東京大学宇宙線研究所長 梶田隆章教授 2015年ノーベル物理学賞受賞

資料

大気ニュートリノ振動とスーパーカミオカンデ

大気ニュートリノとは、宇宙から高速で地球に降り注ぐ宇宙線が、地球上の大気と衝突して生まれるニュートリノのことです。ミューニュートリノと電子ニュートリノの2種類のニュートリノが生じます。

スーパーカミオカンデは岐阜県飛騨市の地下1000mに位置する、ニュートリノ観測装置です。直径・高さ約40mの円筒形の水タンクの内壁に約11,000本の光センサーが取り付けられており、5万トンの超純水が蓄えられています。

スーパーカミオカンデにニュートリノが入ってくると、水の分子などとまれに衝突し、電子やミュー粒子を叩き出し、チェレンコフ光というリング状の光が放出されます。その光をセンサーで検出することにより、ニュートリノの方向や種類、エネルギーなどを観測することができます。

大気ニュートリノは、地球上全ての大気で生じます。ニュートリノは物質とほとんど衝突しないので、地球の裏側で生じた大気ニュートリノも途中で止まることなくスーパーカミオカンデまで飛んできます。したがって、スーパーカミオカンデではあらゆる方向の大気ニュートリノを観測することができます。

1998年梶田先生を始めとするスーパーカミオカンデグループは、大気ニュートリノの観測から、地球の裏側で作られて長い距離を飛んできたニュートリノの数が、検出器のすぐ真上から降ってくるニュートリノの数に比べて、約半分しかないことを発見しました。

これは、ニュートリノが飛んでいる間に別の種類のニュートリノに変身してしまう「ニュートリノ振動」という現象によるものでした。地球の裏側で生まれたミューニュートリノが地球内部を走っている間に、タウニュートリノに変身してしまったため、ミューニュートリノが減っているようにみえていたのです。

ニュートリノ振動は、ニュートリノに質量があるときだけ起こる現象です。したがって、ニュートリノ振動の発見は、ニュートリノがゼロでない質量を持つという決定的な証拠となったのです。

大気ニュートリノ振動の発見は、ニュートリノの質量はゼロである、という素粒子理論の定説を覆し、新しい物理への扉を開きました。

スーパーカミオカンデと梶田先生

1995年:ステンレス水槽完成時(PMT取付開始前)
1995年:天井部PMT取付作業中
1995年:側面PMT取付作業中
1995年:
底面PMT取付作業中
1995年:
底面PMT取付完了時(底面の外水槽部にて)
1996年:給水後、天井部を仕上げる作業をしているところ
1996年:
最後のPMT(天井部点検口)取付作業中
1996年:
全PMT取付が完了し、蓋を閉める直前

ニュートリノ国際会議'98

1998年6月8日、高山で開催されたニュートリノ国際会議で、梶田先生は大気ニュートリノ振動の解析結果を発表しました。発表が終了すると、会場内は総立ちの大喝采となったそうです。その時に使用されたオーバーヘッド・プロジェクターのフィルムと、発表時に撮影した動画をご覧ください。

フィルム①

スーパーカミオカンデで観測された、大気ニュートリノを起源とする電子とミュー粒子、どちらか1つだけが観測された事象群の天頂角分布を示すフィルムです。( エネルギーは Multi-GeV と呼ばれる 数GeV 程度の事象を選択しています。 )このエネルギー領域の大気ニュートリノは、地球上のどこでもほぼ同じだけ作られていると考えられ、観測された電子やミュー粒子の進行方向でみれば、上下対称な分布が観測されると予想されます。実際、電子では上下はほぼ対称となっており、上下比は 0.93+0.13-0.12でした。しかし、ミュー粒子サンプルでは、上下比は 0.54+0.06-0.05となり、6.2 σで有意にしたから飛来しているニュートリノが少ないと考えられるデータが得られました。

フィルム②

フィルム1で示された天頂角分布は、検出器下方向、すなわち地球の反対側からくるミューニュートリノが振動したことにより、ミュー粒子も電子もを作らない別の種類のニュートリノになったと解釈すると、うまく説明ができます。ミューニュートリノがタウニュートリノに振動する(変化する)と仮定したとき、許容されるニュートリノの混合角と質量の自乗差の領域を図でしめしています。この図では、線の右側が許容されるパラメータの領域となります。


 SK contained と書かれた赤線に囲まれた許容領域は、フィルム1のサンプルと、より低エネルギーの事象をあわせて用いたデータから得られたもの。
 Kam Contain と書かれた緑線に囲まれた許容領域は、Kamiokande で得られた、赤領域にほぼ相当するサンプルを用いた場合のもの。
 Kam up μ と書かれた茶線に囲まれた許容領域は、Kamioknadeで観測された、上向きに進行するミュー粒子サンプルを用いた場合のもの。
 SK up μ と書かれた茶線に囲まれた許容領域は、Super-Kamioknadeで観測された、上向きに進行するミュー粒子サンプルを用いた場合のもの。
 SK stopping/through と書かれたオレンジ線に囲まれた許容領域は、やはり Super-Kamioknade で観測された、上向きに進行するミュー粒子サンプルを用いた場合のもの。

 茶線とオレンジ線の領域は、よりエネルギーの高い領域のニュートリノがひきおこす事象を用いています。これら、上向きミュー粒子の事象は、検出器外でニュートリノが反応をおこしていることから、親のニュートリノエネルギーの推測は難しくなりますが、タンク内で停止したものは、通過したものよりも平均的にはエネルギーが低くなるため、この比 ( stop - through 比 ) をもちいることで、初期のニュートリノのエネルギーの情報をいくらか引き出すことが可能となります。

 以上の結果はすべて同じパラメータ領域を選択し、二倍混合角の自乗は0.8以上、質量の自乗差は 0.01 〜 0.001 であることが90% の信頼度で測定されました。

映像

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