東京大学 宇宙線研究所

チェレンコフ宇宙ガンマ線グループ

研究紹介

宇宙で起こっている物理現象を解明するには情報を伝えるメッセンジャーを捕まえる必要があります。電磁波はそうしたメッセンジャーの中でも最も一般的なものですが、私たち人の目で見ることのできる光はそのうちのごく狭い範囲の波長を占めているに過ぎません。異なる波長の電磁波は異なる放射源やプロセスによって生み出され、違った宇宙の姿を私たちに見せてくれます。

私たちの研究グループでは、こうした電磁波の中でも最も波長が短くエネルギーの高い、超高エネルギーガンマ線の観測とその結果を用いた宇宙物理の探求を行なっています。超高エネルギーガンマ線は光子ひとつのエネルギーが可視光の1010倍から1014倍にも及びます。このような高エネルギーの光子は高温の星やガスによっても生成されず、衝撃波や磁気リコネクション等の極限状況における物理過程によって非熱的に加速された電子や陽子、あるいはダークマターの対消滅によって放射されていると考えられています。

こうした極限宇宙、非熱的宇宙の姿を解き明かすため、私たちはガンマ線望遠鏡であるMAGICやフェルミ衛星を用いて研究を行っており、さらにこの分野にブレイクスルーを実現するべくチェレンコフ望遠鏡アレイ(CTA)計画の推進を重点的に行っています。これは地上に多数の望遠鏡を配置し、宇宙から地球に到来したガンマ線が大気原子と相互作用することによって発生する空気シャワーからのチェレンコフ光を捉えるものです。(ガンマ線観測


CTAの研究開発・建造

まず特に力を入れているCTAの研究開発・建造について紹介します。CTA-Japanグループでは、CTAを構成する大中小三種の望遠鏡のうち、最も低エネルギー側(20 GeV—200 GeV)をカバーする大型望遠鏡(LST)の開発を世界で主導して行っており、のグループは日本の中心的な役割を果たしています。 スペイン・ラパルマ島とチリ・パラナルに建設される8基のLSTのうちラパルマ島に1号機が2018年10月に完成しており、現在調整・試運転を行なっています。また並行して2号機以降のコンポーネントの製作・性能評価を進めています。私たちのグループが行っている主な開発項目は以下の4つです。

1. 鏡と分割鏡制御システムの開発

LSTは口径が23 m、高さが45 mにもなる巨大なものですが、総重量は約100トンと比較的軽く、突発天体の観測にも機動性を発揮します。これを実現するのが軽量・高精度の鏡です。CTAの反射鏡は直径1.5mの分割鏡198枚からなり、それぞれ非常に高い表面精度を持ちます。製造された鏡は2F法と呼ばれる方法を用いて集光性能などを評価しています。また、屋外に曝露された状態で運用されるため、耐久性も確保しました。さらに、強風や高速回転時などに発生する鏡の向きのずれを検知・補正するためのAMCと呼ばれる装置の開発も行っています。2019年5月にはLST1号機にインストールされたAMCが各分割鏡からの光を一点に集光できることを確認しました。

2. 高速回転電源システムの開発

突発天体発生時に行われる望遠鏡の高速回転では300 kWもの電力が必要になります。大電力を短時間に供給するため、フライホイールと呼ばれる真空容器の中に磁力によって宙に浮いた金属が高速で回る装置を用いたシステムを開発しました。これにより天球上のどの点であっても20秒以内に望遠鏡を向けることができます。2019年3月にはLST初号機が高速回転できることが確認されました。

3. 焦点面カメラ

鏡で集光されたチェレンコフ光はカメラ部に搭載された光電子増倍管(PMT)で検出され、信号として読み出されます。CTAでは微弱なチェレンコフ光まで捉えるため、浜松ホトニクス社と協力して量子効率が非常に優れたPMTを開発しました。また、LSTでは1台あたり1855本のPMTが用いられますが、それぞれ異なる個性を持つため個々の性能評価を行なっています。1号機用のPMTは京都大学やヨーロッパ各国で開発されたコンポーネントと統合され、動作試験を行った後に望遠鏡にインストールされました。2019年2月には宇宙線陽子が作る空気シャワーからのチェレンコフ光観測に成功しています。

4. 解析・シミュレーション

チェレンコフガンマ線望遠鏡観測では、ガンマ線の宇宙線バックグラウンド識別、到来方向・エネルギー推定といったデータ解析や性能評価にモンテカルロシミュレーションが本質的な役割を果たします。私たちは宇宙線研究所の計算機システムを活用し、望遠鏡の配置による性能の違い等を分析してきました。現在はより優れたLSTデータ解析の開発や感度などの性能評価に取り組んでいます。また、他大学も含めたCTA-Japanのメンバーへの講習に力を入れています。


MAGIC・Fermiのデータを用いた科学研究

次に、現在運用中のガンマ線望遠鏡であるMAGICやFermi衛星のデータを用いた研究を紹介します。研究室メンバーが各自国内外の研究者と協力して活動銀河核・超新星残骸・パルサー・ガンマ線ガーストなどの極限天体の研究や、ダークマター探索に取り組み成果を上げています。特に2019年1月にはMAGICが地上チェレンコフ望遠鏡として初めてガンマ線バーストの検出に成功した際は、研究室メンバーがデータ解析や論文作成において中心的な役割を果たしています。