新バースト検出器を用いた knee 領域の宇宙線組成の観測 (YAC 計画)

knee 以下のエネルギー領域の宇宙線は銀河系内起源が定説であり、knee が系内宇宙線加速限界に起因するものであると 考えられています。そのため、原子番号 z による核種毎の一次宇宙線の加速限界からエネルギーによる組成比の違いが 起っており、knee 領域では鉄の組成比が増えると我々は考えてきました。1996 年から 1998 年にかけて行った空気シャワー 観測装置とエマルションチェンバー、そしてバースト検出器の連動実験により、4×1014 eV から 1015 eV の 陽子スペクトル、及びヘリウムのエネルギースペクトルを求めました。その結果、 観測された一次陽子の冪は -3.1 と人工衛星や気球による一次宇宙線の直接観測の結果を外挿した冪 -2.7 に較べて急になっていること が 3σ の有意性で得られました。又エネルギーが高くなるにつれて陽子+ヘリウム成分が減少し、重粒子成分が多くなる ことを示唆する結果が得られています。 直接観測からは 100 TeV 付近にあると思っている陽子スペクトルの折れ曲がりは統計不足でまだ検出されていません。 陽子の折れ曲がりのエネルギーは全粒子 knee の 1/20 付近のように思えますが、まだ統計が足りずはっきりとしたことは言えていません。 また重い宇宙線である鉄グループのスペクトルはどうなっているのか? まだ誰も観測していない領域です。

そこで、その未知の領域を埋めるべく、連動実験の次期計画として Yangbajing Air shower Core (YAC) 実験を計画しています。

これにより、

  • 陽子、ヘリウム、炭素+窒素+酸素 、鉄グループのエネルギースペクトルの測定
    → knee 領域の主成分を解明
    → 加速限界の解明 → 宇宙線の超新星衝撃波加速モデルの検証
  • 1016 eV までの組成の確立
    → (低エネルギー側) ニュートリノ観測や TeV 領域のガンマ線点源観測等の研究におけるバックグラウンド宇宙線評価の精密化に寄与
    → (高エネルギー側) 1020 eV におよぶ knee 以上のエネルギー領域の研究に対する基礎データ
を得ることができます。

Fig. 3Fig. 4
図 1.: 空気シャワー観測装置と YAC 検出器、
検出器デザイン
図 2.: 検出器テスト実験 (2004)

Fig. 3
図 3.: 右側の青いプロット点が観測期待値 (上から陽子、ヘリウム、鉄グループスペクトル)