【柏キャンパス一般公開2023】うちゅうカフェ: 2人の若手研究者が自身の研究を紹介

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 東京大学柏キャンパスの一般公開2023の2日目である10月28日には、中畑所長と梶田教授の対談に引き続き、若手研究者たちが自身の研究を紹介する、うちゅうカフェ「わたしの研究」が開催され、特任研究員(ICRRフェロー)の大島仁さん(テレスコープアレイ実験グループ)と、加藤勢さん(チベット実験・ALPACA実験グループ)が続けて講演しました。

テレスコープアレイ実験グループの大島仁さん <プロフィールはこちらへ>
大好きな宇宙の研究へ 最高エネルギー宇宙線の起源を探る

 千葉県市川市生まれの大島さんは、小・中学校、高校、大学と吹奏楽部やオーケストラ部に所属し、チューバの演奏に夢中になりました。中学生時代の担任の先生との面談で、将来の夢を問われ、「学校の先生になって吹奏楽部の指導をしたら楽しそう」「(当時練習していたホルスト作曲「木星」の影響もあって、)星とか宇宙に興味があるし、理科にしよう」と心の中で思い、「理科の先生になります」と元気よく回答。実際、大学卒業後の2年間は、地元の私立高校で理科の教員を務めていました。しかし、教え子の高校生に「将来何になりたいの」と聞いたところ、「大学で宇宙を学びたい」「建築に興味がある」「薬剤師になりたい」など大きな夢を語る学生が多く、自分の将来について再考するきっかけに。そこで「もともと宇宙の研究に興味があった」と思い直し、退職して母校の東邦大学の大学院に進学し、物理学の研究者を志すことになりました。

大セミナー室で講演する大島さん

 修士課程を経て、博士課程に進学してからはニュートリノ物理(NINJA実験)、暗黒物質探索(NEWSdm実験)など、素粒子実験のグループに所属していましたが、より宇宙の研究に近い超高エネルギー宇宙線物理学に興味を持ち、テレスコープアレイ実験の共同代表である宇宙線研究所の荻尾彰一教授に連絡を取りました。その結果、2022年からテレスコープアレイ実験グループに所属することになり、2023年4月からは宇宙線研究所の特任研究員(ICRRフェロー)として採用されました。

 大島さんは、宇宙線について「宇宙空間を飛び交っている放射線(原子核や陽子)」と説明し、エネルギーの小さなものほど地球にたくさん飛来していることをグラフで示しました。一方、観測史上最高の宇宙線のエネルギーは、世界最大の加速器である欧州原子核機関(CERN)のLHCの1000万倍以上ありますが、その頻度は1平方キロメートルあたり100年に1個と極めて稀とし、それを捕まえるために、とても広い領域に地表粒子検出器を等間隔に置き、大気蛍光望遠鏡とハイブリッドで観測すると説明しました。テレスコープ・アレイ実験はユタ州にある北半球最大の宇宙線観測施設で、日本、米国、ロシア、韓国、ベルギー、チェコ、スロベニア、ポーランドから35研究機関,およそ140人が参加する国際共同研究です。

 「1平方キロメートルあたり100年に1個でも観測する面積を増やしてゆけば、どこかに落ちてくる可能性があります。テレスコープアレイ実験の強みは面積を増やせることです。米国ユタ州の砂漠で行われているこの実験では、地表粒子検出器を等間隔に置く領域の面積はなんと700平方キロメートル。東京23区がすっぽり入る大きさ、関西の方なら琵琶湖と同じ大きさと言えば通じるそうです」。

最高エネルギー宇宙線が偏在する可能性を示唆する天球図

 テレスコープアレイ実験の目的は、1020eV以上の最高エネルギー宇宙線の起源を明らかにすることで、15年間の観測で216イベントが観測されました。「だんだんと宇宙線が集中している箇所が見え始めています。しかし、まだ200イベントの観測例しかなく、もっとたくさん観測して、最高エネルギー宇宙線が宇宙のどこからきているのかを詳しく調べたいと思っています」と、テレコープ・アレイ実験の面積を4倍に拡張して世界最大の実験を目指すTAx4計画が進んでいることを報告。さらに、大島さん自身も参加し、2022年11月にユタ州で行ったTALE実験の検出器を設置したときの様子を、写真で紹介。「1018eVより低いエネルギーの宇宙線は、銀河系内からやってくると考えられていて、銀河系内外からの幅広いエネルギーの宇宙線を観測して、きちんと理解したいと考え、宇宙線研究所の研究者が中心となって現地の作業を進めています。今後の研究結果にご期待ください」と結びました。

チベット実験・ALPACA実験グループの加藤さん <プロフィールはこちらへ>
高エネルギー宇宙線天文学で最もホットなトピック 銀河系内のペバトロン探求

 大阪府生まれの加藤さんは2018年4月、京都大学工学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科に入学。修士・博士課程の5年間を宇宙線研究所のチベット・ALPACAグループで過ごし、博士後期課程を終えて卒業すると、2023年4月から特任研究員(ICRRフェロー)に採用されました。加藤さんを含む研究グループのメンバー共通の目標は、 天の川銀河で宇宙線陽子が加速される最大エネルギー(4×1015eV=4 PeV)を生む起源天体ペバトロンの探索です。横軸にエネルギーをとった宇宙線の到来頻度のグラフに現れる微妙な折れ曲がりの地点がその最大エネルギーを指しており、「ペバトロンの候補は超新星残骸、パルサー星雲、巨大ブラックホール、大質量星団といろいろあるのですが、そのどれなのかはよくわかっていません。私の研究はまさにペバトロンを探す旅と言えます」と加藤さん。

大セミナー室で講演する加藤さん

 高エネルギー宇宙線は通常、陽子やヘリウムなどの電荷をもった原子核のことです。宇宙線は銀河系内の磁場で進む方向を変えるため、地球に到来する時にはもとの方向を失っており、地球への到来方向から宇宙線の起源天体を突き止めることは困難とされています。しかし、宇宙線と天体の近くにあるガスが衝突することで生じる光(電磁波)、つまり高エネルギーのガンマ線は電荷をもたないため、磁場で曲げられず直進できるので、到来方向から宇宙線の起源天体を推定することが可能です。加藤さんは「1 PeVの宇宙線がガスにぶつかった時に生じるガンマ線のエネルギーは一桁小さい100TeVで、このエネルギー領域のガンマ線の到来方向と、その近くにガスが豊富にある天体を望遠鏡で探し出すことができれば、それがペバトロンの可能性があります」と探索の方法を説明しました。

 加藤さんはこれまで、ペバトロンを追い求めた研究で、チベットASγ実験の観測データを使い、HESS J1843-033とHESS J1849-000という2種類のガンマ線天体について詳しく解析し、論文で発表しています。チベットASγ実験は、チベット自治区の高原に597台の地表粒子検出器を設置して66000平方メートルをカバーし、高エネルギー宇宙線が作る空気シャワーを観測するものです。2014年には地下に大面積のプールを設置し、ガンマ線が作る空気シャワーを識別する性能を飛躍的に向上させました。加藤さんは、過去に低エネルギーガンマ線で検出された上記の二つの天体について、チベットASγ実験のデータを解析し、これら二つの天体がペバトロンである可能性を詳しく検証しました。その結果、HESS J1843-033からは25TeV以上のガンマ線とガスを確認でき、「宇宙線がいれば0.5PeVまで加速されている。もしかすると1PeVもあり得る」との結論を導き出しました。HESS J1849-000では、チベットASγ実験の観測データで100TeV以上のガンマ線を確認。パルサー星雲とガスも重なっており、「パルサー星雲は電子を加速しているというのが定説です。しかし、もしパルサー星雲と超新星残骸の相互作用があれば、PeV宇宙線が加速されているかもしれません。今回の研究で明らかにした100TeV以上の強いガンマ線放射とガスの存在を考えると、十分に可能性のあることだと思っています」と語りました。

ペバトロン探索の途上で見つけた候補天体 HESS J1849-000

 宇宙線研究所が直接関与するチベット実験(チベット自治区)の他にも、LHAASO実験 (中国・四川省)、HAWC実験 (メキシコ・プエブラ) などペバトロンを探索する実験があり、多くの候補天体を報告しているものの、いまだにペパトロンは見つかっていないことを指摘したうえで、加藤さんは「これまでのペバトロン探索の実験はすべて北半球に集中しており、北半球から見える宇宙しか探していません。そこで南半球の空を観測できるALPACA実験をボリビアで準備しています。南天は高エネルギー現象で溢れかえっていることがわかっていて、天の川銀河中心など有望なペバトロン候補がひしめいています。南天のペバトロン探索はいま最もホットなトピックなので、ご興味のある方はぜひ一緒に研究しましょう」と締め括りました。


質問に対しても丁寧に説明

うちゅうカフェにもオンサイトの視聴者がたくさん訪れた

 それぞれの講演が終わった後、大島さんには「IceCubeとの違いについて教えてほしい」「ヘリコプターによって検出器を設置をするのは振動が少ないからか」「宇宙線が磁場で曲げられてしまうことはないのか」、加藤さんには「チベット実験とALPACA実験には地下にプールがあるが、北米の実験(テレスコープアレイ実験)にはない。これはどうしてなのか」「高いエネルギーだと磁場であまり曲がらないのか」「なぜALPACA実験は南米なのか。オーストラリアではないのは高地が必要だからか」などの質問が会場から寄せられ、二人は一つずつ口頭で丁寧に回答していました。

司会を務めるガンマ線グループの博士後期課程2年、Joshua Ryo Baxterさん

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