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天体粒子加速研究の発展と現状(1)

宇宙線起源と粒子加速天体

ヘスV. F. Hessにより宇宙線が発見されてから約100年が経過した。星間空間を満たす宇宙線のエネルギー密度の考察から、宇宙線は超新星爆発に伴って作られたものとするアイデアは1930年代のバーデW. Baade、ツウィッキーF. Zwickyに遡る[1]。しかし、彼らは具体的な宇宙線加速のメカニズムを解明したわけではなかった。バーデ達の40数年後の1970年代末に提案され、その後30年余を経て確立した現在の通説によれば、1015 eV程度以下のエネルギーの宇宙線粒子は天の川銀河内の超新星爆風前面の衝撃波統計加速機構[2] (後述) により生成されると考えられている。他方、極高エネルギー宇宙線、すなわち〜1019 eV以上のエネルギーを持つ宇宙線粒子は銀河系外に起源を持つことは間違いない[3]。極高エネルギー宇宙線の加速源の候補天体として考察されてきたのはガンマ線バースト(GRB=Gamma Ray Bursts)や、活動銀河核(AGN=Active Galactic Nuclei)から放出されたジェットが作る相対論的衝撃波、そして、銀河団内の衝撃波などであり、いずれも何らかの衝撃波の関与が必須であると考えられている。

話を1015 eV以下のエネルギーの宇宙線粒子に戻そう。超新星爆発が宇宙線生成の原因であることの間接的証拠は、スターバースト銀河M82(図1)の観測からも得られている[4]。最近の高エネルギーガンマ線観測により、M82中心部の宇宙線エネルギー密度は250eV cm-3と推定されているが、このエネルギー密度は、天の川銀河内の我々の近傍での値の500倍にも達する。このエネルギー密度の値はM82での高い超新星爆発率を考慮した宇宙線加速モデルにより説明されている。

 
図1. すばる望遠鏡により得られたスターバースト銀河M82像(国立天文台提供)。この銀河では、星形成が普通の銀河よりずっと活発で、超新星爆発の頻度も数年に1回と天の川銀河の10倍以上である。 
 
図2: すばる望遠鏡により得られたかに星雲像(国立天文台提供)。中心部にパルサーがある。 

超新星爆発に関連して忘れてならないのは、ある種の超新星の爆発後に残される回転中性子星(パルサー)である[5]。若いパルサーは、1012ガウス程度の磁場を持ちつつ、数百分の1秒〜数分の1秒の周期で高速自転しており、天然の超高電圧発電機と見なすことができる。まず、この発電機のパワーにより、電子・陽電子が対生成され、パルサーの周囲の空間をプラズマとして満たす。これをパルサー磁気圏と呼ぶ。パルサーの表面近くでは磁気圏は星と共回転している。パルサーからの距離に比例して回転速度が上昇し、やがて光速近くに達すると共回転が破れ、磁気圏の外へとパルサー風として吹き出す。理論的モデルによると、このパルサー風は相対論的な風で、ローレンツ因子は106〜107に達していると考えられている。したがって、風の中の個々の電子、陽電子は1011〜1012 eV程度のエネルギーを持つが、それにはとどまらない。パルサー風はやがて周りの星間物質と衝突するが、そこには衝撃波が形成される。この衝撃波を舞台として、パルサー風を構成する電子・陽電子の一部のエリート粒子は、さらに千倍以上、1014〜1015 eV程度にまで加速されると考えられている[6]。また、そこまでは加速されなかったその他大勢の電子・陽電子も、衝撃波で加熱された高温プラズマとして、パルサーの周りを取り囲んで広がり、「パルサー星雲」として観測される。有名な「かに星雲」は、1054年に爆発した超新星が残したパルサーの作るパルサー星雲である。

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