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TALE

公開日:2021.4.1

TALE計画 TA実験の北西隅にTAよりも高い密度で地上検出器を配置した領域があります。TA Low Energy Extensionの頭文字をとってTALE実験と呼び、文字通り、TAよりも低いエネルギーの宇宙線を観測しています。低いエネルギーの宇宙線は空気シャワーの広がりも小さいため、地上検出器を密集させて配置する必要があります。一方、低いエネルギーの宇宙線は到来頻度が高いので、全体の面積がTAより小さくても、十分な数の宇宙線を観測できます。

なんで低いエネルギー? TA実験は最高エネルギー宇宙線を測定するために始まりました。なぜわざわざ低いエネルギーに戻るのでしょうか?実は、低いエネルギーの宇宙線もまだまだわからないことが多いのです。様々な観測や理論的な考察から、我々の銀河系の中の天体は、10の15乗電子ボルトくらいまで宇宙線を加速できると考えられています。TA実験が観測する10の18乗電子ボルト以上の宇宙線は銀河系外からきているとされます。では、間の10の15乗から18乗電子ボルトの宇宙線はどこからくるのでしょう?

 銀河系の中で10の15乗電子ボルトが加速限界なのは陽子の話です。陽子が10の15乗電子ボルトまで加速されるなら、その2倍の電荷をもつヘリウムはその2倍、6倍の電荷をもつ炭素は6倍、そして、26倍の電荷をもつ鉄は26倍のエネルギーにまで加速されるはずです。つまり、10の15乗電子ボルトを超えると、宇宙線はだんだんと重い原子核が主成分になり、(大体)10の17乗電子ボルトでは鉄が主成分になると考えられます。ここが銀河宇宙線の限界です。鉄より重い原子核は宇宙には数が少ないので、これらが加速されても主成分になることはありません。

10の17乗電子ボルトで銀河宇宙線の加速限界になり数が減ると、少しずつ銀河系外宇宙線の寄与が目立ってきます。このエネルギーの銀河系外宇宙線はおそらく陽子が主成分なので、宇宙線の主成分は10の15乗電子ボルトから10の17乗電子ボルトに向かってだんだん重くなり、そのあとだんだん軽くなることが期待されます。これが宇宙線の「標準モデル」といえる考え方ですが、まだ観測的に確立しているわけではありません。TALEは世界で初めて、このエネルギー領域を、上(TA)のエネルギーから連続的に明らかにしていきます。

もう成果の出ているTALE TALEの装置は、高密度の地上検出器と、高めの高度にむけた大気蛍光望遠用(下写真) からなります。大気蛍光望遠鏡は2013年から運転を始めており、すでに重要な結果を報告しています。

下図左は、TAとTALEで測定した宇宙線のエネルギースペクトルで、TALEの結果がTAと連続的にきれいにつながっていることがわかります(R.U.Abbaso et al., Astrophys. Journal, 865:74 (2018))。また、10の17乗電子ボルト付近にセカンドニー(second knee)と呼ばれる折れ曲がりがあることも明らかにしました。セカンドニーは、低エネルギーから拡張している実験も最近報告している構造で、TALEによってもその存在が確認されました。10の17乗電子ボルトは上記のように、銀河宇宙線の加速限界が予想されるエネルギー領域なので、銀河宇宙線と銀河系外宇宙線のせめぎあいがこの構造を作ると想像できます。

大気蛍光望遠鏡は原子核種の推定も可能です。空気シャワーの最大発達高度(Xmax)の観測結果を下図右に示します(R.U.Abbaso et al., Astrophys. Journal, 909:178 (2021))。シミュレーションの予想と比較すると、10の15.5乗電子ボルトから10の17.5乗電子ボルトまで宇宙線がだんだん重い原子核になり、その上のエネルギーでは一定、あるいは軽くなる様子が見て取れます。宇宙線の標準モデルの予想と一致していて興味深い結果です。低エネルギーからの観測結果との比較や、シミュレーションに用いる相互作用モデルの不定性の低減など、他の実験と協力した研究が必要です。また、以下に述べるハイブリッド解析でさらに精度をあげることができます。

TALE 地上検出器の出番です 地上検出器の設置も進み、2018年からは大気蛍光望遠鏡とのハイブリッド観測も始まっています。ハイブリッド観測とは、大気蛍光望遠鏡で宇宙線を捉えたとき、同時に地上検出器の信号も記録する手法です。大気蛍光望遠鏡は、空気シャワーの像を観測地点に射影して観測しているので、奥行き方向の推定に誤差が出てしまいます。このとき、一台でも地上検出器の信号があれば、シャワーまでの距離が精度よく決まり、他の全ての観測量も高い精度で決定できます。図は実際に観測されたハイブリッド事象です。また、地上検出器は昼夜関係なく一年中観測を続けられるので、より多くの宇宙線事象を観測することができます。このような事象を蓄積して、宇宙線の標準モデル、銀河宇宙線と銀河系外宇宙線のせめぎ合いの様子を明らかにしていきます。