研究所紹介
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TA/AGASA (高エネルギー宇宙線研究部門) [研究所HP]
研究目的と装置
AGASA(広域空気シャワー観測装置)は、山梨県明野村から北西の6市町村にまたがる高原に設置され、1991年より安定して連続稼働しています。研究の目的は、宇宙から飛来する高エネルギーの宇宙線を観測し、その起源となった現象を探索することです。高エネルギーの宇宙線は大気中の原子核と衝突して2次粒子を生み、それがまた粒子を生んで、1000億個もの粒子がシャワー状になって地上に降ります。これを捕らえてその起源を探ります。
AGASAは、荷電粒子が通過すると光を発する特殊プラスチックを用いた検出器(シンチレータ)を、約1?間隔で111台、地上に一面に並べたものです。それを光ファイバーでつないでデータ取得しています。有効面積は100平方kmで、世界最大です。
 
研究の実況
図1: AGASAで測定された宇宙線のエネルギー分布。 青波線が理論の限界を表す。 図2: 4x1019電子ボルトを超える宇宙線の飛来方向分布。 水色の円は2個、紫の円は3個集中しているところ。
高エネルギーとはいっても、1020電子ボルト以上のものは捕まえられないと考えられてきました。これは地上の加速器で作り出せる1億倍のエネルギーですが、このような高エネルギーの宇宙線は飛んでくる途中でビックバン名残の光子と衝突して急速にエネルギーを失い、地球にくるまでに低エネルギーになってしまうはずだからです。
ところが、AGASAの10年間にわたる観測で、1020電子ボルトを超える高エネルギー宇宙線が10例も検出されました(図1参照)。これほど高いエネルギーなら磁場も直進するので起源が分かると思われました。

しかし、その飛来方向には、高いエネルギーの元になるような天体は見つかりません。しかも最近の観測で、飛来方向にかなり集中した所があるのが分かってきました(図2参照)。これらの結果は、今までの理論が間違っているのか、従来考えられなかったような高エネルギー現象があるか、そのどちらかであることを示唆しています。
理論の間違いだとしたら、特殊相対性理論が高エネルギーについては成り立たないことを発見したことになります。高エネルギー現象だとしたら、ビックバンの超高温を閉じこめた点かひもが崩壊したか、または宇宙線が激しいガンマ線バーストで加速されたといった、今までに考えられなかった現象を発見したことになります。また検証が進めば、ビックバン宇宙や高エネルギー天体についての解明が大きく進むことは間違いありません。
図3: 宇宙線望遠鏡(TA)の観測ステーション想像図 図4: 宇宙線望遠鏡の部分となる試作望遠鏡(柏に設置)

問題の解明のために我々は、AGASAの100倍の感度を持つ宇宙線望遠鏡(TA:テレスコープアイ)の計画を進めています(図3参照)。宇宙線望遠鏡(TA)では、空気シャワーから放出される微かな蛍光を、大口径の広視野望遠鏡で捉えます。感度が非常に良いだけでなく、空気シャワーを立体的に捉えることができ、親の粒子の組成も同定できます。従って、量が増えるだけでなく質的に格段に飛躍したデータが望めます。宇宙線望遠鏡(TA)によって、謎に満ちた最高エネルギー宇宙線の起源が明らかになると期待できます。また、従来観測できなかった最高エネルギーニュートリノの検出も期待できます。

我々は、宇宙線望遠鏡(TA)の実現に向け、検出器の一部を宇宙線研究所と明野観測所とに設置して、試験研究を進めています(図4参照)。

図5: 最新のデジタル信号処理技術を駆使した信号変換認識回路 図6: 大気中での蛍光の消散率をモニターするライダー装置(明野に設置)
開発の重点は
(1) 電子回路系による信号処理、トリガー、データ取得方法の確立。 (2) 空気シャワーからの微弱な蛍光が大気分子や塵によって消散する割合のモニターと その較正方法の確率、です。
現在、(1)については、最新のデジタル信号処理回路(DSP)を駆使した電子回路計の設計・開発が完了し、満足のゆく性能が得られています(図5参照)。

また、(2)については、レーザーを大気めがけて射出し、その反射光を観測するレーザーレーダー(ライダー)という環境センシングの手法を応用し、時々刻々と変動する大気の蛍光に対する透明度をモニターする装置を開発しました。これは明野で実際の運用試験に入っています(図6参照)。