PeV Explorer 研究概要


宇宙線起源の謎

Cosmic Ray Energy Spectrum

Credit: Simon Swordy

宇宙から飛来する放射線「宇宙線」の大部分は、陽子、ヘリウム原子核等の荷電粒子です。宇宙には弱いながら磁場があるため、宇宙線は地球に飛来する前に撹乱され、源の情報を失ってしまいます。このことが「宇宙線の起源」の同定を困難にし、宇宙線の発見から 100 年以上経った現在でも起源天体は明らかになっていません

宇宙線は 109 eV から 1020 eV まで、実に 10 桁以上のエネルギーにわたり冪関数型のエネルギースペクトル (∝ E) を持ちます (右図)。その形状には 1015-16 eV と 1019 eV 辺りにわずかな折れ曲がりがあり、足を曲げた形に似ていることから、それぞれ "knee"、"ankle" と呼ばれています。これらのスペクトルの変化は、宇宙線起源における粒子加速限界や起源天体の遷移、宇宙線の伝播や閉じ込めの効果を表していると考えられ、宇宙線の起源を解明する上で鍵を握る特徴です。

宇宙線が周囲の物質と相互作用をすると中間子が多数発生し、その中の π0 が崩壊することによりガンマ線が生成されます。ガンマ線は電荷を持たず安定であるため、直進して地球に到来します。すなわち、宇宙ガンマ線を探針として宇宙線の起源天体を探索することが可能です。

銀河系内宇宙線の超新星残骸起源説

RX J1713.7-3946 and Knee

グラフは文献 1、2 より引用。

超新星爆発後に形成される超新星残骸の衝撃波は、少なくとも knee より低いエネルギーの銀河系内宇宙線の起源であると古くから考えられています。これには幾つかの理論的、間接的な根拠があり、現在でも有力かつ魅力的な仮説です。実際、超新星残骸の衝撃波 (シェル) から TeV ガンマ線の信号が近年検出され、超新星残骸が少なくとも 10 TeV 程度まで粒子を加速していることが明らかになりました。しかし、ガンマ線は加速された電子、陽子いずれからも生成可能であるため、検出された信号が宇宙線の主成分である陽子を起源としたものかどうかはまだ判然としていません。

超新星残骸からのガンマ線が陽子起源だと仮定すると knee を説明できるのでしょうか?TeV 領域で最も明るい超新星残骸のうちの一つである RX J1713.7-3946 からのガンマ線スペクトルには 10 TeV 辺りにカットオフがあり、これを簡単な仮定 (冪、エネルギー) に基づいて親の宇宙線スペクトルに戻してやると、knee に全く届きません (左図)。RX J1713.7-3946 からのガンマ線は電子起源モデルで説明できるという報告 (文献 3)。また、ガンマ線でより暗い超新星残骸でスペクトルが 10 TeV 以上まで伸びている兆候が見られるものもありますが、。従って、銀河系内宇宙線の起源を同定するには、10 TeV 以上まで伸びるガンマ線スペクトルを持つ天体を特定し、そのスペクトルを 100 TeV 以上まで精密に測定することが不可欠です。

分子雲。

PeV Explorer の役割

PeV Explorer (TenTen) は 10 TeV 以上の超高エネルギー宇宙ガンマ線の観測に特化した解像型大気チェレンコフ望遠鏡アレイの将来計画です。TeV 領域で確立したガンマ線観測方法を拡張し、低コストの観測装置を用いながら、100 TeV 領域におけるガンマ線観測感度を従来より一桁改善することを目指します。これにより、宇宙線エネルギースペクトルの PeV 領域に存在し、「銀河系内宇宙線起源の謎」と密接に関係する "knee" の起源を解明します。

参考文献

  1. F. Aharonian et al., Astronomy & Astrophysics, 464, 235-243 (2007).
  2. C. Amsler et al. (Particle Data Group), Physics Letters B, 66, 1-1340 (2008).
  3. A. A. Abdo et al., Astrophysical Journal, 734, 28 (2011).

Takanori Yoshikoshi
Last modified: Wed Sep 18 00:09:46 JST 2013