東京大学宇宙線研究所長 梶田隆章教授 2015年ノーベル物理学賞受賞

メッセージ

梶田隆章先生のノーベル物理学賞受賞によせて

2015年ノーベル物理学賞を受賞される梶田隆章先生に心からお祝い申し上げます。

授賞理由は「ニュートリノ振動、それによるニュートリノ質量の発見」です。ニュートリノには3つの種類があり、それぞれ電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノ(相互作用の固有状態)とよばれています。それらが飛行中に種類を変えてしまう現象をニュートリノ振動とよびますが、ニュートリノ振動が起こるためには、ニュートリノが質量をもち、かつそれぞれの相互作用の固有状態が異なる質量の固有状態の混合になっている必要があります。梶田隆章先生は1983年からスタートしたカミオカンデ実験において、大気ニュートリノの電子ニュートリノ成分とミューニュートリノ成分の比が予想に合わないという「大気ニュートリノ異常」の問題を提起されました。そして、20倍以上大きいスーパーカミオカンデを使って、その異常の原因がニュートリノ振動であることを1998年に示されました。素粒子の標準理論ではニュートリノの質量がゼロであるとされていますが、梶田先生の発見は標準理論にほころびがあることを示すものでした。

スーパーカミオカンデによるニュートリノ振動研究は、その梶田先生の1998年の大気ニュートリノ振動の発見に始まり、2001年太陽ニュートリノ振動の発見、2004年人工ニュートリノによる振動の確認、2011年には第3の振動モードによる電子ニュートリノ事象の発見と世界をリードする目覚ましい発展を遂げてきました。これからはニュートリノ振動と反ニュートリノ振動の違いを探り宇宙の物質優勢の謎に迫る研究へと進んでいきます。また、測定器自身を高度化して中性子同時計測機能を持たせ、宇宙初めからの超新星ニュートリノを捉えるプロジェクトも準備されています。さらなるニュートリノ研究を通して、標準理論の先にある未知なる理論の解明、宇宙の謎が解けることを期待したいと思います。

このWebページは受賞の理由となったニュートリノ振動とは何か、ニュートリノが質量を持つ意義は何か、などについて分かりやすく解説する目的で作成しました。また、この発見のきっかけをなった研究の流れを知っていただくために、梶田先生ご本人、他の関係研究者の回顧録を掲載しました。

東京大学宇宙線研究所
副所長 寺澤敏夫
神岡宇宙素粒子研究施設長  中畑雅行