TeVガンマ線の検出原理について

0:概略

ガンマ線の中でも更にエネルギーの高い、超高エネルギーのTeVガンマ線は、大気を検出器とし、地上の望遠鏡で観測することができます。これには空気シャワーという現象を利用しています。(高エネルギーの宇宙線やガンマ線が大気に入射すると、大気の原子核と衝突して2次粒子が生じます。この2次粒子が再び衝突を繰り返して粒子数が増殖していく現象を空気シャワーといいます。)TeVガンマ線が大気との相互作用で生まれた電子-陽電子対から始まる空気シャワーは、多数の高速荷電粒子を短時間の間に一度に放出します。この時大気中でチェレンコフ光が重なりあって発生し、可視光のフラッシュとなります。
これを観測するのが大気チェレンコフ望遠鏡の原理です。

1:ガンマ線の観測方法は2つ有る

夜空を眺めると星の光が見えるように、ガンマ線の光(電磁波)も宇宙から地球に届きます。(ガンマ線は、電磁波の中で最も高いエネルギーの領域です。可視光線が0.3〜1eVのエネルギーなのに対し、ガンマ線は100keV以上のエネルギー。波長で言うと可視光線は300〜1000nmなのに対し、ガンマ線は0.001nm以下)。
この宇宙から降り注ぐガンマ線は、可視光線のように地上から観測することはできません。地球の大気を通過すると吸収されてしまい、地上に届かないのです。そこでガンマ線を直接検出するには人工衛星を打ち上げるなど、高度40kmより上から観測することが必要になります。ガンマ線衛星は1967年のOSO III打ち上げから始まり、 その後目覚ましい発展を続け、Compton衛星に搭載されたEGRET検出器が、ガンマ線で輝く宇宙の姿を全天にわたって観測しました(図1)。また現在では、2008年に打ち上げられた Fermi衛星が 20MeV~300GeVでガンマ線の観測をおこなっています。
この人工衛星による観測は、100keV〜100GeV程度までは衛星が大きな威力を発揮しますが、それより高いエネルギーでは観測が難しくなります。天体が放つ光はエネルギーが高いほど検出頻度が減ってしまいますが、それを補うために必要な観測装置の大型化に限界があるのです。
一方でガンマ線はエネルギーが高くなるにつれて、大気に入射するときにチェレンコフ光を伴う空気シャワー現象を起こすようになります。TeV(つまり1GeVのさらに1000倍)のエネルギーを持つガンマ線では特に顕著になります。このチェレンコフ光を地上から観測すれば、つまり、地球の大気でチェレンコフ光を発生させる、という、とてつもなく大きな検出器を用いれば、人工衛星では難しい超高エネルギーのガンマ線を捉えることが可能になります。 Compton衛星に搭載されたEGRET検出器の全天サーベイ

2: 空気シャワーとチェレンコフ光

高エネルギーの宇宙線やガンマ線が大気に入射すると、大気の原子核との相互作用で2次粒子が生じます。この2次粒子が再び相互作用を繰り返して粒子数が増殖していく現象を空気シャワーといいますが、特にガンマ線由来について電磁シャワー、宇宙線由来についてハドロンシャワーと呼んでいます。この時生成された電子などの荷電粒子は多くが真空中の光速に近い速さで、媒質(空気) 中の光速を上回っています。このような荷電粒子からは光が発生し、これをチェレンコフ光といいます。

2.1 :電磁シャワー

ガンマ線は物質を通過する際に相互作用を起こし、電子を弾き飛ばします。この作用はエネルギーが高くなるにつれて光電吸収、コ ンプトン散乱、電子-陽電子対生成と過程が変わっていきます。入射ガンマ線が 0.511MeV×2=1.022MeV を超えると、ガンマ線が大気中の原子核に直接あたった時に、電子と陽電子を作り出す反応、すなわち「電子−陽電子対生成」という反応が起こるようになってきます。さらに高いエネルギーを持つと、生成した電子、陽電子は空気中の原子核のクーロン場により加速し制動放射を起こして再びガンマ線を放出します。この過程の連鎖が電磁シャワーといいます。

2.2 ハドロンシャワー

宇宙線の主成分は陽子などの原子核で、これが大気に突入すると大気中の原子核と相互作用をして多くの二次粒子(多くは π 中間子や K 中間子)の生成が繰り返されます(核カスケード)。このうち π 中間子は寿命が非常に短く、すぐにガンマ線を放って崩壊します。これがそれぞれ上述の電磁シャワーを起こし、チェレンコフ光が発生します。

2.3 チェレンコフ光

上述の過程でチェレンコフ光の放出される方向は、粒子の進行方向とほぼ同じです。 また、速度がほぼ光速のまま電磁シャワーを起こし続けるので、チェレンコフ光が重なりあって発生し、地上にはほぼ同時にチェレンコフ光子が到着します。地面に垂直な入射の場合、地上には直径約 300m、厚さ 1m の「円盤」として降り注ぎます。大気チェレンコフ望遠鏡ではこれを観測します。

ガンマ線と宇宙線での空気シャワーの発達の仕方の違い 地上に降り注いだチェレンコフ光子の分布シミュレーション

3: 大気チェレンコフ望遠鏡

チェレンコフ光を検出するためには、かすかな光の変化を捉える必要があります。
そのために、以下の観測条件が必要です。

この条件のもと、反射鏡を用いて光を集め、PMT検出器によって光子を電気信号に変えてデータを蓄積します(図 4)。

Wipple望遠鏡

4:解析方法

4.1 検出器でできる像

電磁シャワーがつくるチェレンコフ光は、望遠鏡 の焦点面で楕円形の像となって現れます。簡単のために視野の中心方向から入射したガンマ線の電磁シャワーについて説明します(図5 の点 a、b、c 参照)。電磁シャワーの各点を直接見ると、望遠鏡から遠いほど視線中心方向に見えるため、高い位置で発生したチェレンコフ光ほど視線中心に見えることになります。そのため、焦点面では、高い位置で発生したチェレンコフ光ほど焦点面中心に来ることになります。これを検出器で捉えた様子が(図6)です。
このように宇宙のある特定の方向からガンマ線が到来するとき、電磁シャワーによるチェレンコフ光子は、焦点面の特定の一点を始点として、広がるように到着します。(電磁シャワーの始点は十分上空にあり、そこから出たチェレンコフ光子はほぼ同じ方向から到達しますが、電磁シャワー終点に近づくにつれて入射する光子の方向が着地点の方角にゆがんでしまうからです。)

電磁カスケード(横から)と焦点面にできる像 電磁カスケードによるチェレンコフ光を検出器で捉えた様子

4.2 イメージング

よって、楕円の長軸の交点を結べば、到来方向を推定できることになります。
この焦点面に光子が降り注いでできる像の特徴を解析する方法を「イメージング」といいます。
特徴を像から抽出するために、この像を楕円に見立てた上で「イメージパラメータ」を定義します(図7)。 降り注ぐ光子によってできる像それぞれについて、このパラメータを計算して蓄積しヒストグラムを作ると、ノイズの除去、到来方向の決定が可能になります。このパラメータの計算には、モンテカルロシミュレーションを利用します。

イメージパラメータ

4.3 宇宙線の除去

先述のように宇宙線もガンマ線と同じように空気シャワーを起こしてチェレンコフ光を発生させますが、この検出データはノイズとして除去しなければいけません。宇宙線は主に陽子であるため、地球に到達する前に宇宙の磁場によって方向を曲げられてしまい、地球に等方的に降り注ぐほどに発生源の方向の情報を失っているからです。宇宙線は非常に頻繁に降り注ぐので、ガンマ線由来のデータは殆ど宇宙線由来のデータに埋もれてしまっています。よって、これを除去することが観測の鍵となります。ここでもイメージングの手法が大いに役立ちます。つまり、焦点面に光子が作る像の特徴で判断します。
宇宙線由来のチェレンコフ光による像は主に以下の 様な特徴を持っています(図 8)。

  1. 焦点面での像は幅が広い。(宇宙線は空気シャワー発達初期に核カスケードによりπ 中間子が散乱します。そこから放出されたガンマ線が電磁カスケードをするので、チェレンコフ光の放出される方向が広くなるのです。)
  2. 宇宙線は到来方向が等方的なため、像の楕円の 向きが一点に集中せず、指向性をもたない。
  3. この特徴をイメージングパラメータを元に判断して取り除くことによって、ノイズのほとんどを取り除くことができます。

    チェレンコフ光の由来による像の違い