<<<<<<<<<<<<<< CRC News 2017年10月18日 >>>>>>>>>>>>>> CRC会員 各位            CRC事務局 **********<第12回日本物理学会若手奨励賞(宇宙線・宇宙物理領域)受賞者>********** 日本物理学会 宇宙線・宇宙物理領域の皆様、 日本物理学会第12回若手奨励賞ですが、宇宙線・宇宙物理領域より推薦された 以下の三名の方の受賞が決定しました。 ・藤井俊博氏 所属:東京大学宇宙線研究所 研究:大気蛍光望遠鏡による極高エネルギー宇宙線スペクトルの研究 ・三塚岳氏 所属:理化学研究所 理研BNL研究センター 研究:高エネルギーハドロン衝突における超前方中性パイ中間子生成の研究 ・諏訪雄大氏 所属:京都大学基礎物理学研究所 研究:巨大な星からの超新星爆発とガンマ線バーストの理論的研究 お三方のさらなるご活躍を期待いたします。来る春の年次大会ではお三方に受賞講演を して頂くことになっております。みなさま、ぜひ講演にお越しください。 宇宙線・宇宙物理領域代表 田中貴浩 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 以下は、審査委員会からの推薦理由です。 藤井俊博氏の推薦理由: 藤井俊博氏は、TAとAuger双方のグループで研究を続けてきた研究者であり、大気蛍光望遠鏡を用いた極高エネルギー宇宙線スペクトルの研究に貢献してきました。  大気蛍光望遠鏡は、極高エネルギー宇宙線が大気中で作る空気シャワーからの紫外発光を鏡で集光し、焦点面に設置した数百の光電子増倍管でシャワー発達の様子を撮像する望遠鏡です。藤井氏は大気蛍光望遠鏡の建設作業からTAに参加し、鏡の反射率測定など各種較正データの取得作業や定常観測のための望遠鏡運用に携わって来ました。データ解析においては極高宇宙線が生成する2次粒子束の増減を測定データから見積もる新たな解析手法を考案し、1地点の測定データから空気シャワー発達の情報を再構成する独自の解析ソフトウェアを完成させました。これを用いて7年間の定常観測で得られた大気蛍光望遠鏡の測定データを解析し、3桁を越える幅広いエネルギー領域にわたってスペクトルを測定しました。これにより日本グループの極高宇宙線データ解析のレベルは一気に高まり、この分野でのパイオニアである米国グループと肩を並べて研究を進めることができるようになりました。この研究成果はTAグループの共同研究者全員による共著論文として出版されました。藤井氏はこの論文の責任著者となっています。  また、Augerでは超相対論的な磁気モノポール探査で研究成果を出しています。さらに最近では、極高宇宙線の検出感度を一桁以上高める次世代実験のために、TAとAugerの若手研究者を組織して新たな観測手法の開発研究を進めています。これは、極高エネルギー宇宙線に対する感度を一桁以上向上させることを目指しています。  以上のように大気蛍光望遠鏡を用いた宇宙線研究における藤井氏の貢献は大きく、若手奨励賞受賞にふさわしいと判断しました。 三塚岳氏の推薦理由: 三塚岳氏は、自身が参加したLHCf実験において、欧州LHC加速器におけるデータ取得準備からデータ取得に大きな貢献をし、取得データの解析と論文執筆を主導して本研究を成功させました。  LHCf実験は、超高エネルギー宇宙線が地球大気中で作る空気シャワー発達を正しく理解するために行われた加速器実験です。特に、空気シャワー粒子の大多数を占める電磁成分は中性パイ中間子を起源とするため、その生成断面積の決定は実験の最重要課題となっています。三塚氏は、LHCf実験が2013年までに取得した異なる衝突条件におけるデータを解析し、中性パイ中間子の生成断面積を決定しました。特に重要な貢献は、1) それまで解析が困難とされた高エネルギー中性パイ中間子の解析方法を新たに開発し、より広いエネルギー範囲で断面積を決定したこと。2)異なる衝突エネルギーでの断面積を適切な規格化で比較し、広い衝突エネルギー範囲でスケーリングが成り立つことを実証したこと。3)陽子原子核衝突における原子核周囲の仮想光子の影響を計算によって求め、純粋に陽子と原子核のハドロン衝突による断面積を分離決定したことです。これらの測定結果を高エネルギー物理学や宇宙線物理学で利用される複数のモデル予測と比較し、各モデルを検証しました。  また、陽子原子核衝突における陽子と仮想光子の衝突について、より一般的に適用可能な計算手法を発表しました。この計算はLHC加速器のみでなく、同様の陽子原子核衝突が行われる米国のRHIC加速器での実験にも適用可能です。三塚氏は、本研究をもとにPHENIXが測定した中性子を仮想光子起源とハドロン衝突起源に分類し、見事にその説明に成功しました。  以上のように、三塚氏のLHCf実験での研究成果への貢献は大きいと言えます。また、その新たな分野への展開は本人の物理学に対する広い見識の賜物であり、両研究は若手奨励賞受賞に値するものと判断しました。 諏訪雄大氏の推薦理由: 重力崩壊型超新星爆発やガンマ線バーストといった、大質量星が進化の最終段階で引き起こす超新星爆発現象は、現在宇宙物理学の中でも最もアクティブに研究が進められている分野である。近年のこの分野での顕著な発展としては、ニュートリノ輸送を系の対称性を課すことなく解くことによって、爆発する超新星爆発のシミュレーションが行なわれるようになったことが挙げられる。また、高赤方偏移宇宙における初代星の進化と最終段階での爆発機構は、多くの研究者が興味をもつ問題である。さらに、ガンマ線バーストの観測は多様な種族を報告している。このような天体現象の理論模型を構築してそれらの観測可能性までを明らかにする研究は、観測分野にも大きなインパクトを与えている。 このような背景のもと諏訪氏は、以下のような業績を挙げている。 第一に、日本で最初にニュートリノ輸送を2次元流体とともに解くシミュレーションを実行し、爆発を起こす重力崩壊型超新星爆発のシミュレーションに成功した。これをもとにした、3次元計算も共同研究として実現した。この研究を発展させ、超新星爆発の状態方程式依存性から原子核物理に迫る研究、中性子星外核形成まで追うシミュレーション、親星の構造と超新星の関係など精力的に研究を進めている。 また、諏訪氏は初代星がガンマ線バーストを起こすことが可能であることを初めて示した。この研究では、初代星の質量が重いので外層の降着で生じるジェットが強力に長時間続くことによって、水素の外層をもつ初代星でもガンマ線バーストを引き起こす可能性を解析的モデルによって示した。さらに、特殊相対論的シミュレーションによってその可能性を検証した。この理論模型は、その後報告された超長時間ガンマ線バーストとよばれる新しい種族を説明する良い模型となっていることが明らかとなっている。諏訪氏らは、この研究をもとに青色超巨星が超長時間ガンマ線バーストの起源となっている可能性を指摘し、有力な模型を提唱した。 諏訪氏は、これら一連の大質量星の超新星爆発とガンマ線バーストの理論的研究によって、宇宙物理学の新たな地平を開拓した。この成果は、日本物理学会若手奨励賞(理論系)に相応しいと考えられる。