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天体粒子加速研究の発展と現状(7)

衝撃波以外の加速機構?

超音速の太陽風は、やがて星間空間のガスと磁場との相互作用により減速され亜音速流となるが、その減速は太陽風終端衝撃波でなされる。最近、Voyager 1、2探査機が相次いでこの終端衝撃波を横切り、その性質についての詳しい情報をもたらした。その中で、意外な結果として注目されたのは宇宙線異常成分(Anomalous Cosmic Ray=ACR)のふるまいについてである。この成分は1970年代初めにHe、N, Oについて発見されたもので、核子あたり数十〜百数十MeVのエネルギー領域ではHeフラックスが陽子フラックスを越える異常性を示すこと、また、N、Oの存在量が平均的宇宙組成よりずっと多いことから「異常成分」の名が付けられた[14]。ACRの起源について、Fiskら[15]は、「星間ガス中の中性成分が太陽風内に侵入した後、太陽紫外線もしくは太陽風イオンとの荷電交換で電離された後、太陽風により終端衝撃波まで輸送されそこで加速を受けてACRとなる」、とのシナリオを提唱した。もしこの考えが正しければ、これらのACR粒子は一価イオンでなければならないが、SAMPEX衛星の地磁気カットオフを利用した観測でそのことが示されFiskモデルの半分が証明された。モデルの残り半分、終端衝撃波による加速の考え方が正しければ、ACR成分の強度は、図5のように、終端衝撃波に向かって増え続けたあと、衝撃波下流のheliosheath領域では一定値に達するであろう。このような観測がVoyager 1、2探査機によりなされると期待されていたのである。しかるに、ACR成分はVoyager 1、2探査機が終端衝撃波を横切ったあとも増え続けており[16]、上の単純な期待は裏切られた。

観測を説明するため、Voyager1、2探査機が横切った付近の終端衝撃波は磁力線の幾何学的条件により加速が不活発であり、ACRを加速しているのは終端衝撃波の別の領域であるとする修正案[17]が唱えられているが、衝撃波統計加速以外の過程に求める考え方もある。一つは、heliosheath領域における磁力線リコネクションに伴う加速を考えるモデル[18]であり、もう1つはheliosheath領域における乱流による2次統計加速を考えるモデル[19]である。Voyager1、2探査機は現在heliosheath内を飛行中で、電池寿命の尽きる前にheliopauseを横切って真の星間空間へ脱出すると期待されている。ACR起源の決着について、その間のVoyagerのデータ蓄積に期待がもたれている。

天体における粒子加速機構についても、衝撃波加速モデル一辺倒への反省が起きている。例えば、GRBやAGNから放出された相対論的ジェットの作る衝撃波の下流側には、亜相対論的乱流領域が形成される。このような乱流領域では2次オーダーの統計加速過程の効率が高いことが指摘されており、衝撃波・乱流の全てを考慮した総合的な加速モデルの構築が急務である[20]。

終わりに

はじめに述べたように宇宙線起源の問題は旧くて新しいテーマであり、その時期の最新の天文学的知見の水準に応じて、内容を発展させてきた。そして、研究の推進にとって、今後の数年間は理想的な期間であるといえる。極高エネルギー宇宙線に関しては、北天のテレスコープアレー観測と南天のオージェ観測のデータが蓄積され統計精度の高い議論が可能になるであろうし、南極氷内に埋めこまれたIceCubeにより高エネルギーニュートリノ観測が実現するかもしれない。銀河宇宙線のエネルギー領域に目を向ければ、Fermi衛星、HESS、CTA、チベット地上arrayによるGeV〜数十TeV領域のγ線観測、国際宇宙ステーション搭載のCALETによる10TeVまでの電子観測、ASTRO-H衛星による初めての硬X線領域での撮像観測など、さまざまな発展が期待される。我々、高エネルギー宇宙線研究部門・高エネルギー天体グループは、2009年12月に設立されたばかりの理論・データ解析を主な手段とする小グループだが、こうした状況に対応し、研究に微力を尽くしたいと考えている。

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