銀河系中心

フェルミバブル

2008年に打ち上げられたフェルミガンマ線宇宙望遠鏡は、超新星残骸や活動銀河核といった高エネルギー天体の観測に対して成果を残してきました。その中でも、大きな衝撃を与えた結果の一つとして、銀河中心付近から直径は2~3万光年にわたって上下方向にのびる泡上の巨大なガンマ線構造の発見があります(これをフェルミバブルと呼ぶ)。フェルミがとらえたガンマ線から既知の天体や拡散ガンマ線の寄与を差し引いた画像には、その構造がはっきりと確認できます。フェルミバブルフェルミバブルから放射されるガンマ線は非常に高いエネルギー領域まで達しており、泡構造の全体からほぼ一様に放射されていますが、構造の境界面には鋭いエッジがあることがわかっています。ガンマ線の放射起源が何かはまだ明らかになっていませんが、逆コンプトン散乱など何らかの過程で高いエネルギーを得た電子のシンクロトロン放射や、陽子衝突で生成したπ中間子の崩壊によるものであると説明できます。あるいは、ダークマター(暗黒物質)の最有力候補と考えられているWIMP (Weakly-Interacting Massive Particles) の対消滅によるガンマ線であるという可能性も示唆されています。今後も継続したフェルミバブルの観測が必要ですが、CTAによって高エネルギー領域でのスペクトル分布やエネルギーごとの輝度分布の違いを精度よく調べることで、その正体を解明できると大きく期待されています。

WIMP (Weakly-Interacting Massive Particles)

WIMP (Weakly-Interacting Massive Particles) は、電気的に中性であること、弱い相互作用と同じオーダーの対消滅断面積を持つときにダークマターの密度をうまく説明できることなどから、その有力な候補と考えられています。ガンマ線によるダークマターの間接探索では、銀河中心や矮小楕円銀河、銀河団周辺など、観測された速度分散や質量分布からダークマターの密度が高いと予想されている領域における対消滅を観測対象としています。特に銀河中心は、重力とのみ相互作用をするような多体系を考えた数値シミュレーションから、ダークマターの数密度がカスプ状に高くなることが予想されており、ダークマター検出の期待が大きい観測対象です。しかし、高エネルギー天体が豊富な分、超新星残骸やパルサー星雲などに由来するガンマ線がバックグラウンドとして作用するため、観測におけるそれらのバックグラウンドの除去が課題となっています。

ダークマターの対消滅により生成したガンマ線は、宇宙や地球上の磁場の影響を受けず方向の情報を保ったまま飛来するため、観測することでその起源を辿ることが可能であり、ダークマターの重要な性質の解明が実現すると考えられています。2012年、ガンマ線観測衛星フェルミのデータを用いた解析により、銀河中心に質量約130 GeVのダークマターが存在するという可能性が示唆されました。ダークマターの存在を示唆するフェルミのデータ解析結果図から、130 GeV付近にピークがあることがわかります。Fermi-LATによる観測は現在も続いていますが、このエネルギー領域でのガンマ線探索に対してより大きい有効面積を持つ大気チェレンコフ望遠鏡での検証も有効です。数十GeVから数百TeVという広範囲の観測エネルギー領域を持ち、現在稼働中のチェレンコフ望遠鏡に比べ感度やエネルギー分解能が向上するCTAによる銀河中心の観測で、ダークマターとしてのWIMPの質量やその対消滅断面積に、より強い制限を与えることが期待されます。WIMPの対消滅断面積の上限値の質量依存性とシミュレーションによるCTAの感度(図に示す対消滅断面積の上限値のWIMP質量依存性のグラフからわかるように、WMAPによるCMB観測から制限されているダークマターの存在領域(図の赤い点)にシミュレーションから得られたCTAの感度(黄緑色のライン)が達していることがわかります。)