乗鞍観測所60周年を記念して
乗鞍岳に東京大学宇宙線観測所、現乗鞍観測所、が設置されて、今年で60年になります。宇宙線観測所10周年を記念した当時の野中到所長の文書では「宇宙は天与の加速器であって天空の彼方から宇宙線として高エネルギー粒子が貧富の差別なく地上に降りそそいでくるので、測定装置さえ用意すれば余り金をかけずに素粒子研究ができる。これが本観測所設立の出発点であったと思う。」と書かれています。このように終戦後まもなく日本の復興の最中に、宇宙線を利用して素粒子物理学研究を行おうという情熱が全国で高揚し、全国初の実験系の全国共同利用研究機関として、乗鞍観測所が設置されたと聞いています。
乗鞍観測所の数々の成果を通して日本の宇宙線研究は大きく発展し、1976年に乗鞍観測所と当時の原子核研究所の一部、また新たな部門も加わって宇宙線研究所が設立されました。宇宙線研究はその後も大きく発展し、例えば現在の宇宙線研究所では、ニュートリノ研究などを行っているスーパーカミオカンデ(Super-Kamiokande)実験をはじめ、最高エネルギ一宇宙線の研究を行うアメリカ・ユタ州のテレスコプ・アレイ(Telescope Array, TA)実験、銀河宇宙線の精密観測を行う中国・チベットのチベットAS-ガンマ(Tibet AS-γ)実験、宇宙のダーク・マターの探索を行うエックスマス(XMASS)実験などがおこなわれ、また中性子星やブラックホールなどの天体起源の重力波の観測をめざした大型低温重力波望遠鏡(KAGRA)の建設が進んでいます。更には今後の研究として次世代の超高エネルギーガンマ線天文学や、ニュートリノ研究など様々な可能性が検討されています。
乗鞍観測所が、これらの日本の宇宙線研究の発展や現在の宇宙線研究所の基礎を作り、今日まで活動を続けて来られたのは、文部科学省・東京大学をはじめ関係各所の御支援、鈴蘭をはじめ岐阜県・長野県の地元の皆様の御理解、旧国立天文台乗鞍コロナ観測所の御協力、また、もちろん全国の宇宙線研究者の皆様の御活躍と御協力のお陰です。この場をお借りして、深く御礼申し上げます。それとともに乗鞍観測所を出発点とする日本の宇宙線研究と宇宙線研究所の更なる発展にも御指導・御協力のほどあわせてお願い申し上げます。
平成25年 8月 23日