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天体粒子加速研究の発展と現状(3)

衝撃波の内部構造(続き)

前頁の図3の例のように、クーロン衝突の平均自由行程が系の空間スケールを越えるプラズマを「無衝突プラズマ」と称する。このような「無衝突プラズマ」で重要になるのは、個々の荷電粒子間に働くクーロン2体相互作用ではなく、荷電粒子が集団として作る電磁場が個々の粒子に及ぼす電磁的集団相互作用である。この事情を粒子シミュレーション結果を参照して眺めてみよう。図4は2つの電子・陽電子ビームからなる系の衝突をシミュレートしたものである。この系では粒子間のクーロン衝突は無視できるよう設定されているが、ビーム不安定性により励起された静電場の影響を受けて、2つの粒子集団間に運動量交換(実効的「衝突」)が起きている。t=14の段階では運動量交換に伴う位相空間の擾乱は規則的だが、t=30の段階では位相混合が進んで乱流的となり、散逸(加熱)が起きている。

 
図4: 2つの電子・陽電子ビームの衝突実験。空間(X)はデバイ長、速度(Vx)は熱速度、時間はプラズマ振動周期で規格化されている。(a)は初期条件(t=0)として置いた2つのビームの位相空間(X-Vx)分布を示す。それらのビームは有限長(デバイ長の1024倍)、速度幅(熱速度)、平均速度(熱速度の10倍)を持ち、図の中央で左右から衝突している。青点が電子を表す個々の超粒子に、赤点が陽電子を表す個々の超粒子に対応している。
(b)〜(e)は電子・陽電子分布の時間発展(t=8,14,18,30)を示す。t=8までは殆ど相互作用せず、互いにすり抜けているが、t=14以後はビーム不安定性により発生した静電場により、加速・減速を受け、位相空間分布が擾乱を受けているのが見られる。

図4のシミュレーションは「絵解き」が目的なので、磁場のない空間での1次元ビーム衝突実験であった。実際の宇宙ではあらかじめ存在する磁場の中で相互作用が起きるのが一般的であり、その磁場の強さ、方向により、さまざまな不安定性のモードが関与することになる。衝撃波における宇宙線加速の問題で特に重要となるのが、大振幅アルフェン波の磁場擾乱を作り出すイオンビームサイクロトロン不安定性(とその系統の不安定性)である。

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