電波受信アンテナアレイによる超広域電波的観測
最高エネルギー(1020eV)宇宙線の起源を探索するために現在1000km2での検出器が稼働を始めた。
将来的に既存検出器の100倍規模によるエネルギースペクトル、到来方向、化学組成の詳細な探索のために、地上での比較的安価な電波受信機アレイによる宇宙線空気シャワーの観測が注目されている。
既存の最高エネルギー宇宙線観測所を利用して、いくつかの電波的観測方法を一括して総合的に研究し、将来の最高エネルギー宇宙線観測のための100000km2 (300kmx300km) 電波観測装置の提案を行う。
「宇宙線のエネルギーに限界はあるか」を巡って続く議論に終止符を打つべく、現在、地表粒子検出器アレイと大気蛍光望遠鏡を備えた1000km2規模の検出器が稼働している。
米国ユタ州のテレスコープアレイ装置と南米アルゼンチンにおけるPierre Auger観測所である。
将来において更に点源から到来する最高エネルギー宇宙線のエネルギースペクトルや化学組成等を詳細に調べるには既存の観測所の100倍程度(100000km2)の規模が必要である。
但し、TA実験やAuger実験と同じ装置による規模の拡大では1000億円以上の予算がかかってしまう。そこで、近年電波を利用した宇宙線の観測方法が国際的に注目されている。
電波による宇宙線の観測は大気蛍光望遠鏡とは違い昼夜に関らず観測が可能で、光と比べて大気による減衰も無視できる。
特に比較的安価なアンテナを複数台配置することでかなり安価に装置を建設できる見込みがあり、
100000km2規模の極高エネルギー宇宙線の観測のためには、電波利用の実現が世界的に強く
望まれている。以下に研究の対象となる電波による観測方法について述べる。
- レーダー観測法:空気シャワーが発生した跡にイオン化の状態ができる。
宇宙線のエネルギーが1018eV以上になると、空気シャワーのコア付近では30MHzから200MHz程度の
周波数の電波を散乱するのに充分高い密度のイオンの柱ができると予想される。
そこに電波を照射してプラズマ柱内の自由電子による電波の反射波を地上で受信することにより宇宙線を
検出する方法の提案である。この方法は、流星観測においては既に実用化されているが、宇宙線観測
に対する応用はまだである。
- 放射電波観測法:宇宙線が大気中に入射して作る空気シャワーからいくつかの発生機構で、
電波が発生することが知られている。
- 地磁気によるシンクロトロン放射からの電波の観測:
空気シャワーによってできた電子が地磁気に巻きついた際のシンクロトロン放射からの電波を観測する
方法である。1018eV以下程度までの地表粒子観測装置KASCADE-Grandeにおいてアンテナアレイ
(LOPES)による試験的な電波観測が行われている。
- 制動放射による電波の観測:空気シャワーが発生した際にイオン化でできた
自由電子が中性の分子と衝突する際の制動放射からの電波を観測する方法である。
この電波は等方的に放射されるので、大気蛍光望遠鏡の観測方法のように局所的にアンテナを複数台設置して、
空気シャワーを横方向から見込んでシャワーの縦方向の発達を観測するという形態が可能であると考えられる。
加速器を使った電子ビームによって制動輻射による電波が生じるというSLACなどでの実験結果が報告されている。
現在、東大宇宙線研、東工大理工、京大生存圏、大阪大工、東大理、茨城大、山梨大、
京大工、東大総合文化、兵庫医療大などで約15名がグループを組んで、
レーダー観測法と放射電波観測法を総合的に研究し始めている。
このグループの特徴は、
- TAグループ以外の各電波観測方法に類似する観測のエキスパートと
- レーダーによる流星観測→宇宙線のレーダーによる観測
- 雷放電観測→空気シャワーを起因とする電子の地磁気シンクロトロン放射、制動放射の観測
放射計算の専門家を加えている。
- いくつかの測定方法を総合的に相補的に一つのグループで研究する。
- 近い将来にTAの観測データと電波的観測データを比較して、電波的観測法による
エネルギー、到来方向の精度を求め、トリガー効率を求める。
レーダー観測方法に関しては、TAサイトの東側のデルタ市に送信機を設置し、TAサイトに向けて送信を開始したところである。TAの望遠鏡サイトに受信機を設置し、データ取得をしようとしているところである。
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レーダー観測法
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放射電波観測法:磁気シンクロトロン放射および制動放射
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