Research Achievement

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主な研究成果
インフレーション宇宙
インフレーション宇宙モデルは標準宇宙モデルの困難を解決する新たな宇宙論的枠組として受け入れられているが、インフレーションを実現する素粒子論的なモデルは満足なものが無いのが現状である。そこで素粒子の超対称性理論に基づいてニューインフレーションモデルと呼ばれるモデルを研究した。従来、インフラトン場の初期値に関する不自然な微調整が必要なことがこのモデルに対する大きな困難となっていた。しかし、プレ・インフレーションと呼ばれる比較的任意のインフレーションがニューインフレーションの前段階として起これば超重力理論の効果によって自然に解決することを発見した。さらに、このモデルにおいて原始ブラックホールが比較的自然に作られることを示した。また、このインフレーションモデルは単純なインフレーションモデルと異なり観測可能な大きなスケールでスケール不変を破る揺らぎを作る可能性がある。そこで、このモデルにおいて理論的に予言される揺らぎのスペクトラムと宇宙の大規模構造の観測との比較を行った。さらに、超対称性に基づくインフレーション宇宙モデルの構築を、トポロジカル・インフレーション・モデルやカオティック・インフレーション・モデルに対しても行った。特に、カオティックインフレーションはインフレションモデルの中でももっとも単純でインフラトン場の初期値に関する調整が全く必要がない非常に魅力的なモデルである。しかし、超重力理論においては、一般に、スカラー場のポテンシャルがプランクスケールを越えると急激に立ちがあがり、インフレーションを起こすのに必要とされる平坦なポテンシャルが実現できないことがモデル構築の上で最大の問題であった。そこで、理論に新たな対称性を導入し、プランクスケールを越えてインフラトン場のポテンシャルが平坦になるようにし、カオティック・インフレションを実現するモデルの構築に成功した。
グラビティーノ・モジュライ問題
超重力理論においては重力を媒介するグラビトンの超対称性パートナーであるグラビティーノが存在する。グラビティーノはインフレーション宇宙においてはインフレーション後の再加熱時に熱的に生成される。生成されたグラビティーノは宇宙初期の元素合成の頃に崩壊し作られた元素を壊してしまう(グラビティーノ問題)。 この問題を調べるためにグラビティーノの崩壊によって放出されるフォトンが宇宙のバックグランドの粒子と間で行う輻射過程を正確に評価し、フォトンのスペクトルを求める計算コードを開発した。これを用いて軽元素の破壊率を計算し、崩壊が軽元素の存在比に与える影響を調べ、インフレーション後の再加熱温度に対する正確な制限を求めた。さらに、超重力理論や超弦理論で予言されるモジュライと呼ばれるスカラー場の宇宙論的進化を調べ、X・ガンマ線背景輻射の観測がモジュライの密度に対する
厳しい制限を与えることを示し、さらに、熱的インフレーションを用いればモジュライを十分に薄めることができることを明らかにした。また、熱的インフレーションではMeVスケールの非常に低い再加熱温度が予言されることに関連して、元素合成と矛盾しない宇宙の再加熱温度の下限を求めた。
弱い相互作用しかしない粒子に対する宇宙論的制限
宇宙のごく初期においては素粒子理論で予言される様々な素粒子が存在したと考 えられ、その中には相互作用が小さいため宇宙論的な時間スケールの寿命を持つものがある。その様な粒子は地上の実験でその特性を決めることは困難であるが宇宙の進化等に与える影響を調べることによってその特性についての情報を得ることができる。この考えに基づき弱い相互作用しかしない粒子が光(フォトン)を放出して崩壊(輻射崩壊)する場合に宇宙背景輻射のスペクトルの変形と宇宙初期の元素合成に与える影響を詳しく調べた。この研究によって、特に、 質量を持ったニュートリノに関してその輻射崩壊がほぼ禁止されることが明らかになった。また、全くフォトンを放出しない非輻射崩壊する粒子が宇宙初期の軽元素合成に与える影響を調べるために、崩壊粒子と崩壊によって生まれる粒子双方の運動量分布を求める方法を定式化し、それを数値計算で求めることで従来に比べ幅広い質量・寿命を持った一般的な粒子の崩壊に対し、それが元素合成に与える影響を定量的に調べた。この結果をタウ・ニュートリノに適応して非輻射崩壊の場合もきわめて厳しい制限が得られることを示した。
アクシオンと宇宙論
アクシオンは素粒子の強い相互作用においてCPが良く保存していることを説明するPeccei-Quinn機構で現れる粒子である。宇宙論的にはアクシオンは宇宙暗黒物質の有力な候補として注目されている。そこで、アクシオンの宇宙論に与える影響を様々な側面から研究した。まず、アクシオン・ドメイン・ウォールとアクシオン・ストリングからのアクシオン生成に注目し、生成量を詳しく計算しアクシオン・スケールに対する正確な制限を求めた。特にアクシオン・ストリングからのアクシオン放出に関してはエネルギースペクトラムに関して長年の論争があったが、アクシオン場の進化を3次元格子計算を行うことで求め論争に決着をつけた。さらに、アクシオンはモジュライ場のような宇宙の温度がMeVスケールで崩壊する粒子によるエントロピー生成によって薄められ、アクシオン・スケールに対する上限は大統一理論のスケール程度まで許されることを示した。また、インフレーション宇宙におけるアクシオンの存在は等曲率揺らぎと呼ばれる特殊な密度揺らぎを生み出すことが知られているが、3つの代表的なインフレーションモデル(カオティック・インフレーション、ハイブリッド・インフレーション、ニューインフレーション)の場合に実際にアクシオンが大きな等曲率揺らぎを作り出すことを示し、さらに、インフレーションで作られる通常の断熱揺らぎとアクシオンの等曲率揺らぎが混合したモデルについてその観測的問題を詳しく調べ、混合モデルが宇宙の大規模構造の観測データを比較的良く説明し、それが将来の宇宙背景輻射における非等方性スペクトルの観測で検証できること示した。さらに、インフレーション宇宙では、インフレーション終了後、パラメター共鳴と呼ばれる現象によってインフレーションを起こしていたスカラー場が急激な粒子生成を起こすことに着目し、粒子生成によって生じた大きな揺らぎによって位相欠陥が作られるかどうかを調べた。それをアクシオンモデルに応用し、アクシオン・ドメイン・ウォールが作られることを示し、それが宇宙論的に問題となることを指摘した。
Qボール
超対称化された素粒子の標準理論においてはスカラー(スクォーク、スレプトン)場のポテンシャルにいくつかの平坦な方向が存在することが知られている。この平坦な方向に対応したスカラー場(アフレック・ダイン場)はインフレーション中に大きな期待値をもち、これと粒子・反粒子の対称性を破るような反応が組み合って効率よく宇宙にバリオン数が生成される(アフレック・ダイン機構)ことが知られている。近年、アフレック・ダイン場のポテンシャルに対してQボールと呼ばれるノントポロジカル・ソリトン解が存在することが示された。したがって、Qボールはアフレック・ダイン機構によるバリオン数生成に重要な役割を果たす。また、Qボールとモジュライ問題の関係やQボールによって宇宙に大きなレプトン非対称をつくる可能性を議論した。
宇宙の熱史と再イオン化
宇宙は温度が約3000Kの時にそれまで電離して存在していた電子と陽子が結合して水素原子になり(再結合)、宇宙は光に対して透明になったと考えられている。しかし、一方、現在に近い宇宙は電離していることがクェーサーの観測から分かっている。このことは、宇宙が再結合時から現在の間に再びイオン化したことを示している。この再イオン化について、大質量星から放出される紫外線によって水素原子のイオン化が引き起こされたと考え、冷たいダークマターによる銀河形成シナリオに基づき星の形成とそれから放出されるUVフラックスを計算することによって定量的に調べた。また、これを最近のWMAPによる観測と比較し、観測された再イオン化によるoptical depthを星の寄与によって説明できる可能性を示した。さらに、SDSSによるクェーサーの観測の観測とWMAPの観測を両方説明するための1つの可能性として崩壊粒子によるイオン化と星によるイオン化の両方が存在するシナリオを提案した。