乗鞍岳におけるミューオン強度の精密測定

乗鞍岳での観測の目的:

比例計数管ミューオン計:

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図15:乗鞍観測所に設置した広視野・高角度分解能宇宙線望遠鏡の模式図。(拡大)


figure16
図16:乗鞍宇宙線望遠鏡で捕らえた”前兆現象”の例。(拡大)
上で述べたように、乗鞍岳における観測の狙いは「ロスコーン前兆現象」の精確な観測ですが、そのためには図9のような広い視野を持った宇宙線計の代わりに視野の狭い宇宙線を用いる必要があります。乗鞍宇宙線観測所(標高2770m)で観測する理由は、測定器上空の大気で吸収されるミューオンを出来るだけ減らし、より多くのミューオンを測定するためです。測定の統計誤差は平均計数率の平方根に逆比例して小さくなるので、ミューオン計数率が海水面付近に比べて数倍大きな乗鞍宇宙線観測所では、同じ面積の検出器でより精度の高い観測を行うことが可能です。視野の狭い観測を行うため、我々は図15のようなミューオン計を設置しました。このミューオン計では、直径10cm、長さ5mの円筒形比例計数管が44本ずつ4層に敷き詰められています。各比例計数管にはPRガスと呼ばれる気体が封入されていて、円筒軸にそって張られた細い芯線に高い電圧がかけられています。電荷を持つ放射線がこの管に入ると、ガス中の原子がイオン化され、出来た電子やイオンが管内の電場で加速・増殖されて電流パルスとして取り出されるので、このパルスを検出することにより、放射線を検知することが出来ます。4層の比例計数管は、それぞれ互いに直交する向きに並べてあるので、上の2層と下の2層それぞれでどの管がパルスを出したかを調べればミューオンの入射方向が分かります。これは丁度、10cm×10cmの正方形の小型検出器を上下2層に80cm離して敷き詰めた場合に相当し、図9のようなミューオン計に比べて数十倍高い方向分解能で観測を行うことが可能です。このミューオン計は、実際に「ロスコーン前兆現象」の観測に成功しました。その観測結果の1部を図16に示します。この現象は2003年10月27日(図6の現象の直前)に観測されたもので、図の各パネルは1時間で平均された入射方向ごとのミューオン強度を色で示しています。入射方向は、各パネルの中央が鉛直方向、上(下)が北(南)、右(左)が東(西)を表し、ミューオン強度は、青(赤)が強度の小さい(大きい)ことを示しています。強度の小さい(青い)領域が、地球の自転とともに宇宙線計の視野内を東(右)から西(左)へと移動してゆく様子が分かります。この様子を詳しく解析することにより、この時の宇宙天気の様子について色々な情報を導くことが出来るのです。



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