チベット実験次期計画


およそ -3.0 の冪乗の頻度で 1010 eV から 1020 eV (人間の作る加速器の 107 倍) と 10 桁以上にも及ぶエネルギースペクトルを持って地球に降り注ぐ宇宙線。 そのような宇宙線がどこで生まれ、どのようにしてこれほど高いエネルギーを得、どのような過程を経て我々の地球に到達し、観測されるのだろう?

1912 年のヘスによる宇宙線の発見から今日まで 90 年以上経ちます。 多くの科学者による宇宙線の研究により数々の発見がありましたが宇宙線の起源は未だ謎です。
我々はこれまで起源解明の鍵となる TeV 〜 10 TeV 領域ガンマ線の観測や、knee 領域 (1014 eV 〜1016 eV) での宇宙線化学組成の観測等を行ってきました。 そして装置、データ取得システム、設置場所等の最適化により、空気シャワー観測装置としては世界で初めて点源からの 数 TeV - 数 10 TeV ガンマ線の観測に成功し、 又、空気シャワー観測装置とエマルションチェンバー、バースト検出器による連動実験からは高地の利点を生かした誤差の小さい knee 領域 の一次陽子のエネルギースペクトルの観測に成功するなど、宇宙線に関する新しい知見を得ることに成功しています。

我々はこれらの成果を元に、さらに野心的に宇宙線観測における未知領域に踏み込み、未だ解くまでには至っていない宇宙線の起源の謎に迫るべく、 世界最高性能の空気シャワー観測装置に新しく 2 タイプの装置を設置、連動させた 2 つの実験計画、MD 計画YAC 計画を推進しています。

MD 計画: 大型水チェレンコフミューオン観測装置を用いた数 100 TeV ガンマ線源の観測計画
YAC 計画: 新バースト検出器を用いた knee 領域の宇宙線化学組成観測計画

両計画はそれぞれが未知の観測領域に新たな扉を開くだけではなく、YAC 計画により測定される knee 領域の宇宙線が加速現場付近で物質と衝突して作るであろう 100 TeV 領域ガンマ線を MD 計画により測定するといった密接な関係にもあります。

Fig. 1 Fig. 2
図 1. MD 計画: ガンマ線検出予想感度 (100 TeV 領域では Tibet-III の感度が 10 倍以上に向上) 図 2. YAC 計画: 青いプロット点が観測期待値
(上から陽子、ヘリウム、鉄グループスペクトル)