検出器

Ashra計画では、最終的にハワイ島に3箇所の観測ステーションを建設する予定です。1個の観測ステーションは、 人間で言うところのひとつの「目」に当たります。その角度分解能は人間の視力1.0と同等の1分角程度ですが、 目とは視野がまるで異なり、Ashraでは1個の観測ステーションで全天の約80%をカバーします。ひとつの観測 ステーションは12個の検出器ユニットから構成され、それらは昆虫の複眼のように各々が直径42度の視野ごとに 分担しながら監視しています。

ひとつの検出器ユニットはコスト効率を上げるために、同じ視野を向いている 複数台の小型の望遠鏡によって構成されます。ひとつの望遠鏡には、独自に開発した修正ベーカー・ナン光学系と トリガー・読み出し系が装着されています。

修正ベーカー・ナン光学系では、3枚の補正レンズと2.2m径の球面鏡によって光が集光されます。さらに0.5m 径光電レンズ撮像管によって光電変換されて、電子レンズによって固体撮像素子と同等の画角サイズまで画像 収縮されます。この独自の光学系によって直径42度の立体角という1望遠鏡しては巨大な視野を持ちながらも、 分角の分解能を維持することに成功しています。

その後段にはハーフミラーとリレーレンズ、近接型光電撮像管および固体撮像センサーを組み合わせた イメージパイプラインと呼ばれる装置があります。 このイメージパイプラインの設計は従来の光電子増倍管を用いたトリガー・撮像装置に比べ、ピクセル毎の コスト効率を圧倒的に高めた上で感度と分解能を最大化するものとなっています。

その最大の特徴は輝度増幅とバランスした光分配機構にあります。これにより、望遠鏡によって焦点化された 星や素粒子放射による空気シャワーの光像は、トリガー無し撮像、チェレンコフ光用トリガー有り撮像、 蛍光用トリガー有り撮像の3種類の互いに独立な光像として検出できます。全天監視、高精度、高感度かつ 多重同時トリガーという画期的な性能を持つ新たな宇宙観測の「目」を、これら新技術がしっかりと支えて いるのです。


図2:観測ステーション概念図(左上図)、
平成17年7月時点での土地整備中の観測予定地(左下図)、
Ashra望遠鏡実機(右図)。


研究の現況

柏における設計、要素開発、および三鷹の国立天文台における撮像試験を経て、平成16年度9月から ハワイ州ハレアカラ山頂にて光学系とトリガー・読み出し系の試験観測を行い以下のような成果を得ました。

光学系:

2/3スケールモデルによる星像観測。月のない夜の約50%の稼働率にて2〜3分角度の解像度を維持しています (図3、図4)。GRB観測衛星であるHETE-2、INTEGRAL、Swiftのアラートを受けて3例のGRBの同時もしくは 直後の光学閃光観測を行い、11等級から12等級の限界等級で到達光量に制限を与えました。いずれも追尾型の 望遠鏡では成しえない最速の観測結果を提供できました。GRB発生以前からの観測は世界で我々のみです。


図3: 2/3スケール試作機



図4: 試作機による広視野高精度の実証。 おうし座全体とすばるの星が見える。


トリガー、読み出し系:

3m径反射型経緯台望遠鏡に0.4m径光電レンズ撮像管とトリガー読み出し系を搭載して、かに星雲からの TeVガンマ線の追尾観測を行いました。新たに開発されたAshraにおける自己トリガー法によって、5シグマ 以上の有意度でかに星雲からTeVガンマ線が来ていることを確認できました。光電子増倍管以外の撮像方法を 用いて超高エネルギー空気シャワーによる大気チェレンコフ光の有意な撮像に成功したのは世界で我々のみです。


図5:イメージパイプライン概念図



図6:イメージパイプライン試作機


これらによって、
  1. Ashra光学系のコンセプトである「大面積・超広角・分角度解像度」
  2. Ashraトリガー・読み出し系による空気シャワー大気チェレンコフ光撮像性能

の実証ができたといえます。

このページのTOPへ戻る

最終更新日  - 2005/12/12