研究室の体制

宇宙線研究所は複数の部門に分かれ、その中で複数の教員が共同で研究をしています。そのため、本郷キャンパスの物理学教室のように「奥村研究室」というものが独立して存在するわけではありません。奥村は宇宙線研の「高エネルギー宇宙線研究部門」に所属し、部門で進めている複数の宇宙線・ガンマ線観測プロジェクトに参加しています。

高エネルギー宇宙線研究部門には主に 7 つの実験プロジェクトがあります。これに関わる准教授以上の実験系教員は次の表の通りです(* は准教授、無印は教授)。ご覧の通り奥村だけ、やけにたくさんのプロジェクトに関わっていますが、その分、複数プロジェクトに跨った広い視点で一緒に研究を進められます。

奥村* 吉越* 齋藤* Vovk* 荻尾 川田*
チェレンコフ望遠鏡アレイ(CTAO)
超高エネルギーガンマ線
ALPACA および Tibet ASγ
超高エネルギーガンマ線・宇宙線
SWGO
超高エネルギーガンマ線・宇宙線(将来計画)
Trinity
超高エネルギーニュートリノ(将来計画)
望遠鏡アレイ(TA)
極高エネルギー宇宙線
GCOS
極高エネルギー宇宙線(将来計画)
大学院担当教員
大学院生の受け入れが可能
近いうち

高エネルギー宇宙線研究部門では、これら実験プロジェクトのそれぞれに複数の教員(教授・准教授・助教)が参加しています。また多数の研究所研究員および技術職員が、教員と一緒に研究しています。宇宙線研に進学する大学院生は、これら実験プロジェクトに参加する形で、共同研究を進めることになります。

大学院進学

理学系研究科物理学専攻と宇宙線研究所の諸事情のため、奥村は 2026 年の時点では大学院生を取ることができません(大学院担当教員になっていない)。もし奥村と一緒に研究を進めたい場合、上記の表の丸印を参考に、大学院受験の時点では他の教員を指導教員として選択してください。

近いうちに奥村も大学院担当教員になると思いますので(何年後かは現時点で明言できません)、その際に指導教員の変更手続きが可能だと思います。また書類上の指導教員が奥村以外の教員であっても、奥村との共同研究を希望する場合には、奥村が一定の責任を持って、書類上の指導教員とともに研究指導を行います。

指導教員選びは物理や実験プロジェクトの興味から決める方法もありますし、指導教員の人柄や指導方針から決める方法もあります。まずは物理学専攻の大学院入試説明会(2026/5/23)や、宇宙線研究所の説明会(6 月を予定)、また研究室訪問(随時)で色々と相談してみてください。

東大柏キャンパスにある宇宙線研究所は、本郷キャンパスにある理学部物理学科からの内部進学だけでなく、他大学からの進学も積極的に受け入れています。外部進学の場合、研究室の雰囲気や筆記試験・面接の情報など、なかなか情報を辿るのが難しいかもしれません。研究室訪問では先輩大学院生と交流する機会も設けますので、積極的に活用してください。

求める大学院生像

物理学科では「勉強のできる学生は理論系、できない学生は実験系」という考え方をする学生や教員が少なくない割合で存在しますが、実験系だからといって勉強が不要なわけでは全くありません。様々な物理現象の理解や、実験装置の動作原理の理解には、力学・電磁気学・量子力学をしっかりと身につけていることが重要です(我々の分野だと、統計力学はあまり使いません)。

そのため、少なくとも大学院入試の筆記試験を通過できるだけの基礎的な物理学の素養は必要になります。やる気があるから物理と数学はできなくても OK ということにはなりません。また院試後の 4 年生後期には引き続き勉強をしっかりしてもらい、大学院進学後のゼミや講義についていけるだけの基礎学力を伸ばし続ける努力が必要です。

基礎学力に加え、物理と実験装置に強い興味を持っていること、またその興味を持続できることも求められます。他大学で「東大生には勝てない」のような発言をする学生を目にすることがありますが、大学院で求められるのは 18 歳時点での大学受験問題を解く能力ではありません。自分の興味のある対象や問題に取り組み、何ヶ月も何年も時間をかけてそれを解決するのが研究という営みです。これは、数時間程度の筆記試験を素早く解く技術とは異なります。

大学院入試で求められる物理学の素養というのは、もちろん 18 歳時点での能力にも影響を受けるとは思いますが、大学入学後にどれだけ物理への興味を持続できたか、そして努力を継続してきたか、その結果を見たいということだと思ってください。

また、受験や試験というのは個人の能力の競争ですが、研究というのは共同作業です。自分の能力だけで大きなことを成し遂げることは不可能ですので、様々な得意技を持つ研究者が集まって、みんなで大きな目標に立ち向かいます。出典はよく知りませんが、「早く行きたくば一人で行け。遠くへ行きたくば共に行け」という言葉と同じものと考えてください。指導教員を含め、他人を良い意味で「利用」しましょう。

例えば奥村は光学系の設計や半導体光検出器の開発を得意としていますが、それだけではガンマ線望遠鏡や宇宙線望遠鏡を作ることはできません。電子回路の専門家であったり、データ収集ソフトウェアの専門家であったり、多波長のデータ解析の専門家であったり、様々な共同研究者を集めることで大きなことができるようになります。大学院に進む皆さんは、ぜひ何かの専門家になってください。どんなに狭いことでも構いませんが、「これは世界で一番自分が詳しい」というものを持てること、また目指せることが大切だと思います。

例えばスポーツ選手を考えてみてください。皆さんが世界一のサッカー選手になったり、世界一の短距離走者になることは今からは難しいだろうと思います。これはスポーツや競技の種類が限られているからです。しかし研究では、好きなだけ新しい「種目」を生み出すことができます。例えば上述の「光学系の設計」でも「半導体光検出器の開発」でも、それぞれの専門家は世界にいくらでもいますし、宇宙線物理・ガンマ線天文の分野にもそれなりの数がいます。しかし両方を組み合わせることで、新しい専門領域を生み出すことが可能になり、世界一になることができます。これが大学院(特に博士後期課程)に進学することの魅力の一つです。

我々の分野では、この共同研究の規模が数十人から数百人にもなります。また観測装置は海外(チリ、スペイン、ボリビア、米国など)に置かれるため、海外の研究者と共同研究を進められる積極性と最低限の英語能力(段々と慣れます)が必要です。研究室内や国内の研究者だけでなく、海外の研究者を巻き込んで研究を進められるコミュニケーション能力(性格が明るいとか話し上手ということではありません)が求められます。

大学院進学といっても、修士課程の 2 年間だけを考えている人、博士課程への進学を考えている人、さらにその先に研究者になることを考えている人、様々です。修士課程で修了する場合、そのうちの多くの時間を就職活動に費やすことになりますので、修了時点で研究の基礎を身につけ終えることはできないと考えてください。また我々の分野では、2 年間の間で査読つき論文の投稿に辿り着くのも難しいと思います。

博士課程に進学する場合、修士課程で研究に専念することで論文投稿まで十分に進むことが可能ですし、また博士論文の執筆では(どんなに狭いことでもいいので)世界一の研究結果を書くことになります。

修士のみでも博士進学込みでもどちらでも構いませんが、奥村と研究を進めたい場合、研究に多くの時間を割くことを期待しています。奥村を含めて多くの人は天才ではありませんので、やはり割いた時間というのは結果に大きく影響します。ただし私生活を犠牲にしろとか、夜中まで毎日研究だけしろとか、体を壊してでもやれとか、そういうブラック研究室的なことではありません。毎日午前中の常識的な時間から研究室に来て、学生同士や教員と議論をし、研究室にいる間は集中して作業を進められ、必要に応じてちゃんと休める人(自己管理をちゃんとできる人)だけが、研究が進むと思います。

宇宙線研究所の魅力

宇宙線研究所の最大の魅力は、世界的にも珍しい、宇宙素粒子物理学の研究拠点であるということです。宇宙線、ガンマ線、ニュートリノ、重力波、暗黒物質などの大規模観測設備を複数有し、それらプロジェクトを推進する多数の実験系研究者と、一緒に研究を進める理論研究者がいます。それぞれの実験プロジェクトが最先端の装置ですので、日本国内にいながら世界の最前線の研究に参加することができます。

また、宇宙素粒子物理学は宇宙物理、天体物理、素粒子物理、原子核物理、太陽物理などに関わる横断的な分野です。研究所の名前にある「宇宙線」は歴史的な経緯でそうなっていますが、宇宙線自体を研究するというより、宇宙線や他の粒子(重力波含む)を発生させる宇宙の高エネルギー現象を研究するのが宇宙素粒子物理学です。例えば「宇宙系の研究室と素粒子系の研究室で進学を迷っている」という人がいれば、宇宙線研究所は最適な候補かもしれません。

研究所と観測装置の規模が大きいため、教員や研究員が多数在籍し、また研究予算も比較的大規模です。周りに同じ研究をしている人が多数いるという環境、また様々な専門家が揃っている環境というのは、多くのことを学ぶ必要のある大学院生にとっては魅力的だと思います。

加えて、海外共同研究者との連携、それら大学・研究所への海外長期滞在、海外にある観測装置への出張、多数の国際会議への参加、宇宙線研究所の外国人留学生・研究員との交流があります。日本語だけで閉じてしまいがちな学部や小規模の研究室に比べ、国際的な場で能力を伸ばし活躍できるというのも大きな魅力だと思います。

博士課程を修了した多くの院生が、民間企業だけでなく世界中の研究機関で研究者として働いています。日本の参加していない海外の研究プロジェクトに移ったり、海外でポスドクとしての経験を詰んだ後に国内で大学教員になったりと、様々なキャリアパスが存在します。

大学院生の経済支援

奥村が個人的に持つ「創発的研究支援事業」の研究費を利用して、修士課程の間からリサーチアシスタント(RA)として大学院生を雇用し、経済支援をすることが可能です。詳細は研究室訪問のときなどにお問い合わせください。

博士課程からは、日本学術振興会の特別研究員や、東京大学の SPRING GX 事業による経済支援があります。応募しても 100% 採用されるわけではありませんが、採択されるよう申請書の添削と修士課程の研究指導を徹底します。また状況によっては、創発的研究支援事業での RA 雇用も可能です。

研究室訪問

研究室訪問は大歓迎です。院試を控えた学部 4 年生に限りません。いつでも、誰でも受け付けています。実際に宇宙線研究所まで来ていただくのが最善ですが、もし近ければ、奥村の兼務先である名古屋大学で面談をすることも可能です。

また遠方の場合には Zoom などを使ってオンラインで研究室訪問、進学相談をすることも可能ですので、お気軽にご連絡ください。

「なにか面白い話を聞かせてくれ」程度の緩い感じで全く構いませんので、まずは電子メール等でご連絡ください。

学部配属

宇宙線研究所では理学部物理学科の研究室配属は受け入れをしていません。理学部と宇宙線研究所が学内では別部局のためです。

しかし、もし3 年生や 4 年生の間に宇宙線研究所での研究活動に触れてみたいという希望がある場合、インターンのような形で受け入れることは可能です。旅費や滞在費も出せる可能性がありますので、東大生に限らず、電子メール等でご相談ください。