くたくたですが、現状には満足しています」。現在の仕事はソフトウェアベースで、会議時間は配慮してもらえるものの、「情報収集の時間は減り、仕事の時間を確保するのに四苦八苦しています。せめて楽しめる仕事をやるように心がけています」。それでも、「素粒子の世界はシンプル。科学的かどうかが第一の判断基準で、同じ判断基準で議論し、研究でつながっていくのが楽しい」と前向きな姿勢が変わっていない様子をコメントで示しました。

 最後に「運が良くなるまで往生際が悪く諦めませんでした。いまはキャリア、子育ていずれも7割を目標にしています。自分にキャパシティが二つ分しかなくても、7割でよければ三つ目も諦めずにできます。自分にとっての正解は自分で作るものです。キャリアと生活のさまざまな組み立て方を見ると、勇気が出る、かも知れません」と、後輩へエールを送り、およそ20分の講演を締めくくりました。

 質疑応答では「女性であるためにアウェイに感じたことはありますか」「物理が好きという気持ちだけでどこまで行けますか」「修士課程と博士課程で求められるレベルの違いはどんなものですか」「同じ悩みを抱える女性たちが集まり、相談できるネットワークのようなものはありますか」などの質問が出て、清水さんは一つ一つ丁寧に回答していました。


 一方、TAとして参加した神長さんは、Zoomにスライドを共有して自己紹介。研究テーマは暗黒物質直接探索のXENONnT実験で、普段は神岡宇宙素粒子研究施設で研究しているとし、「最近解析が好きになりました。いまは修士論文でとても苦労していますが、無事に完成すれば博士課程への進学を予定しています」と近況を報告。SpatialChatを使った大学院生の質問会では、学部生たちの相談に乗っていました。

TAとして参加し、学部生たちの相談に応じた修士2年の神長さん

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