現場の「泥臭さ」にせまる CTA大口径望遠鏡1号機

CTAは既存の装置と比べて何が違うのでしょうか。
深見
感度が高いというのが一番大きいですね。天体からどれくらいガンマ線が来ているかというフラックスが弱い天体でも見られる。今まで見えていた天体はより明るく見える。今まで見えなかった暗い天体も見えるようになる。つまり遠くまで見られる。
高橋
感度が上がるだけではなくて、観測するエネルギー帯が低くなる特徴もあります。宇宙を飛び交うエネルギーの低い光子とエネルギーの高いガンマ線が衝突すると、電子陽電子対を生成して吸収されてしまう。そのせいでCTAの観測するエネルギー帯は不透明(見ることができない)だと言われています。観測するエネルギー帯を低くすると、もう少し透明になって、より遠くまで見えるようになります。その2つの効果により、今までよりもはるかに遠くまで見渡せるようになります。
最後にCTAに期待していることを教えてください。
久門
大きな望遠鏡を安全に回すことが、僕のひとつのゴールなので、あのでっかい望遠鏡がぐるっと回っている姿をまず見れたらいいなと。望遠鏡の完成に自分の目で立ち会えたらいいなとワクワクしています。
黒田
僕は修士2年で就職してCTAに携わらなくなるんですが、新聞やテレビのニュースで自分の携わったCTAが何かサイエンスの新しい結果を出してくれるのを楽しみに待っています。このでっかいの俺が作ったって自慢したいです。あの子(鏡)たちが頑張ってくれたら嬉しいです(笑)。僕が携わったのはたった2年だけですが、今後10年、20年と人類のために活動してくれる子たちを残せてよかったなと思っています。
岩村
私は修士の2年間、既存のMAGIC望遠鏡のデータを用いてひとつの天体をずっと解析していたのですが、その超新星残骸をCTAで観測してみたいです。MAGIC望遠鏡は視野があまり広くなく角度分解能もそれほどよくなく、結構悩まされてきたので、CTAで改善されたらもっといろいろと見えるようになるはずだと期待しています。見えなくて悩んでいたものが見えるようになってサイエンスを論じられるようになったら面白いかなと思っています。その天体をもっと詳しく見て、どういう形をしているのかや、その天体で何が起こっているのかを、CTAで調べてみたいです。
深見
ガンマ線バーストや活動銀河核など、銀河系外で起こっているめちゃくちゃエネルギーが高い現象に興味があります。天体がくるくる回る平面と垂直の方向にジェットが噴き出しているが、なぜジェットができるのか、まず不思議に思います。また、ジェットの中でガンマ線が出ている場所が中心からずれているのですが、その理由がまだよくわからないのも面白そうだなと思います。最近、中性子星連星の合体においてもガンマ線が観測されましたが、ガンマ線がどういう風にできているかは分かってない。CTAで観測できるエネルギー帯は本当に面白そうだなと思いますね。そのためには僕の制御する機構がうまくいかないとだめですよね。僕の博士論文がかかってますからね(笑)。
高橋
ガンマ線天文学と宇宙線物理学の魅力は、身の回りの世界とはまったく違う状況や条件の世界を調べられることだと思います。地上では再現できないような大きなエネルギーや密度、電磁場などが、この広い宇宙には存在する。そこでは、物質が私たちの身の回りの世界とはまったく異なるふるまいをする。そうでありながら、根っこでは同じ物理法則が成り立っている。そういう仕組みを解き明かしていくことに、CTAが活躍できるのではないかと期待しています。また今ある謎を解き明かすだけでなく、全く新しいものが見えてくるんじゃないかという期待もしています。楽しみですね。
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