講義

20世紀における多波長天文学の発展によって我々の宇宙像、特に高エネルギー宇宙の理解は大きく進んだ。これにより、我々がかつて抱いていた静的な宇宙のイメージからは全くかけ離れた、激しい極限状態にある宇宙の姿が明らかになってきた。また、それと同時に多くの新しい謎も生まれた。21世紀に入り、高エネルギーガンマ線、宇宙線、ニュートリノや重力波を用いた多粒子天文学が幕を開けつつある。本講義ではこれらの進展を概観し、ブラックホールの進化や高エネルギー宇宙線の起源に迫る。
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ビッグバン宇宙およびインフレーション宇宙モデルについてその成立と現状を解説する。また、宇宙背景放射による原始重力波の観測に触れて、インフレーション宇宙モデル構築についても紹介する。
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素粒子標準模型がどのように構成されているのかについて概説する。さらに暗黒物質やニュートリノ質量といった標準模型を超えた物理の可能性についても時間があれば解説する。
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ついに重力波が検出された!アインシュタインの一般相対性理論によりその存在が予言されてからちょうど100年、ついに人類は宇宙の新しい窓を開け、重力波天文学を創成したのである。今回検出された重力波は太陽質量の30倍程度のブラックホール連星の合体からやってきたものであったが、今後は、中性子星連星の合体、パルサー、超新星爆発などから発生する重力波の検出も期待できる。また、重力波の観測から、一般相対性理論の検証、ブラックホールの地平線近傍の観察、原子核密度を超える超高密度物質の性質の解明、さらに将来は、宇宙誕生の瞬間の観測、ダークエネルギーの探査、余剰次元の存在の確認などわくわくするようなサイエンスへとつながっていく。

 本講義では、重力波の説明からはじめて、レーザー干渉計を用いた重力波の検出方法、今回のAdvanced LIGOによる検出の詳細、日本の検出器KAGRAの概要と現状、そして将来計画について詳しく説明する。
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宇宙に存在する物質の殆どは、我々の知らない物質であることが確実となっています。原子や分子等に比べて、未知の物質は5-6倍存在するのです。 現在はそれを仮に暗黒物質と呼んでいます。その正体は全く分っていませんが、新たな素粒子だと考えられています。その正体の解明は、これまでの素 粒子物理学の枠を超え革命的な発展を生むことは間違いなく、宇宙の進化の理解等にも甚大なインパクトを与える極めて重要な研究テーマです。正体解 明のための実験的方法はいくつか考えられていますが、本最先端研究では我々の身の回りに飛び交っているはずの暗黒物質を検出する直接的なアプロー チの紹介を行います。
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近年、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡などの大型望遠鏡による深宇宙探査の進展は目覚ましい。これらの探査により、観測可能な宇宙は赤方偏移4から10程度に広がり、宇宙138億年の歴史のうち最初の数億年を除いて宇宙の進化を辿れるようになった。本講義では赤方偏移>6の過去に起こった宇宙再電離に焦点を絞り深宇宙観測のフロンティアを概観する。さらに、このような研究を通して新たに現れた課題について議論する。最後に、これらの課題に取り組むため、2021年に完成を目指す30m望遠鏡(TMT)などの次世代超大型望遠鏡計画について触れたい。
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高エネルギーガンマ線天文学は今まさに飛躍的発展の時代を迎えています。GeV領域においては、フェルミ衛星が千を超える天体を検出し、一方、地上TeV ガンマ線観測でも、HESSやMAGIC望遠鏡などが次々に新天体からのガンマ線を報告しています。我々の想像を超えるようなダイナミックで激しく活動する宇宙の姿がみえてきました。ガンマ線天文学は今や完全に確立し、創成から発展の時代へと移りつつあります。一方、次世代のCTA(Cherenkov Telescope Array)は、世界で一つという大規模なTeVガンマ線望遠鏡群により、現在より一桁以上高い感度と、より広いエネルギー領域を達成しようという野心的な計画の準備がすすんでいます。本講義では、宇宙のエネルギーフロンティアである高エネルギーガンマ線天文学の現状と次世代計画CTAについて解説します。
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米国に建設したTelescope Array(TA)によって、10の20乗電子ボルト付近の最高エネルギー宇宙線が過剰に飛来する「ホットスポット」の兆候を初めて捉えました。この正体を探り、宇宙の極限エネルギー現象との関わりを探る研究を促進するために「TAの4倍拡張(TAx4)」の準備が進んでいます。さらに、天の川銀河内に起源をもつと考えられる宇宙線の振る舞いを探るために、TAの低エネルギー側への拡張「TALE」を行っています。この講義では、TAの結果から分かりつつある宇宙線の物理的描像とTAx4、TALEについて解説します。
1990年 以来中国と共同でチベットの羊八井(ヤンパーチン)高原に高精度空気シャワー観測装置 (略称Tibet-III)を設置し、高エネルギー宇宙γ線・宇宙線の研究を行っている。最近、水チェレンコフ型大型地 下ミューオン検出器の設置を中心とするTibet-IIIのアップグレードを行った。この改良により、未開拓の100TeV領域の宇宙ガンマ線を放射する天体を世界最高感度で観測・同定することにより、Kneeエネルギー領域まで加速されている銀河宇宙線の起源と加速機構の解明に迫る。又、同じく最近設置された空気シャワーコア観測装置とTibet-IIIとの連動実験により、古典的ではあるが未解決な重要課題である宇宙線の化学組成問題の解決を目指す。
素粒子ニュートリノは、電荷を持たず、物質との反応確率が極端に小さいことから、検出が非常に困難であり、質量の有無という基本的な性質すら20世紀の終わりになるまで分かっていなかった。現在でもまだまだ謎に満ちている素粒子であり、その解明に向けて世界中で理論・実験両面からさまざまなアプローチがなされている。またニュートリノの観測は、宇宙の物質・反物質非対称性の謎や超新星爆発メカニズムの解明など、宇宙の成り立ちにかかわる研究にもつながっている。本講演ではニュートリノ研究の歴史から始まり、現在進行形でおこなわれている最先端の研究内容を紹介し、今後の展望を議論する。
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