Profile
KAJITA, Takaaki
Distinguished University Professor (Institute for Cosmic Ray Research)
研究分野
大強度陽子加速器で生成されるスーパービームを用いたニュートリノ振動の研究
今後、ニュートリノ振動と質量の研究の精度を飛躍的に高めるため、茨城県東海村に建設中のJ-PARC加速器と、 岐阜県飛騨市神岡にある5万トンの純水を用いたスーパーカミオカンデ装置を用いたニュートリノ振動実験(T2K実験) の準備研究を行っています。この実験はニュートリノの飛行距離が295kmの次世代長基線ニュートリノ振動実験で、実験開始は2009年の予定です。この 実験では、年間に数千という大量のニュートリノ反応を観測してニュートリノ振動の詳細を研究することを目標にしています。特に、以下の2点の研究を大きな 目標としています。
(1) ニュートリノ振動の全体像を理解するために不可欠な第3の混合角(θ13と呼ばれています。今までにθ23は大気ニュートリノの観測(下記)とK2K長基線ニュートリノ振動実験により、またθ12は太陽ニュートリノの観測と原子炉ニュートリノ実験カムランドにより測られています。)を世界で初めて測定することが期待されています。
(2) また、ミュー型ニュートリノとタウ型ニュートリノ間の質量差や混合角(θ23)の測定精度を格段に上げることも期待されます。特にこの混合角が現在の実験で示唆されているように本当に最大(つまり45度)なのか否かの測定が注目されています。というのは、もし、45度であれば、それは何か深い理由があるに違いないと考えられているからです。
これらの研究を通して、ニュートリノの質量や混合角を知り、ひいては素粒子の大統一理論の発展に大きな貢献をすることが期待されています。
大気ニュートリノの観測とニュートリノ振動および質量の起源の研究
岐阜県飛騨市神岡にある5万トンの純水を用いたスーパーカミオカンデ装置で大気ニュートリノを観測し、そのデータを用いたニュートリノ振動の研究も行っています。
御存じの方も多いかも知れませんが、既にこの観測によってミュー型ニュートリノとタウ型ニュートリノ間のニュートリノ振動の画期的かつ決定的な証拠が得ら れています。今後はよりデータを増やし、またデータ解析方法を改良して、より精度良くニュートリノの質量やニュートリノ間の混合角を決定し、大統一理論な どの素粒子物理学の本質的な発展に貢献したいと考えています。
少し専門的になりますが、具体的には以下の研究を進めて行きたいと考えています。
(1) ニュートリノ振動で生成されたタウ型ニュートリノは実際にはまだ検出されていません。この検出を世界に先駆けて行いたいと考えています。
(2) 今までの研究では大気ニュートリノの解析をするときには、ミュー型ニュートリノとタウ型ニュートリノのニュートリノ振動を仮定してきました。しかし、実 際にはニュートリノには3種類あるので、きちんと3種類のニュートリノ間のニュートリノ振動を考える必要があります。今までの研究で、3種類のニュートリ ノ間のニュートリノ振動を考えると、いろいろとおもしろいニュートリノ振動研究ができることが指摘されています。この研究も今後重要な研究課題です。
(3) 大気ニュートリノの飛行距離は最大で地球の直径です。このような飛行距離を持つ実験は加速器のニュートリノ実験では実現できないので、この特性を利用して、ニュートリノ質量や混合角以外のニュートリノの性質に関する研究も進めていきたいと考えています。
いずれの研究もニュートリノの研究を飛躍的に発展させる重要な研究です。
将来のニュートリノ検出器の開発
ところで、この宇宙には物質がありますが、反物質はありません。この謎を解く鍵がニュートリノ振動の研究の中にあることが近年分かってきました。 もし、ニュートリノ振動の様子がニュートリノと反ニュートリノで違えば、この宇宙の根本的な問題を解決できるのです。しかしこれは簡単な実験ではなく、 おそらくスーパーカミオカンデよりもさらに20倍くらい大きく、約100万トンの純水を用いたニュートリノ検出器(ハイパーカミオカンデ) が必要だと考えています。この研究のための基礎研究も行っています。
また大気ニュートリノの観測データを用いて素粒子の大統一理論で予言されている陽子の崩壊も探索しています。現在のところまだ陽子崩壊は観測されていませんが、 理論的にはもういつ観測されてもおかしくないはずで、今後の観測が期待されます。また、上で述べたさらに大きな検出器(ハイパーカミオカンデ) ができれば陽子崩壊を観測できる可能性が飛躍的に高まると期待されています。
大学院を受験される学生の方へ
講義・公演・その他
「ニュートリノ物理学と関連する物理」(東京理科大学物理学 特別講義B 2008年度)
この解説は雑誌「ILLUME」に掲載されたものを出版社の許可を得てこのホームページで公開しています。一部写真の転載が認められていない部分は除いてあります。
研究室OB/OGの学位論文
奥村公宏
博士論文 “Observation of Atmospheric Neutrinos in Super-Kamiokande and a Neutrino Oscillation Analysis” (東京大学1999年) [PDF]
石原賢司
博士論文 “Study of νμ→ντ and νμ→νsterile Neutrino Oscillations with Atmospheric Neutrino Data in Super-Kamiokande” (東京大学1999年) [PDF]
亀田純
博士論文 “Detailed Studies of neutrino oscillation with atmospheric neutrinos of wide energy range from 100 MeV to 1000 GeV in Super-Kamiokande” (東京大学2002年) [PDF]
武長由美子
博士論文 “Atmospheric neutrino oscillation analysis with solar terms in Super-Kamiokande” (東京大学2008年) [PDF]