私達は、チベット空気シャワーアレイを用い、地球に到来する高エネルギー 宇宙線、高エネルギーガンマ線を観測しています。原理については こちら (工事中) をご覧下さい。
チベット空気シャワーアレイの性能は以下の様になっています。
有効面積 | 37,000 m2 |
トリガ頻度 | 1,700 Hz |
エネルギー閾値 | 3 TeV |
角度分解能 | 1°@ 3 TeV:0.2°@ 100 TeV |
エネルギー分解能 | 100% @ 3 TeV:30% @ 100 TeV |
この空気シャワーアレイは、以下のようにさまざまな研究に使うことができます。
人間の作る加速器では到達できないような高エネルギーの粒子が、宇宙から到来しています。
誰がどこでどのように
粒子を加速したのでしょうか?
現在のところ、その加速器は特定されていません。ただ、超新星爆発の際の 衝撃波は 1016 程度まで粒子を加速可能であることが理論から分かっています。観測されている宇宙線が、超新星残骸で加速されたものかを検証する一つの方法に、核種別のエネルギー限界 (加速限界) を測定することが挙げられます。それは、
衝撃波による加速の場合、
加速限界は原子核によって異なる (∝Z)
からです。
チベットグループでは、その観測高度の高さから、空気シャワーの中心付近を観測することにより、空気シャワーを作った核種がなんであるか識別することができます。 宇宙線全部のスペクトラムは 3×1015 で折れ曲がっている (knee) ことが分かっていましたが、チベットグループの観測により、陽子のみを測定した場合 折れ曲がり (加速限界) はそれより低いエネルギーであることが示唆されています。
そして、鉄の原子核のみを測定しようというのが次の計画です。陽子の折れ曲がり の30倍程度のエネルギーで折れ曲がっていれば、超新星残骸で加速されていることの強い証拠となります。
しかし!!!
現在宇宙線の化学組成については、チベットグループとヨーロッパのグループで 結果に相違が出てきています。その原因は、ハドロン相互作用モデルに、不確定性 が大きいからです。 異なる原理で測定すると、矛盾した結果が出てしまうのです。 CERNに建設中の加速器 LHC (Large Hadron Collider) (写真) で、最初に行われる実験 (LHCf実験) により、ハドロン相互作用モデルの不確定性は減ります。 チベットグループからも二人の先生がLHCf実験に参加されています。
どちらが正しかったのか、数年後にははっきりするでしょう。
http://www.phys.ufl.edu/~matchev/LHCJC/lhc.html
また、近々開始される衛星実験や気球実験で 1012-14 eV 付近の化学組成が十分な精度で測定されます。化学組成の分かっているエネルギー領域でわれわれが空気シャワーを観測することにより、ハドロン相互作用のモデルを検証することもできるのです。
宇宙線の加速現場が未解明であることは前述の通りですが、加速現場を特定する方法の一つとして、TeVガンマ線源を探索することが挙げられます。なぜなら、高エネルギー原子核が星間物質と相互作用すれば、中性パイ中間子が作られてガンマ線が必ず放出されるからです。
p + p → π0 + … → γ + γ + …
ガンマ線は電荷を持たないので、銀河磁場に散乱されることなく、直進します。宇宙線の加速現場は、TeVガンマ線で光って見えると言えます。チベットグループでは、これまで、活動銀河核Mrk421、Mrk501、超新星残骸かに星雲等からTeVガンマ線を観測してきました。他波長の観測と合わせて考えると、これらで原子核が加速されているとは断定できませんでした (電子が加速されているようです)。
カニ星雲 | Mrk421 |
Mrk501 | |
原子核が加速されているのはどこなのか、それを決定づけるのが次期計画チベットMDアレイです。空気シャワー中のミューオン数だけを選択的に観測することにより、バックグラウンド事象を減らし、感度を数十倍向上させて全天探索を行います。未知の100TeVガンマ線放射天体が発見されることでしょう。
電波、赤外線、可視光、紫外線、X線、MeVガンマ線、GeVガンマ線、様々なエネルギー領域で全天の探索がなされてきました。それぞれのエネルギー領域で、さまざまな物理現象が発見されました。
私たちは、100TeVガンマ線の高感度観測を行います。未知の100TeVガンマ線放射天体が発見され、宇宙線の加速現場が特定されると期待されています。
http://www.nasa.gov/centers/goddard/home/index.html
http://adc.gsfc.nasa.gov/mw/mmw_product.html
また、銀河面からは拡散100TeVガンマ線も観測され、宇宙線の伝播についても重要な知見が得られるでしょう。
われわれの銀河の質量の90%は暗黒物質 (ダークマター) ででできています。それらの正体が100TeV以上の質量をもった新粒子であり、ある程度の寿命で崩壊してガンマ線を放出するのであれば、我々はそれを検出できるかも知れません。 …まぁ、都合の良すぎる仮定ですけど。
X → γ + … 100TeV領域ガンマ線の全天地図は、誰も見たことがありません。未知の物理がかくれていることは、十分に考えられることです。
天体の磁場を測定するにはゼーマン効果などを利用しますが、惑星間空間の磁場を測定するには、探査機などをとばすしかありません。しかし、太陽近傍に探査機を飛ばすことはできません。
到来する宇宙線を利用することにより、太陽近傍も含めた惑星間空間磁場について検証することができます。理由を説明します。
宇宙線はほぼ等方的に飛来しています。しかし、地球の周りには月があります。月によって宇宙線は遮蔽され、月の方向にぽっかりと穴が空いたように観測されます。私たちはこの穴のことを月の影 (次図) と呼んでいます。
← 月の影 (3D) | |
← 月の影の原理 (模式図) |
月には磁場はなく、さらにとても近いので、(地磁気の影響を差し引けば) 月の影の方向は月の方向となり、影の深さも期待される値になります。
月の影と同様、太陽の影という物も観測されます。しかし、太陽には月と違って磁場があり、太陽風と呼ばれるプラズマ流が惑星間空間に強い磁場を作りだしています。さらに、その磁場は11年の周期で変動しています (次図)。
したがって、太陽の影は位置、深さが変動します。
この変動から、測定の難しい太陽磁場のモデルを検証することができるのです。1000Hzを越える頻度で宇宙線を測定できるチベット空気シャワーアレイならではの結果です。
銀河には3マイクロガウス程度の磁場があり、宇宙線は磁場により散乱されてしまうので、ほぼ一様等方に到来します。
しかし、チベット空気シャワーアレイの大統計量のデータを解析することにより、宇宙線には0.1%程度の異方性があることがわかりました (次図)。太陽系近傍の磁場の精密構造に重要な知見を与える結果です。
また、地球は太陽の回りを回っているので、進行方向からはより多くの宇宙線が観測され、逆方向からは少なく観測されるという効果が見られます (コンプトン・ゲッティング効果)。チベット空気シャワーアレイのデータから、その効果が確かに観測されています (次図)。
さて、太陽系は銀河の中を時速300kmで白鳥座の方向に進んでいます。銀河のハローに トラップされている暗黒物質は、この太陽系の運動により、進行方向から多く観測 されると考えられています。 宇宙線も銀河に閉じ込められているのだから、同じように異方性が見られるのでは ないかと予想されます。
しかし!!
実際には太陽系の運動による宇宙線の異方性は観測されません。 このことは、宇宙線が太陽系とともに動いていることを意味します。
とても不思議な感じがしますが、銀河磁場のなせる業です。