手嶋 政廣 Prof. Dr. Masahiro Teshima

 
 

 宇宙素粒子物理


 暗黒物質探査


宇宙の質量の多くは、暗黒エネルギー、暗黒物質で満たされており、我々の知る物質はわずか4%です。暗黒物質は、弱い相互作用のみする質量の大きな素粒子(WIMPS) であろうと考えられています。現在の素粒子論から最も有力な候補の一つとして超対称性粒子のニュートラリーノがあげられますが、その質量は 30GeVから5TeVの領域であろうと予測されます。ニュートラリーノはマヨラナ粒子であり、粒子と反粒子が同じであり、ニュートラリーノどうしが衝突すれば対消滅をおこします。宇宙の中で暗黒物質の密度の高い領域として天の川銀河の中心領域、また近傍の M/L 比の高い矮小楕円銀河などがあります。このような領域から暗黒物質が対消滅し、ガンマ線が数10GeV から数 TeV 領域に放射されると考えられます。CTA は、暗黒物質を銀河中心、矮小楕円銀河に暗黒物質の対消滅からのガンマ線を探査します。


  








 相対論(ローレンツ不変性)の高精度検証


100年ほど前に相対性理論と量子論が提唱され、それ以降、物理基礎理論は実験による検証を通じて目覚しい発展を遂げてきました。しかし40年ほど前に素粒子の標準理論が完成して以来、地上での実験はうまく説明され続け、物理の基礎理論に大きな変更を加える必要がないまま今日に至っています。これは決して基礎理論の完成を意味しているわけではなく、重力場の量子化や暗黒物質の正体など、標準理論の範囲では説明できない課題が残されています。標準理論からのズレを見つけて、新しい理論の兆候を探る高エネルギー実験は年々大規模になっています。それでは、長い基礎物理の停滞から抜け出すには、巨大な加速器を作るしか手が無いのでしょうか?答えは否で、宇宙線の観測から新たな素粒子が発見されたように、地球の外からやってくる情報は、基礎理論の検証にとって現在でも大変有効です。





CTAは宇宙の遠方にある時間変動する天体からのガンマ線を捕らえる事で、実効的な光子の速度差を測り、光速度の不変性を検証する事ができます。光速度不変性、言い換えればローレンツ不変性は現代物理の基本法則なので、この不変性の検証は多くの新しい量子重力理論に強い制限を課すことになります。例えば最も盛んに議論されている弦理論でも、ローレンツ不変性が自発的に破れる可能性が指摘されています。時空が離散的な値をとることを主張するループ量子重力理論においても、光子の伝播速度がエネルギーに依存する可能性が指摘されています。天体を同時に出発した二つの光子が長大な距離を伝播する間に、微小な速度差が地球への到達時間の時差として表れるのを測定する事で、相対論の検証ができます。



 

左図:宇宙での暗黒エネルギー、暗黒物質、我々の知る物質の質量割合。

右図:暗黒物質がマヨラナ粒子であれば、暗黒物質の密度の高い領域で対消滅がおこり、ガンマ線、反粒子、ニュートリノが生成される。

暗黒物質探査におけるCTAの予想感度。点は、超対称性理論により予想されるニュートラリーノの質量と相互作用断面積のパラメーター空間。銀河中心方向のハローと、Sagittarius 矮小銀河を観測した場合のCTA の感度が示されている。