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概要
チェレンコフ望遠鏡アレイ天文台(Cherenkov Telescope Array Observatory、CTAO)は、超高エネルギー宇宙ガンマ線により宇宙観測をするための国際天文台です。銀河系内の宇宙線加速天体はなにかという謎の解明や、銀河中心方向のガンマ線間接探索手法を用いた暗黒物質の発見などを目指し、天文学から素粒子にまたがる高エネルギー宇宙素粒子物理学の研究を進めるための大型国際共同プロジェクトです。2020 年代の完成を目指し、私たちの研究室では望遠鏡の装置開発や初期観測を進めています。
CTAO は天球のあらゆる方向をガンマ線で観測するため、図 1.〜2. に示すように、北半球と南半球のそれぞれに望遠鏡群を設置します。CTAO では大気チェレンコフ光と呼ばれる大気の発光現象を大型の可視・紫外望遠鏡で撮影することで、20 GeV〜300 TeV のエネルギー帯域で宇宙ガンマ線のエネルギーと到来方向を測定します。このエネルギー帯域は電磁波を使った他の宇宙観測(電波・赤外・可視・紫外・X 線)よりもさらに高エネルギーであり、宇宙の高エネルギー現象を観るための優れた手段です。特に高エネルギー天体で加速される陽子や電子(宇宙線)の情報を、宇宙線から二次的に発生するガンマ線を観測することで得ることができます。
CTAO では 2 桁以上にわたるエネルギー帯域でガンマ線を検出するため、エネルギーに合わせて複数の大きさの望遠鏡を使用します。20 GeV〜3 TeV の低エネルギー帯域は直径 23 m の大口径望遠鏡(Large-Sized Telescope、LST、図 3.)、80 GeV〜50 TeV の中間エネルギー低域は直径 12 m の中口径望遠鏡(Medium-Sized Telescope MST)、そして 2〜300 TeV の高エネルギー帯域は直径 4 m の小口径望遠鏡(Small-Sized Telescope、SST、図 4.)がガンマ線観測をそれぞれ担います。
図 3. ラパルマ島に建設した、直径 23 m の大口径望遠鏡の初号機(LST-1)。左側が六角形の分割鏡を組み合わせた放物鏡、右側の白い箱は焦点面カメラ。
図 4. テネリフェ島に建設した、小口径望遠鏡の最終設計とほぼ同型の望遠鏡試作機。中央に見えるのが六角形の分割鏡を組み合わせた非球面の主鏡、左端の赤い部分は副鏡(鏡面は見えない)、副鏡に隠れる黒い箱が焦点面カメラ。向かって左端が奥村。
宇宙線研究所の高エネルギー宇宙線研究部門、そしてそこに属する奥村研究室では、2009 年頃から CTAO の立案、光学系や焦点面カメラの装置開発、そして初期望遠鏡による観測開始に携わってきました。特に CTAO の小口径望遠鏡と大口径望遠鏡の開発で中心的な役割を果たしています。
ガンマ線観測の仕組み
宇宙から TeV(1012 電子ボルト)帯域のガンマ線が地球に飛来すると、大気中の原子核の周辺のクーロン場とガンマ線が相互作用することによって電子・陽電子対生成が起きます。これら電子対は元のガンマ線の半分のエネルギーを持ち、原子核の持つ電荷によって制動放射を起こし、ガンマ線を発生させます。これらガンマ線は先と同様に再び対生成を起こすため、結果として大気中に大量の電子・陽電子対とガンマ線が発生することになります。
これら大量の二次粒子を「空気シャワー」と呼びます。高エネルギーの電子・陽電子は真空中の光速近くで運動するため、大気中の光速よりも速くなるため、チェレンコフ光(大気チェレンコフ光)を発生します。この光は微弱(1 TeV のガンマ線の場合、地上で 1 平米あたり数百光子程度)ですが、直径の大きな鏡で集光することで検出が可能になります。またこのチェレンコフ光の光量や入射角度情報を解析することで、宇宙ガンマ線のエネルギーと到来方向を推定することが可能です。
CTAO ではこの大気チェレンコフ光を検出するため、チェレンコフの C が名前の先頭に入っています。
ガンマ線由来のチェレンコフ光は微弱なため、露光時間の長い夜空の撮影では星や大気の光に紛れてしまいます。しかし空気シャワーとチェレンコフ光はほぼ光速で一体となって地上に降り注ぐため、地上に到達したチェレンコフ光の継続時間は 10 ナノ秒程度です。そこで焦点面カメラには 1 ナノ秒ごとに画像を連続撮影できるような超高速のカメラを採用することで、夜空が瞬間的に明るくなったときの動画のみを記録、ガンマ線の観測を可能にしています。
銀河系内宇宙線加速天体の探索
CTAO は国際共同の大規模な天文台であるため、狙う物理は様々です。宇宙線研究所の中で一緒に研究する教員や大学院生であっても、それぞれが興味を持つ天体や物理現象は異なります。
奥村がその中でも興味を持つのが、銀河系内の宇宙線加速天体の一つである PeVatron(ペバトロン)です。銀河系内や銀河系外の高エネルギー天体で加速されていると考えられる陽子や電子は宇宙線と呼ばれ、その一部は地球に飛来していることが人工衛星や地上実験による宇宙線観測から分かっています。このうち 1012 電子ボルト(PeV)のエネルギー帯域にまで達する宇宙線陽子は銀河系内のどこかで加速されたものだと考えられていますが、その加速天体が実際には何であるのかは長らく未解明です。この未発見の仮想的な加速天体を PeVatron と呼びます。
PeVatron で加速された 1 PeV のエネルギーを持つ宇宙線陽子がその周辺で星間物質(水素やヘリウム)に衝突すると、中性 π 中間子が生成され、その 2 体崩壊によって 2 つのガンマ線が放射されます。このガンマ線は元の宇宙線陽子の 10% 程度のエネルギーを持つため、天球の特定方向から来る 100 TeV 程度のガンマ線を我々が小口径望遠鏡で検出できれば、そこに銀河系内宇宙線加速天体が潜んでいるということになります。
シンチレーターや水タンクを用いた北半球にあるガンマ線観測施設(Tibet ASγ 実験や LHAASO 実験)で PeVatron 候補が検出されつつありますが、銀河中心領域を含む南天を超高感度で探査可能な観測施設はまだ存在していません。角度分解能やエネルギー分解能に優れた CTAO 小口径望遠鏡を使って銀河中心領域や銀河面を長時間観測することで、PeVatron の発見やその空間分布を調べ上げることが可能になると期待しています。
また奥村の参加する別のガンマ線観測プロジェクト、ALPACA 実験も南半球のボリビアで観測を開始するため、CTAO と ALPACA の協調によって、より PeVatron の詳しい研究ができるようになります。
暗黒物質の間接探索
小口径望遠鏡
大口径望遠鏡