トピックス「チェレンコフ・テレスコープ・アレイ(CTA)大口径望遠鏡1号基 完成記念式典を開催後、試験運転を開始」

チェレンコフ・テレスコープ・アレイ(CTA)大口径望遠鏡1号基 完成記念式典を開催後、試験運転を開始

チェレンコフ宇宙ガンマ線(CTA)グループ
2018.10.11

 超高エネルギーのガンマ線天体を観測する次世代望遠鏡であるチェレンコフ・テレスコープ・アレイ(CTA)大口径望遠鏡1号基が、スペインのラ・パルマ島のCTA北サイトに完成し、10月10日午後(日本時間の10日夜)の記念式典に、日本を含む各国の関係者200人以上が出席しました。式典終了後、来年4月の本格稼働を目指し、試験運転が開始されました。CTA計画は国際共同研究プロジェクトであり、ガンマ線天文学を飛躍的に推し進め、高エネルギー宇宙物理学の世界に革命をもたらすだけでなく、天文学や素粒子物理学の幅広い分野にも大きな貢献ができると見込まれています。

ラ・パルマ島の山頂付近に完成したCTA大口径望遠鏡1号基

  CTAが捉えようとしているのは、大気中に突入したガンマ線による空気シャワーが放つチェレンコフ光です。従来の観測装置では、宇宙の誕生から66億年後の宇宙しか観測できませんでしたが、感度を10倍に向上させ、観測可能なエネルギー領域を20GeV-300TeV に拡大し、宇宙誕生後16億年の若い宇宙の姿を見ることができるように計画されています。これにより、1000個を超える超高エネルギーガンマ線天体が新たに発見され、宇宙線の起源と生成機構の解明や、ブラッックホール、中性子星近くの物理現象の解明などに役立つことが期待されます。さらに最近では、質量がTeV領域にあると予測されるダークマターの発見にも大きな役割を果たすことが期待されています。

 使われる望遠鏡は、観測可能なエネルギー領域が異なる大口径(直径23m)、中口径(同12m)、小口径(同4m)の三種類で、スペインのカナリー諸島ラ・パルマ島に北半球サイト、チリのパラナルに南半球サイトを整備し、大口径8基、中口径40基、小口径70基の計118基を建設する計画です。世界31カ国から1,400名を超える研究者が参加しており、日本でも2009年にCTA-Japanコンソーシアムが結成され、東京大学、青山学院大学、茨城大学、大阪大学、北里大学、京都大学、近畿大学、熊本大学、高エネルギー加速器研究機構、甲南大学、埼玉大学、東海大学、東北大学、徳島大学、名古屋大学、広島大学、宮崎大学、山形大学、山梨学院大学、理化学研究所、立教大学、早稲田大学の研究者や大学院生127名が参加しています。

 大口径1号基はCTA計画で実用化される最初の望遠鏡で、日本、ドイツ、スペイン、イタリア、フランスの国際共同研究で設計・建設が行われてきました。建設は2015年10月から始まり、2017年1月にコンクリート製の土台が完成。支柱や巨大な皿状の構造、カメラを設置するためのアームなどが相次いで設置され、2018年2月にほぼ完成しました。さらに、8月までの間に198枚の分割鏡が取り付けられ、9月下旬に鏡に反射したチェレンコフ光を捉える高性能カメラも設置され、試験運転の準備が着々と進められてきました。

CTA大口径望遠鏡一号基の完成を祝うテープカットが、11人よって行われました

 記念式典は現地時間の10日午後、関係者200人以上が参加し、カナリー宇宙物理学研究所(IAC)のロケ・デ・ロス・ムーチャチョス天文台内のCTA北サイトで行われ、東京大学宇宙線研究所の梶田隆章所長、CTA大口径望遠鏡研究責任者の手嶋政廣教授、東京大学の羽田正理事・副学長のほか、ラ・パルマ島のAnselmo Pestana大統領、スペイン政府のPedro Duque科学大臣らが挨拶を行いました。

 

宇宙線研究所 梶田隆章所長の挨拶(和訳・抜粋)


式典で挨拶する梶田隆章・宇宙線研究所所長

 「CTAプロジェクトには、スペイン、ドイツ、イタリア、フランス、そして日本と31カ国から1400人の研究者、技術者が参加しており、国際共同研究により、高エネルギーガンマ線の観測に向けた大規模施設の建設を計画しています。とくに重要なのは、ここスペイン・カナリア諸島のラ・パルマで、CTA北半球サイトの大規模インフラを建設中だということです。多くの日本の研究者、技術者、学生らが国際共同研究の現場で重要な役割を果たし、大口径望遠鏡の建設を進めているのを目の当たりにして、私は大変嬉しく思います。ここ数年、マルチメッセンジャー天文学が提唱されており、CTAも間違いなく、ニュートリノ、重力波、宇宙線の観測とともにその重要な一角を担うことになるだろうと確信しています。それが宇宙の神秘を解き明かすことにつながるのです。

 ご存知の通り、LIGO、Virgoは重力波観測で成功を収めました。東京大学宇宙線研究所も神岡鉱山でKAGRA重力波観測施設の建設を進めており、多数の施設による同時観測で宇宙物理学における重力波観測を進歩させたいと考えています。重力波とガンマ線の同時観測が間もなく実現することでしょう。

 今からちょうど3年前の2015年10月9日、私はここで開かれた大口径望遠鏡の起工式に、スペイン政府国務長官(当時)のCarmen Velaさん、Rafael Rebolo教授とともに出席しました。私はこうして最初の大口径望遠鏡を拝見することができて大変幸せです。このような素晴らしく美しいCTA大口径望遠鏡を作った研究チームの方々に、心からお祝いの言葉を贈ります。とても大きく素晴らしい望遠鏡ですが、これは大規模な望遠鏡群であるCTAアレイの最初の一歩に過ぎません。数年後にこの場所に再び立ち、CTA望遠鏡が全て建設された北半球サイトの光景を見てみたいと、強く希望しています。」

 

宇宙線研究所 手嶋政廣教授の挨拶(和訳・抜粋)


式典で挨拶する手嶋政廣・宇宙線研究所教授(名古屋大・奥村暁氏の撮影)

 [2005 年にHESS、MAGIC 後の究極の高エネルギーガンマ線望遠鏡をつくろうということで、現在のCTA スポークスパースンのWernerHofmann 博士、Manel Martinez 博士らとCTA プロジェクトの議論を開始しました。13 年前の話です。最初の会議は2005 年に、ドイツベルリンのマックスプランク のハーナック会議場で50-60 名の将来のガンマ線天文学の将来の発展に深い興味をもつ研究者が集まり会議が開かれました。その時はちょうど、HESS、MAGIC が動き出し、非常に興味深いデータが出始めたころでした。宇宙線の起源天体である超新星残骸、パルサー星雲、超大質量ブラックホールからのガンマ線放射がどんどん明らかになりました。

 現在CTA コンソーシアムは31 の国から1400 名以上の研究者が集まり、装置開発、プロトタイプ望遠鏡の建設をすすめています。CTA-LST サブコンソーシアムは200 名以上の研究者が9カ国から集まり、このラ・パルマ、スペインの地に4基の大口径望遠鏡を建設しています。CTA 北の4基の大口径望遠鏡の予算は、フランス、ドイツ、イタリア、日本、スペインの国々の政府から強いサポートを受け、ほぼ確保しています。これらの国々の政府機関に大変深く感謝したいと思います。また、この大口径望遠鏡建設にあたっている、およそ200 名の若手研究者、エンジニアに感謝いたします。志のあるこれら若手研究者、エンジニアなくしてはこの建設は不可能です。この美しい大口径望遠鏡1 号基をご覧ください。私は個人的に大きな望遠鏡、大きな装置が好きですが、この望遠鏡は単に大きいだけではなく、いろいろなところに、例えば、光学装置、電子回路、光検出器、較正システムなどに、最先端の技術を駆使して作られました。

 我々はMAGIC, HESS, VERITASから多くのことを学び、さらに改良を加えることにより、この大口径望遠鏡を開発、建設してきました。これらの改良により、我々は現在運用されている望遠鏡と比べ一桁高い感度を達成しようとしています。

 本日我々は1号基の完成を祝っていますが、さらに3台の望遠鏡を3年で建設しなければなりません。これらの努力は、将来のCTA北、CTA南望遠鏡アレイへの完成へ向けての最初の第一歩を踏み出したばかりといえます。引き続き、皆様の力強いサポートの協力、努力をお願いいたします。これにより我々は非常に重要な施設を宇宙素粒子物理の科学コミュニティーに提供し、社会に重要な科学成果を還元し、多くの宇宙の謎を解明することできると確信します。」