1-1. 素粒子の仲間とニュートリノ

  1-1-1. 4つの力
  
 ニュートリノは素粒子の一種です。素粒子の間に働く力は通常4種類に分類されます。 すなわち、原子核を構成する陽子や中性子など(や、さらに陽子や中性子などを構成 するクオーク族)に働く「強い力」、電気や磁気を持つ粒子間に働く「電磁力」、 ベータ崩壊などに関与し、クオーク族にもレプトン(軽粒子)族にも働く「弱い力」、 そして質量を持つ粒子間に働く「重力」です。
ニュートリノはレプトン族に属します。遠い距離まで作用する電磁力や重力とは 異なり、強い力と弱い力は非常に短い距離でしか作用しないため、日常でその力を 目の当たりにすることはできませんが、粒子間の衝突や崩壊を通して宇宙の歴史に、 また現在の宇宙の構成に、重要な役割を演じています。
  
  1-1-2. レプトン族の素粒子
  
 ニュートリノの属するレプトンは3種類(または3世代)の対に分けらると考えられています。
  (電子、電子ニュートリノ)
  (ミュー粒子、ミューニュートリノ)
  (タウ粒子、タウニュートリノ)
です。レプトンは3種類のフレーバー(香り)を持つ、という表現もよく用いられます。 タウニュートリノはまだ発見されていませんが、その存在はまず間違いない と考えられています。なお、それぞれの粒子に対して、反粒子も存在します。
 ところで、電子ニュートリノが陽子や中性子などと衝突した場合、 電子が飛び出て来ますが、決してミュー粒子やタウ粒子が出てくること はありません。同様に、ミューニュートリノの場合はミュー粒子が、 タウニュートリノの場合はタウ粒子が出てきます。 これが3種類の「対」に分けられると言った理由です。
  さて、電子とミュー粒子とタウ粒子の質量を比べると、 ミュー粒子は電子に比べて約200倍も重く、タウ粒子はミュー粒子 よりさらに20倍近く重いことがわかっています。では3種類の ニュートリノの重さはどのようになっているのでしょうか? 実は、この問題は現在最も注目されている問題なのです。

1-2. ニュートリノの性質

 1-2-1. ニュートリノと物質との反応
  
  ニュートリノは前節で紹介したように、「弱い力」で他の素粒子と反応しますが、 その反応の確率は非常に小さく、ほとんどのニュートリノは地球を何も起こさず 通り抜けてしまいます。
 ニュートリノが物質との反応する確率はニュートリノのエネルギーと共に比例的に 大きくなります。そして、ニュートリノのエネルギーが10^14 eV 程度の非常に高い エネルギーになると、ニュートリノは地球を素通りできなくなってきます。
  
 1-2-2. ニュートリノの質量
  
  ニュートリノは歴史的には原子核のベータ崩壊でエネルギーの保存則を満たす ために仮定された粒子です。ベータ崩壊で出てくる電子または陽電子のエネルギーは 一定の値でなく、広いスペクトルを持っています。それは、ベータ崩壊で電子と共に 出てくるニュートリノがエネルギーを持ち出すためで、電子とニュートリノの エネルギーの和は原子核のベータ崩壊前後 のエネルギー差に等しくなるはずです。ニュートリノの運動エネルギーがゼロの場合 に、電子のエネルギーは最大になりますが、ニュートリノの質量の大きさによって、 その最大エネルギーの値、およびその付近のエネルギースペクトルの形状が 変わってくることが期待されます。
 現在まで精密な実験が繰り返されていますが、 ニュートリノの質量がある有限な値を持つという結果は出ていません。すなわち、 ニュートリノの質量はゼロかもしれないということです。現在、質量ゼロの粒子 としては、電磁力を媒介する光子が知られています。素粒子の標準理論では ニュートリノも質量ゼロとして扱われています。
  
 1-2-3. ニュートリノ振動
  
 ニュートリノの質量がゼロでないと、上記のベータ崩壊の電子の エネルギースペクトルの変化以外に、ニュートリノ振動という 現象がおこることが知られています。
 少し難しい話になってしまうので、 読み飛ばしてもらってもかまわないのですが、もしニュートリノに 質量があると、1-2節でお話したフレーバーの固有状態と質量の固有状態が 必ずしも一致しないかもしれません。 すると、反応で生じたあるフレーバーのニュートリノは、異なる質量の固有状態の 重ね合わせとして表現され、それぞれの固有状態の波は異なる振動数(エネルギー) を持つことになります。ニュートリノが空間を進むにつれて、それら相互の位相が ずれて行きます。この物理系は古典的な音の「うなり」と類似され、そのフレーバー の存在確率は大きくなったり小さくなったりを繰り返すことになります。
 そのフレーバーの存在確率が減ると、他のフレーバーの存在確率が増え、全体として のニュートリノの存在確率は常に1になることは、当然のことながら、数式の上でも 確認されます。
  このニュートリノ振動現象によりニュートリノのフレーバーが移り変わることが 実験的に確認されれば、逆にニュートリノに質量があることになります。