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TAの研究

概要 狙い グループ
装置 写真・図 初期の結果

テレスコープアレイ実験の概要

  • 宇宙線のエネルギーに上限はあるのか?
  • 最高エネルギー宇宙線は何処で発生し、どのようにして地球に到達するのか?
  • 最高エネルギー宇宙線はどんな粒子か?

これらの宇宙の大きな謎を解明するために、米国ユタ州の砂漠地帯で700km2の地表をカバーする「宇宙線望遠鏡(Telescope Array)」が2008年3月に完成し、観測が始まりました。 最高エネルギーの宇宙線が地球に到達すると、大気中の原子核と衝突して鼠算式に粒子数が増え、1000億個を越える粒子の集団、「空気シャワー」となって一瞬のうちに地表に降り注ぎます。 TAでは、これを1.2kmの間隔で碁盤目状に配置した507台のプラスチックシンチレータ地表粒子検出器アレイで検出します。 同時に、アレイを囲むように周辺の丘3箇所に建設した大気蛍光望遠鏡で、空気シャワーによる大気の発光を撮像します。

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実験の狙い

最高エネルギー宇宙線の起源は何か。活動的な天体が起源?それとも未知の素粒子が起源?

活動的な天体が起源か?

  • AGN:巨大ブラックホールとジェット
  • ガンマ線バースト:最強爆発
  • マグネター:最強磁場
  • 衝突銀河、電波銀河

未知の素粒子が起源か?

  • ビッグバン初期の超重粒子
  • 宇宙紐、ドメイン壁

TA実験による観測

  • 超高エネルギー宇宙線のエネルギーの測定(1017.5eV~1020.5eV)
    • 超高エネルギー宇宙線の到来頻度分布(エネルギースペクトル)を求める。
      • エネルギースペクトルに折れ曲がりあるいは急激な減少が見られればある物理現象が起こっている可能性が高い。
      • GZKカットオフ: 1019.7eV付近にスペクトルの急激な減少があれば、宇宙マイクロ波背景(CMB光子と超高エネルギー陽子宇宙線との衝突の際にπ中間子生成でエネルギーを損失することによって起こる理論的限界(GZKカットオフ)の可能性あり。
      • アンクル: 1018.5eV付近のスペクトルの折れ曲がり(ankle)は、CMB光子と陽子宇宙線との衝突による電子陽電子生成あるいは銀河系内宇宙線から銀河系外宇宙線への遷移の可能性あり。
  • 超高エネルギー宇宙線は陽子、鉄?超高エネルギーガンマ線あるいはニュートリノは存在するか。
    • 極高エネルギー宇宙線が陽子であれば、CMB光子との衝突によるスペクトルの急激な減少がGZKカットオフである傍証。
    • 超高エネルギーガンマ線、ニュートリノ探索
      • 超重粒子の崩壊、位相欠陥(宇宙紐、磁気ポールなど)、ニュートリノ+反ニュートリノ相互作用(Zバースト)などのエキゾチックな現象の可能性もあり。
      • GZK過程(p+γCMB→Δ→π+N)の産物としてのガンマ線、ニュートリノの生成の可能性もあり。
        • π±→μ±μ(anti-νμ)→e±+νe(anti-νe)+νμ+anti-νμ
        • π0-->2γ
  • 超高エネルギー宇宙線はどこからやってくるか。
    • 最高エネルギー宇宙線は銀河系内磁場でほとんど曲がらず進んでくると予想される。
      • AGNといった特徴的な活動的な天体と宇宙線の到来方向に相関があれば、その天体が最高エネルギー宇宙線の起源の可能性があり。
      • 超高エネルギー宇宙線の到来方向が一様ではなく、宇宙の大規模構造と相関がある可能性あり。宇宙線のエネルギーが低いと磁場の影響を受けやすいので、銀河磁場の情報が得られる可能性あり。

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TA実験グループ

TA実験グループは、日本・米国・韓国・ロシア(+ベルギー)の国際共同実験で、26機関、約120名の研究者からなります。日本グループは半数の約60名です。年に約3回TAグループ会議が主に日本と米国で開かれています。またTA解析会議を含めて、梨花女子大学(韓国のソウル)、原子核研究所(ロシアのモスクワ)、ブリュッセル自由大学(ベルギーのブリュッセル)でも会議を開いています。

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TAの観測装置

TA実験装置(図1)は北半球最大の宇宙線観測装置で、地表粒子検出器(図2)と大気蛍光望遠鏡(図3)のハイブリッド観測を行っています。TA実験では、AGASAが使用していた測定器と同じタイプのプラスチックシンチレータを地表粒子検出器と して使用しています。また、HiResと同じタイプの大気蛍光望遠鏡も使用しています。AGASAとHiResの結果の食い違いが測定器の違いによる系統誤差によるものであるかどうかを確認することができます。 最高エネルギー宇宙線の観測所としては、米国ユタ州に稼動している我々のテレスコープアレイ実験装置の他に、 南米アルゼンチンでPierre Auger観測所が稼動しています。 TAの大きな強みとしては以下の3点が挙げられます。

  1. プラスチックシンチレータを地表粒子検出器として用いていること、
  2. HiResの観測装置をTAの3箇所の大気蛍光望遠鏡ステーションの内の1ステーションに移設したこと、
  3. 電子加速器(Electron Light Source: ELS)TAサイトに設置して、加速器からの全エネルギーが分かった電子ビームを用いて疑似空気シャワーを発生させて、大気蛍光望遠鏡のEnd-to-Endの絶対較正を行うこと。

  1. TA実験では、地表粒子検出器として、プラスチックシンチレータを 使用しており、Augerは水タンクを使用しています。 プラスチックシンチレータは空気シャワーのエネルギーの約90%を占める電磁成分に感度があり、宇宙線のエネルギーを決定する上で、ハドロン相互作用モデルや宇宙線の化学組成の違いの影響が小さいと予想されます。 これに対して、Augerで使用している水タンクでは、ハドロン相互作用モデルや化学組成の影響が大きいミューオンに感度があります。 したがって、Augerでは、原理的にAGASAHiResの違いという重要な問題点を解決することができないと予想されます。 TAの地表粒子検出器は2008年3月にはほぼ全稼働して、大気蛍光望遠鏡と合わせてハイブリッド観測でデータ収集が行われています。
  2. 最高エネルギー宇宙線のエネルギースペクトルの問題は、AGASAHiResとの結果の違いを発端としています。 HiResの望遠鏡システムを、配置とトリガー部分を変えた程度でほとんどそのまま使用するということで、TAの北側の1ステーションに移設しました。 このことにより、TAサイトでTAの望遠鏡を用いて、HiResの望遠鏡をチェックすることができます。TAの3つの望遠鏡ステーションは2007年11月には全稼働してデータ収集が行われています。
  3. 宇宙線の空気シャワーの観測では、これまで望遠鏡の感度較正の基本は、光電子増倍管(PMT)の量子効率や 大気の発光効率など関連する要素を絶対値で測定して積み上げることでした。このような従来の方式で全ての パラメータを測定して管理するのは困難な仕事であり、見過ごしや不注意な誤りで全体の較正が狂ってしまう 可能性があります。このような危険を避けるために、望遠鏡装置全体の感度を一括して較正できる標準光源がぜひとも実験現場で必要です。そこで
    • ビーム粒子:電子
    • エネルギー:10、20、30、40MeV (可変)
    • パルス幅:1μ秒
    • ピーク電流値:0.16mA (109電子(=160pC)/pulse)
    • 加速高周波:Sバンド(2856MHz)
    • パルス頻度:0.5Hz
    • 望遠鏡ステーションからの距離:100m(100m先の40MeVx109電子は10km先の1020eVのシャワーに相当)
    の仕様をもつ小型電子加速器からのビームを使った望遠鏡の較正に注目しました。全エネルギーが分かった電子ビームを空気中に垂直照射し、その疑似シャワーを望遠鏡で観測することによって望遠鏡をend-to-endでエネルギーで較正します(図4)。 我々が初考案したこれまで、どの実験でもできなかった観測現場でのEnd-to-endのエネルギーの絶対較正が、 茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)の技術を応用し、資源の活用をすることによって、 TA実験において初めて実現できる予定です。 2007年末まで電子加速器の設計・組立を行い(図5)、2008年初めより、加速器全体としてのビーム試験を行いました。 2009年3月には日本から米国へ向けて輸出し、現地(BRMサイトの望遠鏡ステーションの前方100m)に設置しました(図6)。2010年の夏以降にはTAサイトで加速器を稼働させ、2011年9月に電子ビームを射出し、大気蛍光望遠鏡による撮像に成功しました(図7)。今後大気蛍光望遠鏡の較正作業を行う予定です。

大気望遠鏡では、遠方の空気シャワーを観測する場合には大気の状態や大気透明度を把握する必要があります。このために次のようなモニターシステムを運用しています。

    • LIDAR system
      • 大気蛍光望遠鏡ステーションから100m離れた天体ドームに射出方向を制御できるNd:YAGレーザー(波長355nm)と、レーザー光線の後方散乱光を測定する専用の望遠鏡と受光装置を設置しています。後方散乱光の強度の時間分布を測定することにより、レーザー光線の奥行き方向の大気透明度を知ることができます。
    • 中央レーザー施設(Central Laser Facility: CLF)
      • Nd:YAGレーザーを用いてレーザー光線の側方散乱光を大気蛍光望遠鏡で観測するCLFシステムがあります。3箇所の大気蛍光望遠鏡ステーションから等距離となる位置に配置され、全てのステーションの標準光源として活用されます。
    • 雲モニター(Cloud monitor)
      • 雲が存在すると観測効率が低下するので、定常的な雲モニターが欠かせません。赤外線カメラを用いて夜空との温度差から判定します。

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    TAの写真および図

    TAの地表粒子検出器および大気蛍光望遠鏡

    図1: TAの全体配置図。黒い四角は地表粒子検出器を、緑の四角は大気蛍光望遠鏡ステーションを示す。 図2: フィールドに設置した地表粒子検出器。面積3m2のプラスチックシンチレータを使用している。

    図3: 大気蛍光望遠鏡ステーション。球面反射鏡を使った望遠鏡を12台設置している。

    電子加速器(ELS)関連

    図4: ELSおよび望遠鏡ステーションの配置図。 図5: ELSのデザイン。

    図6: ELSの現地での設置写真。 図7: ELSからのビームによる疑似シャワーを望遠鏡で最初に撮像したイメージ。


     

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    TAの初期のpreliminaryな結果 (最近の結果は研究成果で)

    エネルギースペクトル(Energy spectrum)

    図8: TAのpreliminaryなスペクトル。緑色のデータが大気蛍光望遠鏡と地表粒子検出器両方使ったハイブリッド解析によるスペクトル。黒色のデータはHiResを移設したMDサイトの単眼望遠鏡解析によるスペクトル。赤色データは地表粒子検出器を使ったスペクトル(ただし、エネルギーは望遠鏡のエネルギーにスケールしている)。 図9: TAのpreliminaryなスペクトルをこれまでの実験(HiRes、Auger、AGASA)のスペクトルとともにプロットしたもの。

    質量組成(Mass composition)

    図10: 1018.8電子ボルトから1019.0電子ボルトまでの宇宙線の空気シャワー最大発達深さXmax分布。黒色のデータが大気蛍光望遠鏡のステレオ観測によって求めたTAのpreliminaryなデータ。ヒストグラムはQGSJET-01モンテカルロシミュレーション(赤色が陽子、青色が鉄)。 図11: 平均の再構成したXmax vs. エネルギー。黒色のデータがTAのpreliminaryなデータ。赤い線が陽子モデルで、青い線が鉄モデル。実線がQGSJET-01モデルで、破線がSIBYLLモデル。

    AGNと宇宙線の到来方向の相関(AGN correlation)

    図12: VCVカタログからの近傍のAGN(ピンク色のデータ)とTAの57EeV以上の宇宙線の到来方向(青色のデータ)のハンメル投影法による天球図(赤道座標)。 図13: AGNとの相関のpreliminaryな結果。横軸は観測された57EeV以上の宇宙線事象数で、縦軸はAGNと3.1度以内で相関があった事象数。赤色の十字がTAのデータ。青色の実線が2007年のAugerの結果からの期待値。黒色の実線はバックグランド。

    大規模構造と宇宙線の到来方向の相関(correlation with LSS)と自己相関

    図14: 大規模構造モデルとTAで観測された57EeV以上の宇宙線の到来方向の天球図(銀河座標)。緑色のデータがTAのpreliminaryなデータ。モデルで、より濃い灰色の領域の頻度が高い。それぞれの領域が全頻度の1/5の頻度を含む。 図15: TAの40EeV以上の宇宙線同士の到来方向のなす角度(立体角で規格化している)。赤いデータがTAのpreliminaryな結果で、青色の線が一様分布のモデルの場合である。

    超高エネルギーガンマ線の探索(UHE photon search)

    図16: TAのpreliminaryな超高エネルギーガンマ線の頻度の上限。AGASA、Auger、Yakutskの上限も示す。

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