現場の「泥臭さ」にせまる CTA大口径望遠鏡1号機

宇宙の高エネルギー現象を解き明かすことを目指す次世代高エネルギーガンマ線天文台「チェレンコフ・テレスコープ・アレイ(CTA)」。北半球はスペインのカナリー諸島ラパルマに、南半球はチリのパラナルに建設を予定している。将来的には両サイトあわせて100基を越える望遠鏡群を構成する計画だが、その皮切りとなる大口径望遠鏡の1号機がこの夏、ラパルマに完成する予定だ。建設の現場ではどんなことが行われているのか、ラパルマはどんなところなのか、CTAに何を期待しているのか、最前線で活躍するチェレンコフ宇宙ガンマ線グループの学生に話を聞いた。
 CTA大口径望遠鏡について 
最初にこれまでにみなさんがどのようにCTAの建設に関わってきたのかを教えてください。
深見
日本では主に3つのグループに分かれています。①カメラを開発しているグループ、②鏡の性能を評価したり制御したりするグループ、③あるガンマ線天体を仮定してどれだけCTAではっきり見えるかを検討するシミュレーションのグループです。ほとんどの人は3つのいずれかのグループに属して準備を進めています。久門くんだけはぐれものです(笑)。
高橋
宇宙線研究所の学生は基本的にはまず、カメラか鏡か、どちらかのグループに所属しています。まずはしっかりと実験を理解してから、サイエンスをやるという、手嶋先生の方針もあると思います。
それでは最初にカメラの開発について教えてください。
高橋
私がCTAに関して主にやってきたのは、光電子増倍管の測定です。光電子増倍管は光子1個から光を検出できる高感度の光センサーです。アーチの先にあるカメラに1,855本取り付けられ、鏡で集光したチェレンコフ光を検出する、まさに望遠鏡の心臓部です。
高橋
CTAのなかでも大口径望遠鏡は、ガンマ線の低いエネルギー帯を観測します。ガンマ線のエネルギーが低いと、チェレンコフ光の明るさ、密度が下がります。光電子増倍管で検出する光も非常に微弱になってしまう。なので、とにかく高感度を達成することが重要になります。さらに、エネルギー分解能をあげるために、微弱な光量をさらに正確に測定するということも重要です。そこで私は、光電子増倍管を実験室で精密に測定して、弱い光に対してどのようなパフォーマンスを発揮できるかを調べてきました。1立法メートルほどの大きさの暗箱を作って、そのなかに光電子増倍管を入れて測定していました。
岩村
私は修士の間、MAGIC望遠鏡のデータ解析をずっとやっていました。CTAに関わり始めたのはつい最近です。
「MAGIC望遠鏡」ってのは、同じカナリー諸島ラパルマにある既存のガンマ線望遠鏡のことらしいよ。
岩村
これまでに私が関わったことは、土方と言うか、雑用と言うか(笑)。光が光電子増倍管に入ると、光子が電子に変換されて高電圧により電子が増幅されて、電気信号として光電子増倍管から出てくる。その先に信号を増幅させたり、波形を整えたりするための読み出し回路があります。その後、ドラゴンと呼んでいる四角い基板のところでデータを記録します。私が関わったのは、波形を整形するためのスローコントロールボードという部分です。1200枚の基板についてひたすらクオリティチェックをするという……(笑)。1枚あたり2、3分くらいかかります。2、3週間のシフトを組んで他の学生にも手伝ってもらいました。
久門
僕もやりました。
深見
やりました。岩村さんにこきつかわれて(笑)。
たしかに泥臭い仕事ですね(笑)。
高橋
手嶋先生はサイエンスだけじゃなくて、実験の泥臭い仕事を大事にしていると思います。僕がこの研究室に入ってびっくりしたことがあります。入ったばかりの4月のことでした。手嶋先生が、自分で買ってきた金属の大きな箱の中に真っ黒のスプレーを噴きつけて、ドリルで穴を開けて配線などを通して、僕の実験で使う暗箱を作った。日曜日に研究室に来て、一人でやったらしいんですよね。そんなの若い研究者にやらせればいいようなことですが。それは本当に衝撃でしたね。
なぜ泥臭い仕事を大事にしているのでしょうか。
高橋
本当に実験を基礎から理解しないと良い研究はできないということだと思いますね。実際に出てくるデータはそんなにきれいではないですし、やっぱり、中身を分かっていないとデータを解釈できない。そういうケースは多いと思います。
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