乗鞍岳におけるミューオン強度の精密測定

銀河宇宙線と太陽圏:

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図1:太陽活動と宇宙線強度の時間変化。上段は太陽黒点数の月平均、下段はMcMurdo(南極)にある中性子モニタの観測データ。太陽黒点は太陽活動が活発になると増加することが知られている。この図から、太陽活動と宇宙線強度との間に反相関があることがわかる。(Bartol Res.,Uni. of Delawareのページから) (拡大)

 宇宙線とは、宇宙を起源とするエネルギーの高い放射線のことで、全体の約80%を占める陽子(水素原子核)が主成分です。宇宙線は、概ねそのエネルギーの低いほうから、太陽で作られる「太陽宇宙線」、我々の銀河系内(以下銀河系または銀河と呼ぶ)のどこかで作られる「銀河宇宙線」、両者の中間のエネルギーを持つ「異常宇宙線」に分けることが出来ます。これらのうち我々が観測しているのは銀河宇宙線で、最も広いエネルギー範囲を占める成分です。陽子は電荷を持っているので、運動すると磁場から力(ローレンツ力)を受けます。このため宇宙線は磁場中を直進できず、磁場に沿って螺旋運動します。銀河系の何処かで生まれた銀河宇宙線も、銀河磁場の周りに螺旋運動してやがて地球にまで到達します。このため、地球で観測される宇宙線の数(単位時間・単位面積当たりに入射する数を強度と呼びます)は方向によらずほとんど一定で、あらゆる方向からほぼ等方的に入射するようになります。この点が磁場中を直進する光と異なる点で、エネルギーの高い宇宙線はほぼ光速で運動しますが、一般に宇宙線の入射方向から宇宙線源の方向を知ることは出来ません。

 銀河の中で、太陽は太陽風という高速のプラズマ(平均で秒速約450km)を常時四方八方に噴出しています。太陽は強い磁場を持つので、太陽風によって自分の磁場も噴出しながら周囲に太陽磁気圏(以下太陽圏と呼ぶ)という領域を形成しています。銀河を旅して太陽近傍までやって来た銀河宇宙線は、やがて太陽磁気圏の中に侵入してきますが、太陽から磁場を伴って噴出す太陽風により外向きに押し戻され、侵入が妨げられます。この効果を銀河宇宙線の太陽変調(モジュレーション)と言い、最も良く知られている現象に「銀河宇宙線強度の11年周期変動」があります(図1)。これは、太陽活動が活発になると地球で観測される銀河宇宙線強度が減少する現象で、活発な太陽活動が銀河宇宙線を太陽磁気圏の外へ押し戻す結果と理解されています(ただし未だ完全には理解されていません)。



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