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天体粒子加速研究の発展と現状(4)

衝撃波統計加速

無衝突プラズマ中で、集団相互作用により形成された衝撃波を「無衝突衝撃波」と呼ぶ。ここでは、無衝突衝撃波の周辺領域に、種となる非熱的粒子(大多数の熱的プラズマ粒子群よりエネルギーが高く、差別化された粒子)が注入されたとして話をすすめる。非熱的粒子は衝撃波の周りの磁場擾乱の中をランダムウォークしつつ、背景プラズマの流れに乗って輸送される。輸送により衝撃波面を横切るとき、プラズマ粒子群の圧縮に伴って、非熱的粒子は運動量を獲得し加速されることになる。加速された非熱的粒子の一部は有限の確率で衝撃波面に戻るのでさらに加速を受ける。この過程を繰り返すことにより、非熱的粒子は高エネルギーに到達できる。これが衝撃波統計加速モデルの骨子であり、1970年代末、複数の著者[2]によりほぼ同時に提唱された後、太陽圏内衝撃波の直接観測での検証を経てその基礎が確立され、多くの天体に応用されてきたという歴史がある。

 
図5: 加速される宇宙線をテスト粒子として扱う場合の衝撃波加速領域の構造。(a) 宇宙線強度の空間変化、(b) プラズマ速度変化、(c) 磁場強度を描いた。プラズマ速度と磁場強度は衝撃波面(x=0)で不連続な変化を示す。 

簡単に、このモデルで期待される加速領域の構造について眺めておこう。今x<0の領域から+x方向に超音速のプラズマ流が吹いており、x=0にある衝撃波面で急激に減速・圧縮されているとする。最初に提唱された「標準理論」では、宇宙線のもつエネルギー密度は小さく、プラズマ・磁場のエネルギー密度に比べ無視できるとする。この場合、宇宙線は衝撃波面からx<0の衝撃波遷上流側に向かいプラズマ流を遡って拡散するので、exp(x/λ)型の空間構造を持つ(図5(a))。ここで空間構造のスケール因子λは上流側のプラズマ速度u1と、拡散係数D1によりλ=D1/u1で与えられる。このとき、衝撃波構造は宇宙線の影響を受けないので、速度変化(b)と磁場強度変化(c)は急激なままである。ここで、速度を衝撃波静止系で定義すると、上流・下流の速度u1、u2はu1>u2の関係を満たし、マッハ数が大きい極限でu2 → u1/4となる(非相対論的衝撃波の場合)。

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