プロジェクト研究

Supervisor: 佐川宏行 TA: 池田大輔、斉藤公紀

 10の20乗電子ボルトのエネルギーを持つ最高エネルギー宇宙線が宇宙からやってきている。人工加速器で人類が到達できたビームエネルギーよりも一千万倍以上も高い。このような膨大なエネルギーを持った粒子がどこで、どのように生まれ、どのように地球にやってきたか未だ解明されていない。この謎に包まれた粒子の 起源を探るために、米国ユタ州に巨大な宇宙線観測装置、テレスコープアレイ(TA)を建設した。日・米・韓・露・ベルギーの5ヶ国の研究者たちで構成さ れるチームが、 その謎に挑戦している。

 最高エネルギー宇宙線の到来方向の「ホットスポット」など、この謎に包まれた粒子の生成場所やどのように飛来してきたかを示唆する面白い結果が出つつある。

 プロジェクト研究では、研究の背景とこれら最先端の結果に触れた後、このTA 実験で実際につかまえた最高エネルギー宇宙線のデータ解析を行なう。 宇宙の極高エネルギー天体との関係を探り、宇宙に想いを巡らせよう。さらに、TAで実際に使用している材料で検出器を作って宇宙線をつかまえる実習を行う。

 発表スライド 
Supervisor: 奥村公宏 TA: 亀田純、西村康宏、織井安里、園田祐太朗

 1998年のニュートリノ振動と質量の発見以来、ニュートリノ研究は飛躍的に発展しました。太陽、大気、加速器、原子炉などのニュートリノを用いたニュートリノ振動の精密測定によって、3種類のニュートリノ間のフレーバー混合モデルがほぼ解明し、さらに宇宙創世の謎を解くヒントとなるレプトンCP非保存パラメータの測定に手が届き始めています。スーパーカミオカンデ(SK)実験はこの研究で世界をリードする成果を出してきました。

 また、SK検出器中の純水にガドリニウム(Gd)を溶解し、反ニュートリノ事象の識別が可能なSK-Gd計画が実現されようとしています。さらにレプトンCPや陽子崩壊などに飛躍的な進展が期待できるハイパーカミオカンデプロジェクトも進められています。今後もニュートリノ研究のさらなる進展が期待できるでしょう。

 本プロジェクト研究では、SKで観測された宇宙線ミュー粒子データを用いて新物理を探索する課題を予定しています。この研究では、SKデータ解析、モンテカルロシミュレーション事象の作成、統計手法を用いた物理パラメータの測定または制限などを行います。研究に必要な理論・検出器・解析の全過程を、自主的に学べる機会となることを予定しています。

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Supervisor: 手嶋政廣 TA: 齋藤隆之、Daniela Hadasch、岩村由樹、高橋光成

 高エネルギーガンマ線による宇宙の研究は、フェルミガンマ線衛星、 HESS, MAGIC, VERITAS などの地上チェレンコフ望遠鏡により、過去10年の間に大きく発展してきました。多数の高エネルギー天体からGeV・TeVガンマ線が発見され、宇宙で起こる様々な高エネルギー現象が明らかになってきました。超巨大ブラックホール、超新星残骸、高エネルギー宇宙線加速、コスモロジー、暗黒物質探索において重要な成果をもたらし、今や、高エネルギーガンマ線天文学は、宇宙物理学における極めて重要な分野を形成しています。本プロジェクト研究では、フェルミガンマ線衛星、MAGICチェレンコフガンマ線望遠鏡を使い、カニ星雲を観測してみます。カニ星雲は1054年に爆発した超新星残骸であり、藤原定家の明月記にも記述があり、若い超新星残骸で、その中心部にはパルサーが存在し、周囲にはパルサー風により生成されたパルサー星雲が存在します。

1) パルサー星雲により加速された高エネルギー粒子が周囲の輻射場と衝突しガンマ線を放出します。
2) 高速で(33ミリ秒で)回転している若いパルサーは、強い磁気圏を周囲に持ちながら回転しており、単極誘導により強い電場が生成されます。この電場を利用して粒子が加速され周囲の磁場、輻射場と相互作用しガンマ線パルスを放出します。

 カニ星雲、カニパルサーからのガンマ線を測定し、その時間分布から 1), 2) の成分を分離し、粒子加速、ガンマ線放射の詳細なメカニズムについて研究します。

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Supervisor: 手嶋政廣 TA: Daniel Mazin、深見哲志、稲田知大、黒田隼人、久門拓

 地上チェレンコフガンマ線望遠鏡による宇宙の研究は、近年に至り大きく進展した新しい天文学の一分野です。現在およそ 200 の高エネルギー天体(超巨大ブラックホール、超新星残骸、パルサー星雲等)からの TeV ガンマ線放射が発見されており、続々と新たな天体、予期を超える天体現象が観測されています。さらにこの分野の研究を飛躍的に推し進めるために、国際共同研究で全天宇宙ガンマ線天文台 CTAO (Cherenkov Telescope Array Observatory) をスペイン・ラパルマ、チリ・パラナルの南北2カ所に建設を進めています。チェレンコフ望遠鏡は、大気中に入射したTeVガンマ線がつくる電磁シャワーからのチェレンコフ光を地上に設置した反射望遠鏡により、そのチェレンコフ光のイメージと光量を測定することにより、ガンマ線の到来方向とエネルギーを測定します。本プロジェクト研究では、ミニ・チェレンコフ望遠鏡を製作・較正し、宇宙線研究所屋上テラスにて宇宙線からのチェレンコフ光の観測を行い、その観測原理、チェレンコフ光の特徴を理解します。さらに時間があれば、銀河内で最も明るいガンマ線源であるかに星雲の観測を行います。

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Supervisor: 大内正己 TA: 石垣真史、向江志朗、菊地原正太郎

 ハッブル宇宙望遠鏡による深宇宙探査プロジェクトHubble Frontier Fields (HFF)は、これまで3年間にわたり進められてきた。HFFは30等級近い高感度の可視光・近赤外線撮像を近傍銀河団領域に対して行うものである。研究対象は近傍銀河団の背景にある超遠方の宇宙である。ハッブル宇宙望遠鏡による達成可能な極めて高い感度に加えて、銀河団の重力レンズ効果による増光(重力レンズ望遠鏡)を用いることにより、これまで不可能だった赤方偏移10程度の暗い遠方銀河の検出が行える。このような暗い遠方銀河は、138億年の宇宙史のうち最初の僅か数%の時代に起こった宇宙再電離を引き起こしたソースだと想像されているのだがその真偽は定かではない。本プロジェクト研究では、HFFデータを解析し、暗い遠方銀河が宇宙再電離に必要な電離光子数密度をもたらすかという問題に取り組む。詳細については参加者の希望を聞きながら決めたい。HFFデータを用いた研究は世界中で精力的に進められている。これまで、一部のHFFデータに基づいた研究は報告されてきたが、最近新たに得られたデータも含めることで、さらなる発見が期待される。特に、HFFデータは従来調べられていない新たな物理パラメター空間をカバーしているため、本プロジェクト研究を通じて参加者自ら予期せぬ発見(serendipitous discovery)をする可能性もある。たった1週間でデータ解析の初歩から最先端の研究までを経験するため相応の困難が伴うが、高い意識をもつ学生ならばこれを乗り越えられると期待している。

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Supervisor: 川村静児 TA: 苔山圭以子、伊藤洋介、桐井真

 ついに重力波が検出された!アインシュタインの一般相対性理論によりその存在が予言されてからちょうど100年、ついに人類は宇宙の新しい窓を開け、重力波天文学を創成したのである。今回検出された重力波は太陽質量の30倍程度のブラックホール連星の合体からやってきたものであったが、今後は、中性子星連星の合体、パルサー、超新星爆発などから発生する重力波の検出も期待できる。また、重力波の観測から、一般相対性理論の検証、ブラックホールの地平線近傍の観察、原子核密度を超える超高密度物質の性質の解明、さらに将来は、宇宙誕生の瞬間の観測、ダークエネルギーの探査、余剰次元の存在の確認などわくわくするようなサイエンスへとつながっていく。

 本プロジェクト研究の前半はメンバーひとりひとりが小型のレーザー干渉計型重力波検出器を製作し、その動作の仕組みを理解し、KAGRAなどの建設に必要な技術である、光学や制御技術を習得する。後半は、中性子星連星やブラックホール連星の合体から放射される重力波の予想波形やマッチドフィルターというデータ解析の手法を学んだ後、LIGOで実際に重力波が検出された“本物の”データを用いて、データ解析を行い重力波信号を探す。

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