チベット ASγ 実験

宇宙線変動の観測 (Cosmic Ray Modulation)


太陽圏近傍

コンプトン-ゲッティング効果の観測:

雨の日に傘を持って歩いていると止っている時よりも前方から多く雨が当ります。 これと同じような現象が太陽の周りを公転している地球にも起っています。 これをコンプトン-ゲッティング (Compton-Getting) 効果と呼びます。 当然我々が観測するのは雨ではなく、宇宙線。 1999 年から 2003 年までの期間に Tibet III 空気シャワー観測装置によって観察された宇宙線強度 の太陽時変化について調べました。12 TeV 、6.2 TeV の高エネルギー側のデータより、地球が太陽の 周りを回る軌道運動により起こる宇宙線強度の増減 (コンプトン-ゲッティング異方性) が予想値と実験 結果でよく一致する結果がこれまでにない精度で得られました。 しかし、 4.0 TeV というより低いエネルギーのデータによる結果は予想される異方性と一致しなか ったのです。 (図 1) これは例えば太陽磁場に起因する低エネルギー宇宙線強度の異方性が 4 TeV 付近のエネルギーの宇宙線という予想以上に高いエネルギーまで影響を及ぼしているためかもしれません。 現在このような高統計で TeV 領域を観測できているのは、本装置のみです。 今後は太陽活動静穏期での観測結果を待ち望んでいるところです。 さらに低エネルギーでの変動がどうなっているのか、ということも又研究していきたいと思っています。


図 1 Tibet III による太陽時日周変動 (365日) 図 2 Tibet III による反恒星時日周変動 (364 日)と拡張恒星時変動 (367日)
図 1 Tibet III による太陽時日周変動 (365日) 図 2 Tibet III による反恒星時日周変動 (364 日)と
拡張恒星時変動 (367日):
(物理的意味を持たないと思われる系では変動は観測されず)


太陽活動と銀河宇宙線による「太陽の影」の変動の観測:

太陽、地球間の磁場構造はどこまでわかっているのでしょうか? 現在、人工衛星や地球からの観測により太陽地球間の磁場が局所的に精度良くわかっています(図 3)。 しかし、大局的な太陽磁場構造はまだよくわかっていません。 電荷をもつ宇宙線は磁場により曲げられるため、太陽と地球の間の磁場の影響で影が真の太陽方向からずれます。 図 5 は我々の装置で観測された「太陽の影」の年変化です。1991 〜 92 年は太陽の活動期で、静穏期 (1996 〜 97 年) と比べるとその影が太陽方向から大きくずれているのが分かります。 我々の観測では局所的磁場を積分した結果を見ることになります。 現在このように太陽地球間の積分磁場を観測できる装置は、世界で本装置のみです。 この実験により、今まで観測方法がなかった太陽活動と太陽惑星間の磁場構造についても貴重なデ−タが得られる ものと期待しています。


図 3 各検出器の磁場観測地点 図 4 地球軌道の星間磁場変動
図 3 各検出器の磁場観測地点 図 4 地球軌道での星間磁場の変動

図 5 太陽の影の年変化
図 5 太陽の影の年変化