4-1. 太陽の中の核融合
太陽の核融合反応は太陽の中心近くでおきています。
核融合反応発生した熱が太陽中心から表面まで伝わるのに約10万年
かかります。
そのため、我々が今見ている太陽の表面の状態は約10万年前の
太陽中心の核融合反応を見ている事になります。
それに対して、太陽からのニュートリノは太陽の中心近くで作られ、
途中の物質に邪魔されることなく約500秒で地球に到達します。
つまり、太陽ニュートリノ観測は、太陽の中心で今どのように核融合反応が
おきているかを直接観測する事ができます。また、前章でお話ししたように、
低いエネルギー(SAGE, GALLEX)、やや高いエネルギー(HomeStake)、
太陽ニュートリノとしては高いエネルギー(Super-Kamiokande)のそれぞれの
観測があり、豊富な情報を提供できます。
まず、カミオカンデ、スーパーカミオカンデの太陽ニュートリノ観測から
太陽の方向から確かにニュートリノが来ており、太陽が核融合反応で
燃えている事が確認されました。
ただし、複数の太陽ニュートリノ実験の結果から、太陽から来るニュートリノ
の数が予想値より少ないこと(約半分ほど)が分かりました。
これはどういう事を示しているのでしょうか。
- 太陽の進化をおいかける事により、太陽中心でどのように核融合反応が
起きているかを説明する太陽モデルを変更する必要がある。
- 太陽の中心で作られた電子ニュートリノが地球で観測されるまでに
他の種類のニュートリノに変わっている(すなわち、ニュートリノ振動が
起こっている)。
の2つの可能性が考えられていますが、太陽モデルの変更だけでは、観測された
太陽ニュートリノの量およびエネルギー分布を説明するのは非常に難しいと
されています。
4-2. 超新星爆発のメカニズム
太陽の10倍以上の質量の星は、その一生の最後に
超新星爆発をおこします。
その時、放出されるエネルギーのほとんどはニュートリノが
持ち出すことになります。
そのため、超新星からのニュートリノの数、エネルギー、時間分布
を測定すると超新星爆発の約10秒間に何がおきているかがわかります。
大マゼラン星雲(距離:約17万光年)で1987年におきたSN1987Aでは、
カミオカンデで11個、
IMBで5個の超新星ニュートリノを観測し、多くの情報を得る事ができました。
スーパーカミオカンデでは、我々の銀河中心付近で超新星がおきれば
非常に統計の高い精密な超新星爆発の観測ができることが期待されています。
4-3. ニュートリノの質量
ニュートリノはもっとも基本的な粒子の一つでありながら、その性質は
ほとんどわかっていませんでした。
ニュートリノは質量を持っているのか。 持っているとしたらその質量はどれだけか。
ニュートリノの各世代間で混ざりあっていないのか。つまり、レプトン族が3種類の対に分けられるという規則はいつも成り立つのか。
ニュートリノ振動を調べる事によりこれらの質問に答える事ができるかもしれません。
最近のスーパーカミオカンデの観測により、上向きと下向きの大気ニュートリノの数を
くらべると上向きは下向きの半分しか無い事がわかりました。
このことはニュートリノが質量をもち、ニュートリノ振動がおきている事を
強く示唆しています。すなわち、地球の反対側からやって来る間に約1/2の確率で
ミューニュートリノはタウニュートリノに変わっていて、検出できなくなってしまう、
と考えれば説明できます。もちろん、更に厳密な比較が行われています。
また、太陽ニュートリノ観測の結果も電子ニュートリノの振動を仮定すると
良く説明できます。
これらの観測によりニュートリノ振動のパラメータを精度良く決定する事ができます。
これらが現在の素粒子物理学の標準モデルから、さらに次へ進む鍵となることが
期待されます。
4-4. 新しい粒子の発見
宇宙誕生のごく初期に、まだ超高温現象が起きていたときに放出された
弱い相互作用をする重粒子(重いニュートリノのようなもの)が地球や太陽に捕捉されている可能性が指摘されています。
その場合、核融合で出て来るニュートリノよりずっと高いエネルギーのニュートリノが
地球の中心方向や、太陽方向からやって来ると考えられます。しかし、現在までのところでは、そのような現象は発見されていません。
その他、もっと高い超高エネルギーのニュートリノが宇宙からやって来るシナリオは
いくつかあって、将来、超大型のニュートリノ検出器によって、ニュートリノのエネルギースペクトル、方向分布、時間変動、などが高いエネルギーまで測定される時には、面白い発見が相次ぐかもしれません。