研究者という仕事は、環境によっては(残念ながら、その環境への依存度が高く)とてもストレスフルになることがあります。 私自身、オーバーヒートして倒れ込んでしまった経験があり、そのときのことを少し書き残しておこうと思います。 同じように疲れ果てたとき、ほんの少しでも心が軽くなれば幸いです(私人としてのSNSではなくこの場所を使うのは、内容の意義を考えての私の意思です)。
ここに書くのはあくまで私の体験談です。 状況や症状は人によって異なりますので、必ず医学的な専門知識を持つドクターの指示に従ってください。そのうえで、「ひとつの参考例」として読んでいただければと思います。
病気になられたご本人にまずお伝えしたいのは、 「ちゃんと良くなります。悲観的になるのも病気の症状の一部です」ということ。 そして周囲の方々には、 「これは“お気持ちの問題”ではなく、体の機能に支障が出る、いわゆる普通の病気と同じものです」ということです。
正直、最初はメンタルの不調ではなく、循環器系のトラブルを疑っていました。 動悸や胸の圧迫感は、まさに心臓に関わる症状に思えたからです。
こういうとき、皆さんは「そろそろ病院に行かなければ」と思ったら、何科を受診しますか?
多くの場合、答えは「内科」でしょう。 女性で一定の年齢以上であれば、「婦人科」も選択肢に入るかもしれません。 私の場合は、まず婦人科を受診し、そこで甲状腺機能の異常の可能性もあるので、内科での検査も勧められ内科へ。実は、こうした流れは珍しいことではありません。 最初に内科を受診し、「内科的には異常なし」となったために心因性を疑われ、メンタルクリニックへ紹介される人は多いのです。
大事なのは、そういう人たちは最初から「サボりたくて」通院しているわけではないということ。 「フィジカルの不調を整えれば、なんとか治ってくれるかもしれない」――そんな一縷の希望を抱いて内科を訪れ、 そこでその望みが絶たれてから、メンタルクリニックに向かうのです。病院に通い始めたばかりの頃、症状が最も重い時期―― 日常生活をどう過ごすか、仕事をどう調整するかが、大きな課題になります。 ここで想像してみてください。 あなたの車がオーバーヒートしたらどうしますか? きっと「動かさない」「冷えるまで待つ」と考えるはずです。
私の場合、急性期の症状はこうでした。正直、最初はメンタルの不調ではなく、循環器系のトラブルを疑いました。 しかし医師の説明によれば、この状態は過剰なストレスで脳の働きが不調になり、 身体へのコントロール信号が正しく出せなくなっているとのこと。 まさに“オーバーヒート”で、その比喩は実感としても非常に的確だと感じます。
オーバーヒートした車に対して、 「走っているうちに治るかもしれない」 「気持ちの持ちようだ」 ――とは考えませんよね。 けれどこの時期、周囲からかけられがちな言葉は違います。 「気分転換に〇〇してみたら?」 「外に出て環境を変えれば気晴らしになるのでは?」 (これを部局長に言われたときは、心の中で「……いや、管理職研修を受け直してください」と思いました)
実態は、「脳がオーバーヒートしているから動けない」。 気分転換は回復期に入ってから効果があるものです。 急性期は、服薬+休息(何もしない)で“熱を下げる”ことが最優先。 休めるなら、とにかく休んだほうがいい時期です。 (私は休職せずに続けましたが、結果論としては休んだほうが良かったと思っています)
また、きちんと理解していない人との面談は、症状を悪化させることがあります。 相談する相手は慎重に選びましょう。 本来こうした知識は管理職の必須スキルであるべきですが、研究者の人事では軽視されがちです。 「人当たりの良さ」だけを評価すると、“裏表のある人”を見抜けないという別のリスクもあります。 それよりも、知識として持っているかをフラットに評価するほうが重要です。
さらに、私の立場で特に難しかったのは、国際大型実験に従事しているという環境です。 不調と休息が必要なことを、身近な部署に伝えるだけでは済みません。 国際的なワーキンググループでのタスク停滞について、誰に、どこまで、どう伝えるか―― 大規模グループでは、関係者は多く、関係性は希薄です。 同じ組織にいるとはいえ、実態は「半分個人事業主」のような立場、一方では完全独立では仕事ができない環境で、調整は非常に難しいものでした。 この問題に一概の答えはなく、私自身、今も模索を続けています。