宇宙・素粒子スプリングスクール 2019 が開催されました

今春4月に大学4年生になる理系の学生が集まる、宇宙・素粒子スプリングスクール2019が3月5日から4泊5日、東京大学柏キャンパスの宇宙線研究所で開かれ、29人が参加しました。

29人は午前の講義、午後のプロジェクト研究に参加しました。

「ニュートリノ物理」グループは、アクリル水槽と小型光電子増倍管(PMT)を用いて、荷電粒子が水中を通過する際に放出するチェレンコフ光を観測する実験を行い、さらにニュートリノ起源の上向きミューオン事象を探索して、その結果を分析しました。実験ではアクリル水槽の底に九つのPMTを十字に並べるユニークな装置を製作して宇宙線ミューオンからのチェレンコフ光の検出に成功し、チェレンコフ光の放出角度の検証を行いました。残念ながらニュートリノ起源の事象は検出できませんでしたが、指導した奥村公宏准教授は「時間が足りない中、よく頑張りました。PMTの並べ方などの実験方法について学生が積極的に議論し、協力して実験を進めていきました。期待以上の成果が出せたと思います」と話しています。

「観測的宇宙論」グループは、すばる望遠鏡HSCとSDSSの観測データから深層学習を用いた分類により、近傍の極重元素量欠乏銀河(EMPG)の候補天体4つを選び出し、その性質を分析しました。このうち1つの天体は、重元素量が太陽のたった2%と驚くほど低く、このEMPGを発見した3人のメンバーの頭文字をとりEMPG-SKYと名付けられました。EMPG-SKYは渦巻銀河に銀河間ガスが落ち込む様子が初めて確認できるもので、大内正己准教授は「スプリングスクールが始まる前は、どのような研究になるか分かりませんでしたが、メンバーの気づきと頑張りのお陰でとてもインプレッシブな研究結果になりました。また、大変ではありましたが、皆で楽しく研究できたことも収穫です」と話しました。

「最高エネルギー宇宙線」グループは、TA実験で実際に使用しているプラスチックシンチレータ、PMT、光ファイバーなどを用いてMini TA SD検出器を手作りし、宇宙線を観測する実験を行いました。その結果、μ粒子の信号を検出し、さらに単体では存在しないとされるクォークを探索する考察を行いました。﨏隆志准教授は「装置作り、データ収集、解析と成果発表までたくさんの技術を短期間で習得し、メンバー間でうまく分担して研究をやり遂げました。今回使った技術は素粒子測定の基本としてどこでも役に立つ基礎技術です。これからの研究に(できれば宇宙線研究に)役立ててください。最高エネルギーチームは最高のチームワークでした」とコメントしています。

「高エネルギーガンマ線天文学」グループは、CTAと同種のチェレコンフ望遠鏡MAGICのデータを解析し、到来方向の分析から、活動銀河核(AGN)からのガンマ線と特定。さらに、その中心部にあるブラックホールの質量を、太陽質量の6000倍から10億倍まで、その大きさを地球の直径の2倍から太陽系直径の3倍までと推定しました。指導した特任助教のDaniela Hadaschさんは「高エネルギー宇宙物理学はとても新しい分野です。メンバーたちには、英語で講義を受ける、新しい解析方法を習得するという2つの試練がありましたが、短い時間で、よくここまで素晴らしいブレゼンテーションに仕上げてくれたと関心しています。全てのメンバーに自主性があり、日を追うごとに学生たちのパフォーマンスが上がっていくのを見るのが楽しみでした」と語りました。

「超高エネルギー宇宙線」グループは、地表に降り注ぐμ粒子の寿命を、PMTと三枚のプラスチックシンチレータだけの実験装置で推定する実験を行い、その結果を分析しました。シンチレータ素材である炭素の原子核に引きつけられ吸収されるμ−の効果についても考察し、理論と1σの差で一致する結果を導くことに成功。指導にあたった川田和正助教は「限られた時間の中で、様々な誤差の原因を追求し最終結果に至れたのは非常に良かったです。装置の組み上げ、観測までは順調でしたが、ROOTを用いたデータ解析では悪戦苦闘でなんとか崩壊ミューオンの抽出に成功しました。発表会前日は、夜遅くまでチーム一丸となって議論し、資料を作成していた姿が印象的でした」と話しています。

「重力波天文学」グループは、大型低温重力波望遠鏡KAGRAが重力波を検出する仕組みを卓上のレーザー干渉計で学習した後、LIGOが2015年に観測したデータを用いて、小質量ブラックホール連星の合体を探索する解析に取り組みました。その結果、太陽質量の0.5倍から1倍の範囲には有意な重力波信号が含まれていないことを明らかにしました。指導した田越秀行教授は「データ解析では,重力波信号探索をpythonのコーディングからやってもらいました.皆さん余り経験がないにも関わらず,大変よくやられて素晴らしかったと思います」と話しました。

最終日に各グループによる20分間のプレゼンテーションが行われ、審査の結果、「ニュートリノ物理」と「観測的宇宙論」の各グループが最優秀賞を受賞しました。

活動の写真は以下の通りです。