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宇宙線研究所

私と科研費 若手研究者インタビューInterview

神岡宇宙素粒子研究施設 准教授 関谷洋之さん

CEO

もともとスーパーカミオカンデ実験は、高エネルギーのATMPD(atmospheric neutrino & proton decay)グループとlow energyグループの2種類に大きく分けられて、華々しい成果を上げているのは、梶田先生のノーベル賞もあるようにATMPDグループです。low energyグループは太陽ニュートリノと超新星爆発を主にやっているのですがすごく難しくて、ちゃんと検出器を理解して安定に保たないと、ちゃんとしたデータも取れないようなところなので、難しいわりに報われないんですよ(笑)。バックグラウンドとの戦いです。XMASSやガドリニウムは、low energyグループの人がスーパーカミオカンデをそのまま続けていくよりも、常に新しいことをやらなきゃいけない宿命で、それぞれ始めて大きくなったプロジェクトです。僕もlow energyグループなので、必然的にXMASSや、ガドリニウムもやっていくことになって、今一番は、ガドリニウムのプロジェクトを、コンビナーとしてやっています。XMASSは、スーパーカミオカンデの感度よりもっと低いエネルギーの太陽ニュートリノをとらえようと考えて鈴木先生が始めたプロジェクトで、ダークマターの次には、究極的には太陽ニュートリノが見たいという検出器です。もう一つは、超新星爆発をスーパーカミオカンデで待っているのではなく、過去に起きた超新星爆発の痕跡をとらえようと、積極的にガドリニウムを溶かしてスーパーカミオカンデの感度を上げていこうというもので、その二つの研究の柱をそれぞれ進めていった形がSK-GdとXMASSです。

若手(A)と挑戦的萌芽研究に取り組む

XMASSは液体キセノンの回りを光電子増倍管で覆って光を見るというコンセプトですが、表面に放射線不純物があると、間違って真ん中でイベントが起きたと再構成してしまうことがあります。それを防ぐために、電場をかけて光以外で場所構成をできるような能力を持った検出器を作れないかと思って応募したのが若手研究(A)になります。キセノンを使った他のグループの実験は全部電場を使っていて、XMASSだけが電場を使いません。他のグループの実験は二相式と呼ばれるタイプで、液体とガスのキセノンを両方使って暗黒物質探索をしていて、暗黒物質がぶつかってキセノンが跳ね飛ばされるイベントと、キセノンの周りをまわっている電子が跳ね飛ばされて出してしまうバックグランド光の二つを区別できるんですね。それがXMASSにはできないんですよ。僕の応募したのはXMASS同様に液体キセノン一相だけなのだけれども、そこに電場をかけて、イベントの起きた場所を特定するという研究です。 本当は自分のアイデアでXMASSを改造してしまいたいくらいの野望をもって始めたプロジェクトで、将来のR&Dのアイテムの一つとして、今は小さなセットアップでやっています。

もうひとつの萌芽研究も暗黒物質探索です。今世界で行われている実験では、暗黒物質ではないものが当たって光ったのと、暗黒物質が来たのを本質的には区別できないんですよ。それでどうしても統計的にたくさん溜めて一年間で夏と冬ではイベントレートが違うという話にならざるをえない。具体的に言うと、我々の太陽系に暗黒物質は一様にあるんですが、太陽系は銀河の回転と一緒にぐるぐる回り、さらに太陽の周りを地球が公転しているので、銀河系の中で太陽系が動いている方向と地球の公転方向が、同じフェーズになった時と反対のフェーズの時で、暗黒物質に対する速度が多少変わるので、その差をとらえようというのが今の暗黒物質探索の主流の方法です。 そうではなく、銀河系はすごいスピードで渦を巻いているので、暗黒物質の風みたいなものを直接とらえたい、銀河系の中を動いている地球に向かって来る暗黒物質が入ってくる方向に対して感度がある検出器が作りたいというのが究極の目標です。僕の博士論文は実はそういう研究で、一番思い入れもあるし、暗黒物質を究極的にとらえようと思ったら、絶対それをやらなきゃいけないと思って、つねに何か考えています。
暗黒物質から受け渡されるエネルギーはすごく小さいので、本当は固体だと動かないんですよ。だけどガスでは暗黒物質探索にはターゲットのボリュームが小さすぎる。そこで僕は発想を変えて、完全な方向をとらえられなくても、ある程度の情報があればいいと考えると、実は固体の結晶が使えるんです。入ってくる方向によって光る量が違う結晶というのがあって、それを使って暗黒物質の方向に関する情報をなんでもいいから得たいと思っています。方向によって発光量の違いがあれば、一年間データを溜めるよりよほど信頼性のあることが言える。地球に暗黒物質がやってくる方向によって発光量が違うから、一日の間で発光量が変わってくることがわかるので。

プロジェクトはある意味、雇われている以上やらなければならない仕事ですが、科研費では、将来的なことを考え、夢を秘めて、自分の趣味といっては怒られるかもしれないけれども、研究者として自分のやりたいことを実現するためにやっています。

科研費採択のコツ

やっぱりなんかコツはあるんでしょうね。不採択の場合、上位に入っているがここが足りないといった審査結果が返ってきますよね。2回目はそれを補強して、宇宙線研のレビューでいただいたコメントもちゃんと反映させてやっています。外部の人に一度目を通してもらって、だれが読んでも納得できるような文章になっていないとだめなんですよね。科研費の文章は、みんなワクワクするように書いてあるし、みんな優れていて、審査する人も甲乙つけがたいと思うんですよね。審査員は、分布で何を何%つけろと言われるから仕方がないんだけど、ちょっとでも変な、つっこまれるような箇所を残したらまずいなと思います。
あとは宇宙線研の問題だと思うんですけど、プロジェクトがすごく重いんですよね。ほんとはエフォート50%ぐらい書きたいんですけど、そんなことはありえない。だから外部に協力者を作って、本当にその人が働いてできそうな計画にしています。むしろ外に一緒に研究してくれそうな人がいたら、その人に合った研究を考えるくらいのことをしないと、宇宙線研だと厳しいかもしれないなと思います。例えばエフォートを40%と書いたら、審査員にSKもXMASSもやっていてできるわけないと思われるじゃないですか。外部に共同研究者を見つけるのが重要かなと思います。過去の研究でできた人のつながりが、さらに発展しているという面もありますね。
挑戦的萌芽は、難しいことなんだけど、できそうな計画を立てなきゃいけないじゃないですか。僕の場合は挑戦的ではあるけれども、ちょっと違う分野の人の協力を仰ぐことによって、できそうな計画になって、実際終わったものはちゃんと論文になって成果もでていますし、その前の萌芽は特許まで取りました。やりたいことをやっているから、真剣になれるんですよね。若手Aが今年で終わるので、せっかくなので次、基盤で出そうと思っています。

     
特許について

特許は、一回やってみてすごく大変でした。もともと僕は技術志向で、技術的に新しい検出器などを作ってそれで新しい物理をやるのが好きなので、せっかく新しい技術を自分で開発したら、ちゃんと特許なりなんなり一度やってみたかったので。企業と一緒に何かやって、その企業に役立つことができたら特許も出したらいいと思います。弁理士の人に相談できればいいのかもしれない。神岡専属まではいらないけれども、そこは東大全体で。
神岡の場合は特殊ですよね。光電子増倍管とか、計算機とか、水もそうですけど、一緒に開発しているけど開発費は結局東大が払っていて、学生がいろいろ評価もした上で、出来上がった製品に対しても東大が買わなきゃならないので、その辺は難しい。初めから企業がやりたいと思っていることを大学としてやらないとやっぱり企業としてはメリットないから、宇宙線研だとその点どうしてもすごくニッチな分野なので。
でもやっているなかで実はすごいものができたみたいなこともあるわけですよ。光電子増倍管とか、ここで開発されたものが結局ほかの実験で先に使われて、そっちでいい成果を出すなんてこともざらですしね。本当に一緒に開発したのだったら、一緒に特許を取って、他の実験に使ったならば、他の実験の費用の一部が東大にバックされるようになってもいいんですけど。契約も専門家がいればそういう風にできるのかもしれない。ただそうすると企業としてはあまり他に展開できないものを東大のためにやっているのに、そんな面倒くさいことはやらないといわれるかもしれないし、難しい問題ですね。

     

科研費と私 過去

     
2015年インタビュー
重力波推進室助教 山元一広さん

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