2-1. 太陽ニュートリノ
太陽などの恒星内部の核融合の過程でニュートリノが生まれます。水素などの軽い
原子核は融合によって、より低いエネルギー状態になりますが、それが実現される
ためには、原子核の密度とエネルギーが高く、衝突の機会が十分あり、互いの電荷に
よる斥力に打ち勝って接近する可能性が大きいことが必要です。太陽の中心付近は
自身の重力エネルギーによってそのような条件をつくり出している場所なのです。
実際に太陽内部で行われている核融合はやや複雑な過程を経るのですがが、結果的
には、水素原子核(すなわち陽子)が4個集まって、ヘリウム原子核(陽子2個と中性子
2個)1個を生成したことと同等になります。陽子2個分が中性子に変換しています
から、実質的には、
[陽子] + [電子] --> [中性子] + [ニュートリノ]
のような変化でニュートリノが生まれます。
このようにして生まれる太陽ニュートリノのエネルギーはほとんど 1MeV 以下ですが
それより高いエネルギーのもあります。実際スーパーカミオカンデが対象としている
主なニュートリノは、核融合の一過程でできる硼素(B8)が崩壊してできる
ニュートリノで14MeV まで延びています。
2-2. 超新星ニュートリノ
太陽より質量が10倍ほどの重い星の中心部では、今太陽内で進行中の核融合の
燃料である水素が燃え尽きた後も、大きな重力エネルギーによって非常に高い温度
になっていて、更に重いヘリウムや炭素の核融合へ進んで行き、中心付近には鉄の核が
形成されます。そこでは核融合は終り、逆に鉄原子核の吸熱反応が起こり、温度が
下がる結果、重力を支えきれなくなり、重力崩壊が始まります。中心付近は巨大な
一つの原子核のような密度の高い状態になり、接近した核子(陽子、中性子)間に
働く斥力によって崩壊が止まり、逆に爆発に転じます。
以上はII型超新星と呼ばれる重い超新星の爆発のシナリオですが、重力崩壊で
できる巨大な原子核状の中では電子や陽子の存在は不安定であり、ニュートリノを
放出して中性子に転換する反応が急激に起きます。10秒程度の短い時間内に大量の
ニュートリノを放出することになります。ニュートリノのエネルギーは太陽
ニュートリノより2倍ほど高いところまで延びています。
実際、放出されるニュートリノとそのエネルギーは大量で、
太陽が約100億年(一生)
かかって放出するエネルギーの約100倍のエネルギーが、約10秒間
に大量のニュートリノとして放出されるのです。そして、このため
我々の隣の銀河(大マゼラン星雲)で起こった超新星爆発の
ニュートリノさえ観測できるのです。
爆発の跡には中性子だけでできた小さくて重い星「中性子星」が残されます。
2-3. 超高エネルギー天体ニュートリノ
1020 eV というとてつもなく高いエネルギーにまで達する超高エネルギー宇宙線
が観測されており、その実験事実を説明するためには、宇宙のどこかに粒子を
効率良く加速する場所があるか、または超重粒子が存在し崩壊するか、のどちらかを
考えなければなりません。通常は前者を仮定し、その候補として、超新星爆発の後
に中性子星の周りに広がって行くガス状の残骸、中性子星に他の恒星が伴っている
連星系、活動的銀河の中心にあると思われるブラックホールの周囲の超高エネルギー
現象、等々を考察する研究がなされてきました。
一般に超高エネルギーの陽子や
原子核があるなら、超高エネルギーのニュートリノもあると考えられます。
超高エネルギーの粒子がガス中の原子核と衝突してパイ中間子などの二次粒子を
つくりますが、これらパイ中間子は、ガスの密度が余り高くない限りは、次の
原子核と衝突する前に崩壊することもあって、ミュー粒子やニュートリノを放出
します。
実際にそういうニュートリノがどれくらい地球にやってくるか、計算で定量的に
予測することはなかなか困難なため、この分野がどう発展してゆくかまだ不明で、
今後の研究に期待がよせられています。
一方、超重粒子があって崩壊する可能性も否定されたわけではなく、また「超重」
とまではいかないが、弱い相互作用をする重粒子(質量 100GeV 程度)を仮定すると、
それらが地球や太陽の中に捕捉され、対消滅をしてニュートリノが出てくると
考えられ、実験的にも比較的容易に検証できそうな点は注目すべきでしょう。
2-4. 大気ニュートリノ
地球の大気中では、以下のような過程でニュートリノが生成されています。
すなわち、宇宙線が入ってきて空気の原子核と衝突し、パイ中間子やK中間子
などがつくられ、それらが崩壊してニュートリノ(大部分はミューニュートリノ)が
発生します。さらに、ミューニュートリノと対になって生まれるミュー粒子が崩壊
することもあって、そのときにはミューニュートリノと電子ニュートリノが発生
します。崩壊確率はエネルギーに反比例しますから、エネルギーが十分低い場合は、
ミュー粒子もほとんど必ず崩壊します。すると、全体で1つのパイ粒子から
ミューニュートリノが2つ、電子ニュートリノが1つ生まれたことになります。
大気ニュートリノのエネルギー領域に関しては、ミュー粒子の質量(106MeV) の1/3
程度が下限となりますが、エネルギーが 1012 eV ほどに上がると、宇宙線の頻度が
減ることと、崩壊確率も小さくなることから、急激にニュートリノの数が減って検出
が難しくなってきます。
実際、スーパーカミオカンデなどでは、上記のエネルギー範囲の
大気ニュートリノを常時観測しています。
2-5. ビッグバンニュートリノ
百何十億年前の宇宙がごく小さかった頃は、粒子と光がぶつかり合う完全な熱平衡の
状態にあったと考えられています。衝突確率の小さいニュートリノも十分に混ざり
合い平衡状態にあったと考えられます。しかし、宇宙がある程度大きくなって互いに
自由になると、それ以降は宇宙の膨張につれて広がっていったと想像されます。
自由になる温度はエネルギーでMeVの桁なのですが、遠い星ほど速く遠ざかる宇宙膨張
によるドップラー効果のため、われわれが観測するニュートリノはずっと低い
エネルギー(絶対温度で2度ほど)になっているはずです。
このビッグバン宇宙の
描像は絶対温度 2.7度のプランク分布に完全に従うマイクロ波背景放射が観測されて
以来、正当派宇宙論になっています。ニュートリノの密度に焼き直すと1立方センチ
に 100個ほど期待されます。
しかしこのニュートリノを実際に観測するのは、衝突断面積がエネルギーに比例して
小さくなることと、エネルギー自体が非常に小さく、他のいろいろなノイズから
それだけを取り出すことが極端に難しいため、まったく手付かずとなっています。