トピックス「キャンパス一般公開・詳報 ありがとうございました!!」

宇宙線研究所に1683人、サテライト会場にも204人が来場

―2019年10月25・26日 東京大柏キャンパス一般公開で

2018.11.7

 東京大学柏キャンパスの一般公開が10月25、26日開かれ、梶田隆章所長の講演会のストリーミング中継などを行なった宇宙線研究所にも多くの方々が訪れました。25日は台風21号の影響で大雨だったものの、26日は秋晴れに恵まれ、来場者は計1683人でした。誠にありがとうございました。

1階テントの受付コーナーに多くの参加者が、整理券を求めて集まりました。

梶田所長の講演会には計300人以上が参加

 梶田所長の講演会は26日午後、「Kashiwa-no-ha Innovation Fes.(柏の葉イノベーションフェス)」のオープンニングイベントとして柏の葉カンファレスセンターで行われ、本会場には204人が出席。インターネット回線を通じ、宇宙線研究所6階の大セミナー室と、岐阜県飛騨市神岡町のひだ宇宙科学館「カミオカラボ」の2カ所に生中継され、大セミナー室では100人ほどが集まり、スクリーンに映し出された講演の様子に注目しました。

 梶田所長は「ニュートリノで探る宇宙の謎」と題して講演。まず、ニュートリノについて、「電子から電荷と質量を除いたような素粒子」「3種類ある」「長い間、質量がないと思われてきた」と説明したうえで、「(ごく稀に)原子核と衝突し、電荷を持った別な素粒子が出てくる。それが水の中を走ると、光を放出するため、この光を観測してニュートリノのことを調べることができます」と述べました。

ストリーミング中継が行われた6階大セミナー室。約100人近くが詰めかけた

謎を解き明かすような「ワクワク感」があった

 さらに、新しい素粒子の理論で予言された陽子崩壊を探す目的で1983年に始まったカミオカンデ実験で、大気の中で作られたニュートリノが「ノイズ」として観測されたこと、解析プログラムのミスを疑い、このノイズに埋もれているはずの陽子崩壊の信号を探したが見つからなかったこと、「ミューニュートリノが予測より少ない」という観測から得られた結果を論文にしたところ、世界的に評判が悪かったことなどを、当時のことを再現するように克明に語りました。

 そして、この問題を重要に感じ、謎の解明に専念した当時について、「研究者としては、このころが一番楽しかったと思います。何が起きているか分からないのですが、私たちが知らない謎に直面し、解き明かすようなワクワク感がありました」と、実感を込めて語りました。

柏の葉カンファレンスセンターで講演する梶田所長

 カミオカンデでは1987年、超新星ニュートリノを世界で初めて観測し、小柴昌俊名誉教授のノーベル物理学賞につながりましたが、「重要だったのが直径50センチの光検出器です。これはカミオカンデの実験のために企業と協力し開発されたものですが、こういう新しい特徴を持ったときに、今までにない新しい成果が出るのだと思います」とも述べる場面もありました。

6階大セミナー室の外のテレビモニターにも中継の様子が流れた

ニュートリノ振動の「決定打」、さらに宇宙の謎へ

 現在のスーパーカミオカンデの実験が1996年から実験が始まり、2年間のデータを解析。すると、神岡上空から来るミューニュートリノの信号が予測と同じなのに対し、地球の裏側からやってきたミューニュートリノの信号が予測より少ないことがわかり、「ニュートリノが飛んでいるうちにタイプ(種類)を変えたことが裏付けられ、理論で予測されていたニュートリノ振動が起こっていて、ニュートリノに小さいながらも質量があることが決定的となりました」と、自身の2015年ノーベル物理学賞の受賞につながる研究の過程を振り返りました。

 この宇宙にはかつて、物質と反物質が同じ量だけあったはずなのに、なぜか現在は物質しか残っていないという大きな謎があります。この謎を解くためには、茨城県東海村のJ-PARKにある加速器で発生させたニュートリノビームを、次世代のハイパーカミオカンデに打ち込む実験が不可欠であることに触れ、「基礎科学研究は、短期的には我々の生活の改善には結びつきませんが、その一部は長い目で見れば、人類の大きなイノベーションの源泉ですし、そうでなくとも我々の知的好奇心を刺激し続けてくれます。今後ともぜひ応援をよろしくお願い致します」と呼びかけました。

若手研究者がうちゅうカフェで登壇

 続いて若手研究者によるイベントも行われ、特任研究員(ICRRフェロー)の平松尚志さん、学振特別研究員の林航平さん、学術支援専門職員の猪目祐介さんが、自らの興味や研究について語りました。

うちゅうカフェで講演する平松さん

平松さん 宇宙初期をシミュレーションで再現

 平松さんは、当時のパソコンで円周率の計算に明け暮れたという小学生時代から、発表の題目に掲げた「宇宙論的背景重力波と初期宇宙論」という現在の研究テーマまでを、淡々とした口調で振り返りました。

 東京大学の学生時代、観測的宇宙論の第一人者である須藤靖教授に師事した際、「観測的宇宙論はもう良い。究極の宇宙論は太陽系外惑星。 君もやらないかい?」と言われ、思わず拒否したものの、2019年のノーベル物理学賞が太陽系外惑星を研究していた二人の外国人に贈られたことを見て、「先生のアドバイスは素直に受け取った方が良かったのかも」と当時を思い返したこと、同じ研究室の樽屋篤歴史・助教(現・京都大学准教授)の助言で「重力波」をテーマにすることにしたこと。

 そして、インフレーションなどによって生じた背景重力波をコンピュータ・シミュレーションで再現し、宇宙が生まれた時に何が起きたかを探る研究について解説し、「超弦理論で予測される高次元空間に重力波が逃げた様子や、粒子の“ごった煮”であるビックバンの時、粒子同士がぶつかり生じた重力波がどんなものかがわかれば、“ごった煮”の中身がわかります」と語りました。

 また、2027年に計画されるLiteBIRD衛星の打ち上げ、2030年代に計画されるLISA, DECIGO, 天琴による背景重力波の観測が実現すれば、「背景重力波による観測的宇宙論が構築され、宇宙がどのように生まれたかがわかり、量子重力理論、大統一理論も完成するかも知れず、私はこうした夢のような研究をしています」と締め括りました。

楽しそうに自分の研究について語る林さん

林さん 高校球児からダークマター探索へ

 続いて登壇した林さんは、高校時代は野球に打ち込み、春のセンバツ甲子園大会に出場したこと、大学の選択に迷いながらも生まれ育った岩手県一関市の「満天の星空」に魅了されて宇宙の研究を志し、弘前大、東北大大学院と進学したこと、東日本大震災のポランティアを行いながら研究を続けたことなど、ユニークな生い立ちについて語りました。

 博士号取得後は、東京大学Kavli IPMU、北京大学カブリ天文・天体物理研究所などを経て、ICRRの研究員となり、ミクロなダークマター(暗黒物質)の正体を、マクロな銀河の観測から解き明かす研究テーマを追い続ける生活に。

 「ダークマターはシグナルが見つかれば、世紀の大発見と言えます。これを日本がリードする最先端の天文観測装置、CTA (チェレンコフ望遠鏡アレイ)を使って観測するというもので、私はダークマターの対消滅しやすい場所、つまりダークマターがたくさんある銀河を、すばる望遠鏡を使って探し出すことを研究テーマとしています」

 また、林さんは研究を目指す若い学生に対して、「研究に限らず興味を持ったこと、楽しいと思ったことを仕事にできれば最高で、大変なことや辛いこともありますが、それ以上に楽しい、面白いと思えるからこそ、今の研究ができています。周りのみんなを大切にしつつ、自分がやりたいと思ったことをまずやってみたらいかがでしょうか」と呼びかけました。

PMTを使った実験機器について熱く語る猪目さん

猪目さん 大好きなPMTを使った研究プロジェクト

 最後に登壇した猪目さんは、3歳でビデオデッキの使い方を覚え、中学でラジオ作りに熱中。高校時代に教材で、スーパーカミオカンデがPMT(光電子増倍管)を使って目に見えない粒子を検出していると知り、甲南大学でPMTを使った研究ができる宇宙粒子研究室に所属したこと。さらに、自動車部とバイク部を兼務し、自動車、バイクの部品に囲まれて生活していたことなどを紹介。

現在所属するCTAについて、「高くて、幅広いエネルギー領域のガンマ線を観測することで、宇宙を知るための徹底的な計画で、宇宙の深いところまで観測できるプロジェクトです」と説明。

 CTAの望遠鏡では、ガンマ線が大気中と衝突したときに出るチェレンコフ光を、鏡に反射させてPMTで捉え、シャワーの画像として記録するため、通常のデジタルカメラよりも100万倍も高速の電子回路を搭載しています。

 「これらのシステムが思った通りの速さで動き、情報が取れているかについて、試験的に光を当てて検査しています。この装置を評価するための機械 (パルスレーザーで1兆分の1秒)は買うと100万円するのですが、私が考案した方法だと同じ性能が2〜3万円で出せてしまうという意味で、プロジェクトに大きく貢献していると思います」と語りました。

うちゅうラボ「霧箱で宇宙線を見る」「重力波望遠鏡を作ろう」も

  うちゅうラボ①「霧箱で見る宇宙線からのメッセージ!」は、今年から大セミナー室に場所を移し、一度に30組を受け入れ1日2回開催。幼稚園生から大人まで計100組以上が参加しました。TAの大学院生が最初に、「宇宙線とは何か」、「霧箱で宇宙線を見るための手順」を説明し、内部にアルコールを浸したプラスチックケースをドライアイスで冷やし、懐中電灯で照らして観察。宇宙線が通った後に生じる霧を見つけ、「見えた!」「これは何が見えているの?」などの歓声があがり、大学院生が「宇宙線の飛跡に霧が集まり、線のようになって見えます」などと一つ一つ丁寧に説明していました。

  

霧箱の中を懐中電灯で照らし、それぞれ宇宙線を探す

 うちゅうラボ②「重力波望遠鏡を作ろう!」は昨年同様、初日の25日だけ、大セミナー室に8グループを受け入れ、2回開催。大雨の中、学校見学などで参加した中学生・高校生ら約60人が、卓上でレーザー干渉計を組み立て、音楽を聴く実験に参加しました。まず、TAの大学院生が、「重力波とは何か」、「どのように観測するのか」、「レーザー干渉計の仕組み」などについて説明し、あらかじめ8割の組み立てが終わったキットを使う初級コースと、一から組み立てるキットを使う上級コースを選んでもらい、一斉に組み立て作業に着手。短い時間での組み立て作業は難しいため、TAの大学院生、教員の助けを借りながら、20〜30分ほどかけて完成しました。レーザー光が干渉を起こしている状態で、スマートフォンからの音楽の振動が光の干渉で伝わる様子を確認すると、「おー!」「かすかに聞こえた!」などの声が沸き起こりました。

グループで実験用の干渉計を組み立てる中高校生たち

初めてのVR体験に興奮

 「VRで神岡鉱山を体験しよう!」は、1日につき55人分の整理券がすぐになくなるほどの人気ぶり。神岡鉱山探検に加え、CTA望遠鏡、ALPACA実験、TA実験の映像・写真などを加えたコンテンツに対し、参加者たちは10分間の持ち時間で体験に臨みました。SK内部の写真を360度画像で見た参加者からは「わー、すごい」と言った感嘆の声も聞かれました。

VRゴーグルで3Dの実験装置を堪能する参加者

うちゅうの展示コーナー 研究者が丁寧に説明

 6階の回廊には、宇宙ニュートリノ研究部門、高エネルギー宇宙線研究部門、基礎物理学研究部門に所属する11プロジェクトが個別ブースを設置。研究者が交代で立ち、説明パネルや写真、実験に使われる模型を示しながらプロジェクトについて説明し、家族連れや学生からの質問に答えていました。

最高エネルギー宇宙線のプロジェクトを模型などで紹介する研究者

説明を聞きながら、ハイパーカミオカンデなどの模型を見学する参加者

各メンバーの研究を紹介した観測的宇宙論のコーナー

宇宙線に反応するスパークチェンバーに興味を示す参加者も