<<<<<<<<<<<<<< CRC News 2017年5月9日 >>>>>>>>>>>>>> CRC会員 各位            CRC事務局 **********<第7回測定器開発優秀修士論文賞の選考結果>********** ====================================== --- 第7回測定器開発優秀修士論文賞が決定しました。 選考結果を報告します。 --------------------------- -- 選考結果の報告 -- 2017年5月8日 選考委員長 幅淳二 第7回を数える測定器開発優秀修士論文賞、今年度も21篇の応募があった。い ずれも例年通り100ページに及ぶ渾身の力作ぞろいである。募集は、高エネル ギー物理学研究者会議、原子核談話会、宇宙線研究者会議をはじめ、高エネル ギー宇宙物理連絡会、放射線物理、放射光科学、中性子科学関連のコミュニティ に向けてアナウンスされており、今回の応募論文の応用分野も図1に示すよう に幅広い領域にまたがって、まさに測定器技術の分野横断の性格を如実にしめ している。今年度はとくに、放射線測定(環境、医療計測を含む)の分野からの 論文も目立つ。研究分野としてはあまり交流のないコミュニティ間で、有用な 技術・情報の交換がもたらされることは、まさに本論文賞のねらいのひとつで あり素晴らしい成果が上がっているといえよう。  開発研究の主役である技術要素は多岐にわたっているが、シンチレータにか かわるあるいはそれを活用したシステムの開発研究が目立ったのが、今年度の 特長と言える。この背景にはPPD(SiPMとも称される、マルチピクセル・ガイガー モードAPD)の高性能化、大面積化の実現がもたらした、昨今の急速な普及があ るものと考えられる。本論文賞の草創期には、PPDのCharacterization自体を 主題とする多くの論文があったことを考えると、近年の技術の成熟が実感され る。  選考は、素粒子、原子核、宇宙線各分野のコミュニティより推薦をうけた委 員を含む合計12名の選考委員により、例年通り2段階で行われた。2月末の締め 切り後、今年度は査読を行うに際して、以下のような評価項目を設定すること を審査員一同で確認し、それぞれの項目について採点、集計することで選考審 議の資料とすることとした。 1. 論文の完成度 2. 背景技術の理解度 3. 開発研究の意義とその理解 4. 研究の独創性、先進性(テーマ、手法)とその的確な記述 5. 研究における本人の独創性、主体性 6. 測定器開発にかける熱意、最後までやりとげる意志  一か月かけてまず7編の候補論文に絞り込み、その後さらに3週間をかけて、 全委員がこの7編について改めて熟読、採点をして最終的には5月2日に最終選 考委員会が行われた。今回選出された今年度の優秀論文賞2編はその方向性は 全く異なるものの、いずれもシンチレータが主役となる検出器サブシステムの 構築をテーマにしている。そのため「先進性」というポイントは満点とはいえ ないまでも、実験から課せられる要件をきちんと理解し、その実現にむけて精 力的に取り組み、論理的に攻めていく過程が克明に記録されており、実験コラ ボレーションのサイズが巨大すぎないこともあり、研究開発の主体性もきちん と示されていた。こうしたことから、審査員一同、上記評価項目のいずれにつ いても高い評点を与えたもので、まさに模範的な優秀論文であるといえる。  今回は、こうした実験のサブシステムの設計・建設・調整をテーマとする着 実な論文も多い中で、カーボンナノ構造とGEMを使ったX線源や世界初のサブミ クロン精度ピクセルセンサー、陰イオンTPC、暗黒物質の方向検出など、斬新 なアイディアや挑戦的な開発研究をテーマとして、審査員に大きな興味を抱か せる先進性の高い注目論文数編が光っていた。その数は今回多いとはいえず、 また残念ながら授賞にはいたらなかったが、今後もこうした測定原理や先端要 素技術にかかわる挑戦的な基礎開発研究にもさらに多くの学生が挑み、その貴 重な苦闘の記録を修士論文として残してくれることを期待したい。 測定器開発優秀修士論文賞 選考委員長 幅淳二 -- 選考委員リスト (敬称略) 審査委員 コミュニティ委員: 味村周平(RCNP)、居波賢二(名大)、窪秀利(京大)、          佐川宏行(宇宙線研)、溝井浩(大阪電通大)、寄田浩平(早大) KEK所内委員 (一次選考のみ): 内田智久、佐波俊哉、杉本康博 事務局: 中村勇、西口創、幅 淳二 -- 測定器開発修士論文賞 2編 『MEG II実験陽電子タイミングカウンターの製作および較正と大強度 ミュー粒子ビームによる性能評価』 中尾 光孝 (東京大学) レプトンフレーバーを破るMuonの稀崩壊を探索するMEGII実験でMuonから崩壊 した陽電子のタイミングを計測する検出器の開発についての論文である。 高輝度ビームの実験下では偶発事象が最大のバックグラウンドで時間測定の精 度が実験の感度に直結する。 本論文は、そのタイミングカウンターの実機の製作や製作にまつわる様々な試 験、較正に用いられるレーザーキャリブレーションシステムについて、性能の 見積もり、ファイバーと検出器の光接続の検討、システム自体の時間精度、実 機に組み込んでの時間精度の測定、環境による精度への影響の評価、製作後の 実機をビームラインに置いて、レーザーによる較正のテスト、物理事象からの トラックを使っての較正の実験、およびそのシミュレーション等々非常に広範 囲の研究の結果が的確かつ簡潔にまとめられている。 研究内容が多すぎて若干記述が簡素すぎるところもみられるが、全体としての 論文のクオリティーは高く受賞論文にふさわしいと評価された 『シグマ陽子散乱実験のためのBGOカロリメータシステムの構築』 池田 迪彦 (東北大学) Σp弾性散乱の微分断面積を新しい手法を用いて高統計で決定する事を目指す J-PARC・E40実験。本論文は、E40実験で散乱陽子のエネルギー計測を担うBGO カロリーメータシステムを完成させた開発研究である。 本論文は、40-400kHzという高計数率で安定に動作し、且つ80MeV陽子に対して 3%(σ)のエネルギー分解能を達成することが求められるカロリーメータのため、 読み出し系回路の設計製作から始まり、開発した読み出し系をBGO結晶と共に 実機として組み上げ、陽子ビーム照射試験により最終性能を評価、要求性能の 達成を示した上で本実験への準備を完了させた力作である。時定数の長いBGO 信号を高計数率下で動作させるため整形増幅回路を自作したり、取得した波形 データを元に製作したテンプレートを駆使した波形サーチ解析の開発など、ハー ドとソフトの両面にわたる開発研究は読み応えがあり、審査委員会満場一致で 受賞が決まった。  設計から試作、試験、実機製作、ビーム照射試験、解析と性能評価、と測定 器開発の醍醐味を余さずに味わい尽くした、努力と力量を如実に物語る論文で あった。 -- 受賞された中尾様、池田様、優れた論文をありがとうございました。 応募いただいた皆様に御礼申し上げます。 -- 選考結果は http://rd.kek.jp/ronbun/award2017.html でも御覧になれます。 -- 秋の物理学会において、授賞式と受賞記念講演を開催すべく準備を進めており ます。来春にも候補論文の募集を行いますので、関係の皆様方には何卒よろし くお願いいたします。 -- 問い合わせ先 305-0801 つくば市大穂1-1 高エネルギー加速器研究機構 測定器開発室 測定器開発優秀修士論文賞事務局 Tel: 029-864-6242 email: dtp-ronbun2017 [at] ml.post.kek.jp --------------- 測定器開発優秀修士論文賞 事務局 中村、西口